野球王国愛媛を築いた上甲 正典監督の追悼試合が開催される

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それぞれが上甲監督との思い出を語る

 上甲 正典監督〜宇和島東では1988年の第60回選抜大会、済美でも2004年の第76回選抜大会全国制覇。「センバツ初出場初優勝」を2校で達成するという空前絶後の偉業をはじめ、1982年8月から2001年7月まで19年間監督を務めた宇和島東では甲子園出場春4回・夏7回甲子園出場。2002年に野球部が創設された済美でも春2回・夏4回の甲子園出場(2004年夏・2013年春全国準優勝)。甲子園通算成績は25勝15敗。「野球王国愛媛」はこの名将なくしては決して語れない。

 さらに福井 優也(広島東洋カープ・投手)(2015年インタビュー)、鵜久森 淳志(北海道日本ハムファイターズ・外野手)、安樂 智大(東北楽天ゴールデンイーグルス・投手)(関連コラム・2013年インタビュー)のNPB現役3選手や第1回・第2回WBC優勝メンバーの岩村 明憲(現:ルートインBCリーグ・福島ホープス選手兼監督)をはじめ数々の名選手や、若手お笑いコンビ「ティモンディ」高岸(本名:高岸 宏行・済美高〜東洋大)など野球界に限らず様々な人材を世に輩出。愛媛・四国に大きな足跡を残し、2014年9月2日(火)午前9時15分に胆管がんで現役監督のまま67歳の生涯を閉じた。

 それから1年。昨年9月4日(木)に執り行われた葬儀の際、「宇和島東・済美・明徳義塾の3校で追悼試合をやろう」と生前・同監督と義兄弟に近い間柄にあった明徳義塾・馬淵 史郎監督から「野球の取り組みだけでなく、様々なことを厳しく教えてもらった」監督の教え子である宇和島東・若藤 太監督へ提案があり、さらに直後の9月10日(水)、済美が2014年8月9日から今年8月8日まで1年間の対外処分を受けたことで1周忌の直後に試合日程が設定され、迎えた2015年9月5日(土)。「上甲 正典監督追悼試合」が、現役時代からの上甲監督の思い出がいっぱいに詰まった宇和島市営丸山球場で開催された。

お礼の挨拶を述べる上甲 正典監督の長男・智宏氏

 宇和島東と済美が対戦した第1試合前には宇和島東時代女子マネージャーとして、済美時代も2001年6月に52歳で逝去した妻・節子さんに代わる介助を果たした上甲監督の長女・夕美枝さんが始球式を行い、明徳義塾対済美の第2試合前に行われたセレモニーでは宇和島東で監督・選手の立場で接した長男・智宏さんが「亡き父が愛した、生涯を通じて愛してきた野球で送っていただけるのは、父も喜んでいると思う」と挨拶。このセレモニーを挟んで行われた3試合も集中打あり、満塁ホームランありと、派手に打ち勝つ野球を好んだ上甲監督の意思が乗り移ったような試合が続いた。

 そしてセレモニーで「この丸山球場では、僕が監督に就任したとき(1990年)に宇和島東を率いていた上甲監督と練習試合で対戦させて勉強させてもらいました。9月2日から一年が経ったが、まだ実感が湧かないです」と上甲監督が笑顔を讃える横で思い出を語った馬淵監督は、続いてこう決意を述べた。「宇和島東・済美・明徳義塾。この3校が四国の高校野球、日本の高校野球を引っ張って、上甲さんの遺志を引き継いでいきたいと思います」

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 さらにセレモニー後に馬淵監督は報道陣の前で、これまで公的には口にしなかったことを交え、四国の高校野球復権への呼びかけを発する。

「携帯電話の番号はまだ残してあるし、毎日21時から22時になると、いつも上甲さんから電話がかかってくるような気がする・・・・・・。まあ、でも四国の高校野球も最近低迷している中、上甲さんの遺志と情熱を受け継いで、もう1回、四国に旗(優勝旗)を持ってくるチームを作れるように。どこが獲ってもいいが、そのためにもまず我々3校が起爆剤となって頑張らなくてはいけない。当然、若い指導者が出てくるべきだし、そこに負けないように気力が続く限り頑張りたい。(僕に)引導を渡してもらいたい。そして引導を渡されたくない気持ちで頑張ります」

済美の主将1番・和田 蓮次郎(2年・遊撃手)

 その遺志は昨年夏に1年生では唯一愛媛大会でベンチ入りを果たし、現世代では上甲監督の指導を最も多く受け、乗松 征記監督からも「ウチは和田が絶対的存在」と全幅の信頼を得る済美主将・和田 蓮次郎(2年・遊撃手・右投右打・171センチ66キロ・高槻リトルシニア<大阪>出身)の心にも深く刻まれている。「言葉ではまとめられないくらい(上甲監督から)夏までに教えて頂いたことは多く、すごくあります。その中で選手の心の持ちようを厳しく鍛えられたこと。毎日、『奇跡は小さな努力の積み重ね』と話されたこと。小さなことから徹底しなければいけないことを伝えていかなければいけないと思います」

 一週間後の9月12日(土)からは高知県・愛媛県(地区予選)、香川県。翌週の19日(土)からは徳島県の秋季大会が開幕することで、本格的に27年ぶり2度目の四国4県代表・甲子園初戦敗退からのリベンジを期す四国の高校野球。名将が遺したこと。名将が引き継ごうとしていること。それを選手たちが表現しようとしたこの日の追悼試合が、四国の高校野球にかかわる全ての方々に伝わり、全国、さらに世界で闘う原動力になることを切に祈りたい。

 なお、3試合のスコア等は以下の通りとなっている。

(取材・写真:寺下 友徳)

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計 済美0000001212宇和島東20001003

済美:影山 尭紀、赤松 勇樹弥−小山 一樹宇和島東:杉原 建太、宇都宮 聖也−源 航大

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計 済美0000000101明徳義塾40001000X5

済美:和合 寛征、大野 真也−小山 一樹明徳義塾:中野 恭聖−古賀 優大

1 2 3 4 5 6 7 8 9 計 明徳義塾101211814宇和島東00002002

明徳義塾:平石 好伸、林田 壱成、國光 瑛人−古賀 優大宇和島東:岩本 龍之介、渡邊 直人、宇都宮 聖也−清家 宙土本塁打:立花 虎太郎(明徳義塾・7回表満塁アーチ)

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