R2-D2とBB-8。そのデザインと親和力〜『WIRED』Vol.18「スター・ウォーズ」特集に寄せて

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2015年9月10日発売の『WIRED』日本版VOL.18「『スター・ウォーズ』新たな神話のはじまり」。物言わぬロボットたちに、人々を共感させるというイノヴェイティヴな営為を、スター・ウォーズは40年にわたり続けてきた。そんな彼らのナラティヴとデザインは、いまテクノロジーに必要な「親和力」を引き出すヒントを与えてくれる。本号発行に寄せ、弊誌編集長からのメッセージ。

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『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』に登場する、コロコロ走るロボット「BB-8」のオモチャが編集部に届いたので、早速遊んでみた。コロコロとサッカーボールのように本体を走り回らせながら、マグネットでくっついたアタマがゆらゆら揺れるのがかわいい。実にかわいい。スマホで制御するオモチャ、には違いないけれど、もうあと一歩の努力で、立派にそのままロボットと呼べるものになりそうだ。

ところで、MITで開発された卓上型のコミュニケーションロボットに「JIBO(日本語版記事)」というがある。そのデモンストレーション動画に、さまざまな映画からロボットの映像が挿入されるのだけれど、そこにスター・ウォーズシリーズきっての人気者であるR2-D2やら、ピクサーのウォーリーの姿なんかがあって、ぼくは「ああ、そうか」と思ったのだった。なるほど、お手本はやっぱりそこにあったのね、と(どちらかというと、JIBOはウォーリーの恋のお相手であるイヴに似ているのだが)。

いま、シレっと「シリーズきっての人気者」と書いたけれど、本当は、もっとこのことに驚いていいはずだ。R2-D2と言えば、音声に表情と呼べるものはあるものの、基本なんの言葉も発しない。明示的なメッセージといえば、せいぜいピコピコ光るのと首を左右に振るくらい。ウォーリーにしたって、手と眼があるのでもう少し表情豊かなれど、基本的な建付けはあんまり変わらない。そのくせ大の人気者なのだ。

ここで、ILMやピクサーがやったことは、実際は、とてもチャレンジングなことではなかったのだろうか。つまり、ただその辺をウロウロしてるだけの言葉も発しない人工物を、どうやって、人が共感し、もっと言えば愛しうるものとして存在させるのか。聞けばなんてことはない問いかもしれない。しかし、果たして、それは(フィクションとしてであっても)本当に易しいお題なのだろうか。例えば、ドラえもんが言葉をもたず、顔や手の表情もなかったとしたら、どうだろう。それに「主役を張らせる」ことには、やはり、それなりに困難がつきまとったのではないだろうか。

映画『ウォーリー』は、冒頭約15分近くにわたって、ロボットのウォーリーが誰もいない惑星で、たったひとりでゴミの片付けに勤しんでいるシーンが続く。その間、当然セリフはひとつもない。しかし、その時点で、すでにいじらしさを感じて、泣けてくる。なんだってたったこれだけで泣けてくるのか。そこには単に作画上・演出上の技巧と片付けてしまうわけにはいかない何かがある、とぼくはみる。

より効果的に、より効率的に、人の感情を動かすために、ロボットの外見や挙動をどのようにデザインするか。それを追求することは、人が何に対してどのように「親和性」(affinity)を感じるのかを知ることでもあるはずだ。それは認知と共感の構造をめぐる科学的探究ですらあるかもしれない。J.J.エイブラムスは、本特集のなかで、ILMを「アーティストであると同時にプロのリサーチャーで科学者でもある集団」と呼んでいるが、ピクサーもまたそうなのだろう。

もちろん、これらのキャラクターの「好感度」によって興行の成否が決まる以上、徹底した分析や検証がなされるのは、当たり前だ。けれども、逆に、物言わぬロボットへの共感がビジネスのすべてを決めてしまうからこそ、「好感度」のデザインには、ほかのあらゆるデザインと較べてさらに厳しい要件が課せられているとも言える(だってそいつには観客を「共感させる」以外には、なんの機能も使命もないのだ)。

ぼくの知人は、お掃除ロボットのルンバが大好きで、なんなら結婚したいくらいだ、と冗談めかして言っている。人間はそんなものにすら共感を抱くことのできる不思議な動物だ。そして、その不思議を通して、ぼくらは、映画のなかの物も言わない鉄の塊に心情的にコミットする。ルンバが、R2-D2を参照しつつ設計=デザインされたかどうかは知らないけれど、それは、間違いなくR2-D2と同じ回路を通して、人の感情に何かを訴えている。

MIT発のコミュニケーションロボットが、R2-D2を参照したのは、その意味でも間違いなく正解だ(言葉を話すのがやや興ざめだが)。コミュニケーションロボットの使命が、人からその親和力を引き出すことなのであれば、40年にわたって世界中の人々から共感を引き出してきたR2-D2の実力は、とっくに証明済みといっていい。

特集の巻頭で音楽家のグライムスが寄せた「スター・ウォーズへのラヴレター」のなかで、彼女は、戦争や暴力を包み込む「癒やし」として、C-3POとR2-D2の存在を語っている。彼らの存在なくして、ぼくらは果たしてこの映画に、これほど共感できただろうか。グライムスの言う通り、この「ふたり」の存在は映画のナラティヴの観点から言っても、必要不可欠なまでに効果的だ。人から親和力を引き出すスター・ウォーズのナラティヴと、それを実現するためのデザインに、いま改めて学ぶことは多い。

たえず揺れ動く人の感情や思いをつかまえて正しく寄り添うことが、いま、テクノロジーのデザインに求められていることならば、そのヒントを映画から学ぶことは、的外れでもなんでもない。なんといってもそこは、人間の感情や共感という得体のしれない何かを扱うことにかけてずっと主戦場のひとつでありつづけてきたわけだし、それを通して「共感」をめぐる表現や、それがもたらす感覚を常に拡張してきたのだ。

どだい、見たこともない架空の場所を一からでっち上げ、見たことのない生き物や物体をそこに放り込んで、それでもってリアルに感情を動かすというのは、とんでもなくイノヴェイティヴな営為だ。本特集で、ルーカスのSFXラボ「ILM」(ピクサーはここから生まれた。ついでに言うとPhotoshopもだ)の40年にわたる歴史と、J.J.エイブラムスの作劇法やナラティヴについて多くの誌面を割いているのは、そのことをことさら称揚したかったからだ。

コロコロと走り回るロボットに、ぼくらはきっとくすりと笑わされ、うっかりしたら涙をしぼりとられることにだってなるかもしれない。J.J.エイブラムスのスター・ウォーズにぼくが期待しているのは、ナラティヴとデザインとが絶妙に交差するところから生まれる、そういう新しい「共感」なのだろうと思っている。

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