「記憶力の低下」の自覚があれば認知症ではない!? Rawpixel/PIXTA(ピクスタ)

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 社会の高齢化とともに、認知症患者も増えている。認知症高齢者は、2012年の時点で全国に約462万人いると推計されている。厚生労働省が今年1月7日に発表した推計によると、2025年には700万人を超える。65歳以上の高齢者のうち、5人に1人が認知症になる計算だ。約10年で1.5倍にも増える見通しだ。

 社会的な問題となっている認知症において、主な症状が知的能力の低下。初期には記銘力(新しいことを覚える)障害、記憶力障害がみられ、進行が進むにつれて見当識(現在の年月や時刻、自分がどこにいるかなど基本的な状況の把握)障害以降の症状が現れる。

 認知症になる人は、本格的な発症の2〜3年前から徐々に自身の記憶障害を認識しなくなる――。記憶障害の特徴のひとつが、新たな研究で判明した。米ラッシュアルツハイマー病センター(シカゴ)のRobert Wilson氏によると、このことは以前から疑われていたが、これまで明確に示されたことはなかったという。

 「自分の記憶力に不安があるとわかっている人は、認知症ではない。将来必ず認知症になるというわけでもない」と同氏は話す。

 『Neurology』(8月26日号)に掲載されたこの知見は、2100人強の高齢者を10年以上にわたり、毎年評価したデータに基づくものだ。対象者に「記憶力と思考力」の標準的な検査を実施するとともに、「物忘れで困ることはどのくらいありますか」などの質問をして、自身の認識を示してもらった。

「もの忘れがあるという自覚」は発症2〜3年前になくなる

 研究期間中に239人が認知症と診断され、患者は発症の平均2〜3年前から、自分の記憶障害を自覚しなくなることがわかった。

 Wilson氏によると、「認知症発症の定義ははっきりしないが、単なる物忘れにとどまらない症状が根拠となる。認知症になると一般に言語、集中、計画に問題が生じ、日付や自分のいる場所がわからなくなることも多い」という。

 今回の結果は、「研究者らがすでに気づいていた問題を『厳密な分析』によって裏付けるものだ」と米南フロリダ大学医学部のDavid Morgan氏は述べている。この知見が意味するのは、「自分に問題があると思っていない人は、助けを求めることも少ない」ということだと同氏は指摘し、「近親者が認知症の徴候に敏感になることが重要だ」と付け加えている。

 Wilson氏もこれに同意し、「母親がときどき鍵をどこかへ置き忘れることがあっても、慌てて医者に行く必要はない。だが"あるパターン"の記憶力低下がみられ、本人がそれに気づいていないようなら危険信号だ」と述べている。

早く気づけば将来の計画を立てることもできる

 最新のアメリカの医療関連法では、メディケア(公的医療保険制度)が認知機能障害の検査に保険を適用することになっている。しかし、実際は医師が「もの忘れはどうですか?」と尋ねるだけで、「それでは不十分だ」とMorgan氏はコメントしている。

 認知症の治療法はないが、症状を軽減したり進行を遅らせたりする薬剤があり、新しい治療法の臨床試験に登録することもできる。やはり早期発見は重要だ。「早く疾患に気づけば、意志決定の能力があるうちに将来の計画を立てることもできる」と同氏は指摘している。

 もの忘れは、誰にでも起こることで、加齢によってもその頻度は増えていく。だが、認知症では、新しく記憶することができなくなっていくからその頻度が増す。そして、記憶障害とともに、趣味など関心のあったものごとに対しても、意欲ややる気が失われたり、情緒や性格に少しずつ変化がみられるようになる。

 認知症は初期の対応が大切だ。「どうせ治らないから、医療機関に行っても仕方ない」というのは、誤った考え。別の原因が隠れていたり、治る病気や一時的な症状の場合がある。早期の受診・診断・治療は、認知症において非常に重要だ。初期に発見されることで治療が可能であったり、進行を防ぐことができるものも多い。
(文=編集部)