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【石原壮一郎の名言に訊け】〜はに丸の巻

Q:3年ほど付き合っている彼女がいます。初めてのお店に行くときに、自分は事前にネットでの評価や口コミを読んでからじゃないと安心できません。でも彼女は「行ってみればわかるし、ネットの情報なんてアテにならない」と言って、自分が「こういう評判だったよ」というと「バカじゃないの」と怒ります。旅行の計画を立てて宿泊先を選ぶときにも、同じ理由でケンカになります。事前に調べたほうが失敗や苦労をしなくて済むと思うのですが、どうすれば彼女の意識を変えられるでしょうか。(東京都・25歳・公務員)

A:ネットの「口コミ」情報は、たしかに便利ですよね。いっぽうで、彼女のおっしゃることも、よくわかります。今日の喫茶「いしはら」のカウンターには、町内一の天然キャラというか、アニメ声でたまに毒舌をかまして大人たちを青ざめさせているハニーさんがいらっしゃいます。どうすれば彼女の意識を変えられるか、という相談なんですけど。

 このふたり、早く別れたほうがいいんじゃないかな。っていうか、そのうち別れるよね。だから、意識を変えようなんて思う必要ないよ。えっ、こういう回答じゃダメなの?

 最近、上司と部下のあいだでも、この手の食い違いが多いんだってね。上司が「近くに新しい店ができたから、みんなでランチに行ってみよう」って言ったら、部下が「あそこの店は食べログの評価が低いですよ」って言って、上司がカチンとくるとか。これも、上司にしてみれば大きなお世話だけど、部下はよかれと思って教えてあげているわけでしょ。

 要は「文化」や「習慣」の違いなのよね。ただ、上司と部下なら、お互い「そういうもの」と思ってスルーすればいいけど、恋人同士だと「文化」や「習慣」が違う相手と付き合うのは辛いよね。だから別れたほうがいいって言ったんだけど、もしあなたが彼女が大切だと思うなら、自分の意識を変えたほうが手っ取り早いし確実だと思うな。

 NHKの子ども番組で人気だったハニワの「はに丸」が、25年ぶりにジャーナリストとして復活してるの知ってる? 「はに丸ジャーナル」っていう番組の中で、このあいだはGoogleの開発責任者に、なぜそんなに便利さを求めるのかって聞いてたの。相手の人が、たとえば旅にまつわる面倒くさいことを便利に調べられたら、本当に旅にを楽しむ時間に集中できるようになるからだって説明したんだけど、はに丸はこんなふうに反論してたよ。

「そうかな? でも旅はさ、その過程が楽しいんじゃないのかな? 本当の喜びは苦労の中にあるんじゃないかな? とぼくは思うんだけどなぁ」

 開発者の人、困っちゃって絶句して、画面には「しばらくお待ちください」のテロップが出ちゃった。はに丸、本質を突くよね。たまにしかやってないけど、この番組大好き。

 あらかじめ情報を集めても、それは彼女が言うように、アテにならないどこかの誰かの声でしかないわけでしょ。行ってみて、期待外れだったとしてもそれはそれで楽しいじゃない。人生に期待外れや見込み違いは付きものなのに、お店や宿泊施設ごときでその手の失敗を恐れてどうすんの。そういう生き方って、つまらなくない?

 あれ、いつの間にか、あなたの意識を変える話になっちゃった。どう、変わりそう? 変わりそうにないなら、同じような堅実路線の彼女を探したほうがいいよ。もし、恋人を探すときの口コミサイトがあったら、こんな悩みは持たなくてもよかったのにね。

◆【今回の大人メソッド】期待外れをどう避けるかより、どう楽しむかが大切

 初めてのお店に入って、味や店員の態度にガッカリすることは、まあよくあります。そういう事態は、どうしたって避けようがありません。「避けなければいけない!」と思っていると、無駄にダメージが大きくなりがち。不機嫌オーラを遠慮なく出して、迷惑な人になることもあります。全力でどうにか楽しんでしまうのが、大人の意地にほかなりません。

【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)