写真はイメージです。
 無茶な要求をねじこむのが、やたらとうまい人がいる。「リスケして」「内容を変えて」「値引きして」など、伝えづらい要望をしれっと口にする。断られても「そこをなんとか!」と食い下がり、承諾を取りつける。

 味方としては頼もしいが、交渉相手としては厄介だ。こうした強引なリクエストをうまくかわすにはどうすればいいのか。

 今回は、奥州南部藩・八戸を治めた女大名・祢々(ねね)の生涯を描いた『かたづの!』(中島京子著/集英社)から解決策を探りたい。本書の主人公・祢々は江戸時代に実在した女大名がモデル。非業の死を遂げた夫の代わりに城主となり、家臣と領民を守り抜く。

◆「一つ負けたからといって、そのまま十負けてしまうのは愚か者のすること」

 祢々は、領土のっとりをたくらむ叔父に夫を殺される。お家断絶の危機にさらされ、自ら女亭主になることを決意。それは叔父に「そのまま十負けて」、いいようにされるのを避ける苦肉の策だった。

 強大かつ非道な敵が突然現れ、すべてをぶち壊す。現代の仕事に例えるなら、手塩にかけて育てた大型案件を、異動したての上司に奪われ、ムチャクチャにされたようなものか。それでもなお、対抗策を探る。その気力をいかに持ち続けるかが重要だ。

◆「相手にすべきは、阿呆ではなくて、利口のほうである」

 主人公・祢々は女領主として、たびたび領土争いに直面する。「相手にすべきは、阿呆ではなくて、利口のほう」が持論。強硬な態度で威嚇する敵を“阿呆”と定義し、挑発に乗らないよう、家臣を戒める。

 世に“阿呆”が尽きないのは、ネットで声高に語られる偏ったオピニオンの数々を見れば一目瞭然。マトモに見えた人がふとした瞬間に阿呆に転じることもある。何はともあれ、阿呆はスルー。そう決めることは対人関係のストレス軽減にも役立つ。

◆「ここぞというときには、泣き落としを使いなさい」

 オトコ顔負けの戦略家として家臣を率いてきた祢々。そんな彼女に、母親は「ここぞというときは泣き落としを使いなさい」と助言する。さらに「泣けないのは、必死さが足りないからです」とも。

 弱さを見せるのは勇気がいる。相手が強引なタイプなら尚更だ。しかし、この手のスキルは磨いておいて損はない。ダメな自分を見せたほうが相手は油断し、同情や共感も生まれやすい。交渉を有利に運ぶ材料になりうる。

 無理難題を押しつける相手に出くわしたら、まず「許せる/許せない」の境界線を決めるのが先決だ。その一線を守ることに注力すれば、全力でかわすべき要望やタイミングが見えてくる。

<文/島影真奈美>
―【仕事に効く時代小説】『かたづの』(中島京子著・集英社)―

<プロフィール>
しまかげ・まなみ/フリーのライター&編集。モテ・非モテ問題から資産運用まで幅広いジャンルを手がける。共著に『オンナの[建前⇔本音]翻訳辞典』シリーズ(扶桑社)。『定年後の暮らしとお金の基礎知識2014』(扶桑社)『レベル別冷え退治バイブル』(同)ほか、多数の書籍・ムックを手がける。12歳で司馬遼太郎の『新選組血風録』『燃えよ剣』にハマリ、全作品を読破。以来、藤沢周平に山田風太郎、岡本綺堂、隆慶一郎、浅田次郎、山本一力、宮部みゆき、朝井まかて、和田竜と新旧時代小説を読みあさる。書籍や雑誌、マンガの月間消費量は150冊以上。マンガ大賞選考委員でもある。