「なぜ日本はこの数年で強くなったのか?」

 リオ五輪のアジア地区予選を兼ねた女子アジア選手権。決勝では日本がアグレッシブなディフェンスと走力を発揮し、85-50で中国に圧勝。アジア2連覇を飾るとともに、3大会ぶりの五輪切符を獲得した。まさしく、内海知秀ヘッドコーチ(HC)がテーマに掲げていた「勢い」が出た結果だ。その爆発力に驚いた中国メディアの冒頭の質問に対し、内海HCはためらいなくこう答えている。

「渡嘉敷来夢というエースがいるからです」

 渡嘉敷は192cmという高さだけでなく、持ち前の運動神経の良さで走力を生かせることが最大の強みだ。国内に敵なしの彼女は、さらなる成長を求めて今年6月からはWNBA(アメリカ女子プロバスケットボールリーグ)のシアトル・ストームに入団。約20分のプレータイムをもらって存在感を示している。これまでスピードと粘りで勝負してきた日本に渡嘉敷来夢という規格外の選手が加わったことは、アジアのライバルにとって脅威だったのだ。

 そんな日本の絶対的エースである渡嘉敷が、WNBAと日本代表の掛け持ちでタフさを身につけることは、日本が世界と対等に戦うためにも、乗り越えていかなくてはならないチャレンジだった。

 しかし、準決勝までは我慢を強いられるロースコアの展開が続く。渡嘉敷がシアトルから合流したばかりですぐには噛み合わず、チームプレーを構築する時間が必要だったからだ。大会前、渡嘉敷とインサイドでコンビを組む間宮佑圭(JX-ENEOS)は「タク(渡嘉敷)が私たちに合わせてほしい」と要求していたが、苦戦した予選ラウンドのチャイニーズ・タイペイ戦のあとはその戦い方を軌道修正している。

「私たちは6月からチーム練習をしているのに、直前に合流したタク(渡嘉敷)にすぐに合わせろというのは、難しいとやっているうちに感じました。タクは試合の流れを読むのがうまいので、要所で好きに1対1をやってくれればいい。そうした上でインサイドがチームの軸になれるように、私自身も吹っ切ります」(間宮)

 迷いを断ち切った渡嘉敷は、予選ラウンドと決勝の二度にわたる中国戦で威力を発揮。決勝では中国の高さを抑えるディフェンスを冷静にやり遂げ、18得点、7リバウンド、2ブロックショットと活躍。大会を通してチーム力を構築していった日本はついに爆発した。司令塔の吉田亜沙美(JX-ENEOS)がスピード感あるゲームを作り、間宮がディフェンスとリバウンドでチームを支え、本川紗奈生(シャンソン化粧品)と山本千夏(富士通)の両ウイングが躍動。そして最後に絶対的エースの渡嘉敷が融合し、日本のテーマである"勢い"が出た。

 大会前に「自分がやってやる!」と宣言していた渡嘉敷は、心から欲していた金メダルを胸にしたとき「日本を背負うということはこういうものなんだ」と、みずからに言い聞かせていた。大会終了後、シアトルに戻る直前に聞いた渡嘉敷来夢の声を紹介する。

―― アジアで優勝して今の気持ちは?

渡嘉敷来夢(以下、渡嘉敷):勝ててよかった。今はホッとしています。

―― オリンピック出場を決めたことに実感は沸いていますか?

渡嘉敷:今は実感が沸かないです。とにかく、勝たなきゃ、勝たなきゃというプレッシャーが大きくて、今はそのプレッシャーから解放されたことにホッとしています。やっぱり、自分はWNBAでプレーしている分、やらなくてはいけないというプレッシャーがすごくあったので、そんな中で勝てたことに涙が出そうなくらいにうれしいです。

―― 我慢の展開が続いた大会の中で、決勝で"走り"が爆発した要因は何だと思いますか?

渡嘉敷:気持ちですね。自分自身は「絶対に決めてやる!」と思ってやっていましたが、みんなの気持ちもすごく強かった。その気持ちの強さがディフェンスからの速攻という形で何本も出て、それはもう、今までの試合とは比べものにならないくらい良かったです。自分はこのチームに2週間しかいなかったけど、みんなが3カ月間走り込んできたことが出せたのがうれしかったし、私もアメリカでやってきたことをみんなに見せることができました。お互いにプレーしている場所は別々でしたが、やってきたことを出し合えたことが、爆発した結果になったと思います。

―― 渡嘉敷選手らしさが出てきたのは予選ラウンド4戦目の中国戦から。自分の良さを出すために何かを変えたり、また、変えるきっかけとなったことがあったのでしょうか?

渡嘉敷:それは周りのプレッシャーです(苦笑)。いやほんと、このままでは、「お前何しに中国に来たんだよ」と言われてしまう重圧が半端なかったです。自分は自分にプレッシャーをかけるクセがあるんです。みんなはそこまで思わなかったかもしれないけど、自分はそれくらい思わないと、何のためにWNBAに行って、何のために日本代表に戻ってきたのかと、自分自身に納得がいかなかった。合流して最初のほうはうまくいかないのは当たり前じゃないですか。チームメイトやコーチたちと話をして助けてもらい、そこは割り切るしかないと思いました。

―― 大会前から、WNBAではスクリーンをかけたあとに外に出る「ポップ」、日本代表では中に入っていく「ダイブ」が求められて、その違いに迷っていると言っていました。そういったチームの決まりを徹底していくのではなく、好きにやろうと割り切ったということですか?

渡嘉敷:はい。型にハマらずに、自分のやりたいようにやりました。まずボールをもらったらリングを見て攻めることを忘れずに、場所はどこからでもいいので1対1ができるということを見せたかった。気持ちが吹っ切れてからはそれができましたね。

―― アメリカで学んだことで今大会出せたことは何ですか?

渡嘉敷:高さとタフさは出せたと思います。中国にはWNBAと同じくらい大きな選手がいるんですけど、アメリカのほうが体が強いし、アグレッシブに当たってくるので、中国の選手とマッチアップしても大変だとは感じませんでした。そういった部分ではアメリカでプレーして本当によかった。特にディフェンスをしていてそう感じました。

―― それは、たった3カ月間の渡米でも手応えを感じるものでしたか?

渡嘉敷:はい。全然違いますね。向こうでは1対1をしたら容赦なく吹き飛ばされるんです。この大会でもそういう場面はあったんですけど、相手が嫌がるディフェンスはできたと思います。アメリカでもディフェンスを売りにしているので、そこは日本代表に入ってもみんなに迷惑をかけることなく、ディフェンスができましたね。チャイニーズ・タイペイ戦を除いては(苦笑)

―― その悪かった準決勝のあとも切り替えができていました。決勝では「気持ちが違った」と言いましたが、WNBAでプレーしたことで精神的に強くなったと感じることはありますか?

渡嘉敷:それはあります。試合を重ねていくうちに、自分自身をしっかりとコントロールできたり、仲間をコントロールすることを覚えたのかなあ......と思います。緊張感やプレッシャーがありながらも、不思議と自分に余裕があったんですよ。そこは今まで感じたことがないところでした。ダメなプレーをしても、また次やればいい、切り替えようって思うようになりましたね。WNBAにいるとへこんでいる時間がないんです。ストームは連敗が続いていて、それを引きずっているとメンタルがやられてしまうので、切り替えて前に前に進んでいかないとやっていられないんです。あとは自分を信じることをアメリカでは強く言われているので、信じてやることが大切なんだと、大会を通して思えるようになりました。

―― ホッとしている反面、プレッシャーを乗り越えてリオ行きを決めた達成感みたいなものは感じていますか?

渡嘉敷:達成感は半端ないです。今までのどの勝利よりも達成感があります。「日本を背負うということはこういうものなんだ」というのを、はじめて実感しました。だからなのか、ホッとした気持ちが強いんだなあって思いました。

―― 日本の走りはリオ五輪でも通用する手応えはありますか?

渡嘉敷:通用します。アジアと世界ではレベルが違うかもしれないけど、でも日本は全員が走れる。それこそ、自分もアメリカで通用するところがあるので、走ることに関してはどこが相手でも通用すると思います。そうなるためにも、自分はこれからも日本の最先端を走っていかなくてはならないし、そう自覚しています。今回は自分がWNBAに行ったことが日本のプラスになったと、少しは言っていいんじゃないかと思います。でもまだまだここは通過点です。

―― このあとは日本に帰国せずに、中国からシアトルへ直行しますね。WNBAで残り3試合での課題、そして来年のオリンピックに向けてやるべきことは?

渡嘉敷:ストームでは自分の良さであるスピードと走りと高さを出すこと。プレーの強さはまだ出せていないので、残りの試合で身につけていきたいです。まだまだもっとうまくなれるし、強くなれると思うんです。今回はMVPをもらいましたが、自分だけの力で獲ったものではなく「みんな、ありがとう」というMVPですよね。次はもっと自分がチームを背負ってMVPを獲るくらいになれば、日本はもっと強くなれると思います。今はWNBAで頑張ること。まずは、帰りの飛行機の中でストームのビデオを見ることから始めないと(笑)

 アジア予選を通じてたくましさが増した渡嘉敷来夢。日本を背負う覚悟ができたエースには、リオ五輪までの残り1年で何をすべきかが見えている。

小永吉陽子●取材・文 text by Konagayoshi Yoko