熱戦が繰り広げられたワールドカップ女子大会に引き続き、9月8日から、男子大会がスタートする。全日本男子にとって、5位で終了した女子以上に世界の壁が厚いと思われるが......。

 バルセロナ五輪(1992年)代表で長年、名実ともに日本男子バレーのエースであり続け、「ガイチ」の愛称で親しまれた中垣内祐一氏に、大会注目の選手や期待するところ、そして、近況を聞いた。

―― ワールドカップはバレー界の3大大会の一つですよね。選手の皆さんには独特の雰囲気がある大会だとよく聞きますが、ガイチさんにとって、ワールドカップとはどんな大会ですか?

中垣内祐一(以下、中垣内):ジャニーズがいる大会。

―― あ、あのー(笑)

中垣内:まあ、それは冗談としても、世界の強豪が集まって、Vリーグとは違って3日連続で戦って中1日で、また2連戦。中1日か2日休みで、また2連戦、3連戦とするから、やる方にとっては肉体的にも精神的にも、すごくハードな大会だったね。対戦するのは強いチームばかりだから、なかなか勝てなくてしんどい思いをしたよ。

―― それでも、近年のワールドカップよりは中垣内さんが現役の頃の方がずっと勝っていましたよね。1999年、2003年、2007年が3勝、2011年は2勝でした。

中垣内:それは、みなさんもよくご存じの通り、私はチームメイトにすごく恵まれていたからね(バルセロナ五輪出場時のチームメイトには、北京五輪にも出場した荻野正二の他、青山繁、泉川正幸らが名を連ねる)。素晴らしいチームメイトに囲まれて、良い時代にバレーをやらせてもらったなと思ってる。

―― 選手として以外にも、解説者としても、コーチとしてもワールドカップに参加されて、それぞれどんな違いがありましたか。

中垣内:選手として、コーチとして、解説者として、そして今、一般人として外から見て、いろいろな立場を経験して思うことは、選手の時は目の前の試合、プレーに集中しているから見えなかったことが、立場が変わると見えてきたということかな。
 コーチとして参加した時は選手時代に知らなかったベンチワークなど、こういうことをやっているんだな、ということがわかってきたし、解説者の時は、さらにそれ以上の広い視野で見る必要があった。選手、スタッフがどんなことをしているかを常に気を配っていなければならないし、運営サイドや一般の人へどう伝えたらいいかといったところも考えていかなければならなかった。一つ言えることは、選手の時よりは確実に視野が広がったということだね。

―― 中垣内さんの出場された2回目のワールドカップから、それまでとは違って五輪の出場権がかかることになりましたが、その違いというのは大きかったですか?

中垣内:うーん、やる方としては、(当時)切符は3枚だけだったから、それほど「この大会で必ず切符を獲らなければならない!」ということは思っていなかった。もちろん選手もスタッフも、獲得したいと思って必死にやっていたのは間違いないけれど、『五輪切符のための大会』みたいな捉え方はしていなかったよ。

―― 今大会から五輪への切符は3枚から2枚に減ってしまったわけですが、全日本男子がこの大会で切符をつかむことができる可能性は、ずばり、何パーセントくらいだと思われますか?

中垣内:おいおいおい。何を言わせるんだよ(苦笑)。長くバレーを観てきた人なら、誰でもわかっていることだろう? それは「非常に厳しい」だよ。「かなり、非常に、厳しい」。具体的な数字は勘弁してくれよ。

―― では、今大会、全日本男子は何勝できると思います? もしくは何勝くらいしてほしいと思われますか?

中垣内:それも難しいな。男子は女子と違って、アフリカ勢やランキング下位の国といえども、安全パイとは言えない。こういう大会で良いプレーをしたら、国外のリーグからスカウトが来るから、モチベーションも高い。自分が経験してきたことから言えるのは、どの試合も気を抜かず最後まで戦い抜かなければならないということだけだね。

―― ちなみに若手4選手を「NEXT4(※1)」というユニットで売り出しているのはご存じかと思いますが、この売り出し方についてはどうお考えですか。
※1 南部正司全日本監督が命名した、次世代の男子バレーを担う石川祐希(中大)、柳田将洋(サントリー)、高橋健太郎(筑波大)と山内晶大(愛知学院大)のユニット

中垣内:その4人についてはすごく注目も集められるだろうし、本人たちのモチベーションも上がると思うけれども、チームの中で、それ以外の"ミドルエイジ5"だったり、"ジジイ4"だったり。あっ、今言った数は適当だから。そういった他の選手たちにも目を向けてほしいし、若手でも、たとえば出耒田(できた)(敬・堺)だって、深津(英臣・パナソニック)だってネクスト。もっと言うなら東京を狙える10代から20代前半の選手は、みんなネクストなんだよ。選手本人たちも、みんなそう思ってやってほしいし、見る人たちにも4人だけではないネクストジェネレーションの選手たちにも注目してほしい。

―― NEXT4の中でも一番実力があると思われる、イタリアセリエA1の強豪モデナに留学していた石川祐希選手(中央大)についてはどう思われますか。フジテレビの番組内では「史上最高の逸材」というキャッチコピーが付いていますけど。

中垣内:春高(※2)の時から知っていて、もちろんフォームのきれいな、能力も高い選手だということはいえる。でも、モデナに留学したとはいっても、じゃあ世界のトップの選手の中で同じようなプレーが今できているかといえば、まだまだ、そこまではいっていない。史上初高校6冠とか、モデナ留学とかということを、当然メディアや観ている人は注目してくれるわけだけれども、それに溺れることなく、この大会を通して、本当に世界に通用する選手になるために、大いに成長してもらいたいな。
※2 全日本バレーボール高等学校選手権大会。以前は名のとおり、3月末の春休みに開催されていたが、2011年以降1月上旬に行なわれるようになった

―― 筑波大学の後輩で、全日本時代のガイチさんの背番号3をつけ、同じポジションの高橋健太郎選手に期待することは?

中垣内:さっきも言ったように、この大会はすごく長丁場で、コンディションを保ち続けることが大変なわけ。同じオポジットの清水(邦広・パナソニック)も、もうベテランだし、ずっとベストなコンディションのままでいるのは不可能に近い。だから、高橋には少しでも清水の負担を減らすためにも、自分のプレーをアピールしてコートに立つ時間を増やしてほしい。高さとパワーはあるから、あとは経験だな。

―― ワールドカップ、この選手に注目してみてほしいという選手は?

中垣内:やはり若い選手に注目してほしいね。NEXT4でもやや影が薄いミドルブロッカーの山内なんかは、あの身長の割に動けているし、注目しています。

―― 今回のW杯、ブラジルが五輪開催国枠で抜けていますが、どこが優勝すると予想されますか?

中垣内:わかんねぇよ(笑)。だって男子は上位5本の指に入るところ、いや、もう少し入れても実力が伯仲しているから、何が起こって、どこが優勝するかは本当にわかんない。去年の世界選手権はポーランドが優勝だし、今年のワールドリーグは、ワールドカップには来ないフランスだったし。もちろんロンドン金のロシアも、アメリカも。イランだって相当力をつけてきていて初の五輪出場をここで決めてしまいたいだろうから、死ぬ気で来るだろうし......言い出すときりがないよ。

―― 今、中垣内さんはどういう立場でしょうか? 堺ブレイザーズのスーパーバイザーでよろしいですか?

中垣内:......そうやな。

―― 試合会場には今でも行かれているんですか?

中垣内:堺でやるときは行っているよ。

―― もう一度バレーの現場に戻りたいという気持ちはおありですか?

中垣内:私はこれまでも「今いる環境の中でベストを尽くす」ということをモットーにしてきた。新日鐵住金で社員として仕事をさせていただいている今は、口が裂けてもそんなことは言えないね。

― 全日本でなくても、学校関係や海外のバレーに関わることもできるのではありませんか?

中垣内:将来のことはわからない。そういうチャンスもあるのかもしれない。

―― オリンピックとはどんな大会なのか? ということを踏まえて、リオ五輪に向けて戦う後輩たちにエールをお願いします。

中垣内:俺がオリンピックに行ったのなんて、もうはるか昔のことだからね。そのことを今さら持ち出して、したり顔であーだこーだ言うのは好きじゃない。テレビや雑誌やネットなんかで見ていれば、オリンピックがどれだけ特別な場所なのかはわかるはずだし。あえて言うなら『行ってみりゃ、わかる!』ってことだけだな。
 ワールドカップで選手たちに願っているのは、「負けグセをつけないでほしい」ということ。強い国とばかりやるわけだから、勝つのはもちろん簡単なことじゃない。だけど、「負けるのは当然のこと」だとは思わないでほしいんだ。若い奴らは、まだいろんなことに対する恐れを持っていないだろう? その「怖いもの知らず」なところをいい意味で持ち続けてほしいね。

 ワールドカップ男子大会は今夜、広島県グリーンアリーナにて開幕する。

【profile】
中垣内祐一(なかがいち・ゆういち)
1967年11月2日、福井県生まれ。藤島高―筑波大を経て、1990年新日鐵に入部。1989年、大学生時に全日本に初選出。90年代「ガイチ」の愛称で親しまれ、スーパーエースとして、バルセロナ五輪ほか国際試合で活躍した2004年現役引退し、堺ブレイザーズの監督に就任。翌年のシーズンで、Vリーグ優勝に導く。2009年監督を辞任。その後、海外留学を経て、2011年全日本コーチに就任。2012年、辞任。現在は堺ブレイザーズのスーパーバイザー

中西美雁●文 text by Nakanishi Mikari