【アスリートWATCHing〜腕時計から見るスポーツの世界】

 今でこそ、時計界とサッカー界は蜜月状態であり、多くの選手が有名ブランドのアンバサダーを務めている。しかし、かつての時計ブランドはF1やヨット、テニスやポロ、ゴルフにホースレースなど、アッパーな競技以外は見向きもしなかった。その状況を変えたのが、ジャン-クロード・ビバーという男。現存する世界最古の時計ブランドである「ブランパン」を再興させ、危機的状況に陥っていた「オメガ」をV字回復させ、「ウブロ」を世界的人気ブランドへと押し上げるという"ハットトリック"を完遂した、時計界の風雲児である。

 ビバーは製品の開発能力に優れていただけでなく、マーケティングの才能に溢れていた。その彼がサッカーに目をつけたのだ。UEFA(欧州サッカー連盟)の本部がウブロ本社と同じスイスのニヨンという街にあった幸運も手伝い、トントン拍子にサッカー界に進出。FIFA(国際サッカー連盟)とも契約し、2008年、2012年の欧州選手権や2010年、2014年のワールドカップといった国際大会の公式計時を担当するようになった。

 この頃から時計界は、サッカーの可能性に気がついた。プレーヤーはハリウッドスターのようにパパラッチに追いかけられ、ゴシップ記事が週刊誌を飾る。少々バッドヒーローな面もあるが、そこが若者の心を惹きつけ、ファッションやライフスタイルも憧れの対象となっていく。つまり、サッカー界と繋がることで、未来のファンを育てるのだ。

 2014年から、ジャン-クロード・ビバーはウブロの会長を務めつつ、タグ・ホイヤーのCEOも務めている。タグ・ホイヤーと言えば、モータースポーツとのつながりが深いブランドであり、多くのF1ドライバーをアンバサダーに迎えている。さらに錦織圭やマリア・シャラポワら、テニス選手のサポートも熱心に行なっている。 しかし、ジャン−クロード・ビバーは満足しない。自らが開拓したサッカー界とのパイプを利用し、ドイツ・ブンデスリーガ(1部と2部)の公式計時をスタートさせたのだ。

 UEFAが定めるカントリーランキングに照らし合わせれば、1位のスペインのリーガ・エスパニョーラか、収益1位のイングランド・プレミアリーグを選ぶのがセオリーとも思えるが、どちらも2番手3番手であるドイツ・ブンデスリーガを選んだところは慧眼だ。

 ブンデスリーガはチームに対するライセンスの審査や交付が厳しく、健全経営を求められる。実力は世界トップクラスであることを疑う人はいないが、プレミアリーグやリーガ・エルパニョーラと比べると外国のスター選手は少ないし、派手な選手獲得合戦も行なわない。そのかわりに経営破綻やファンの暴動などのネガティブなトラブルが起きにくいクリーンさがある。さらにチケット代も低く抑えているため、観客動員数が非常に多い。つまり地元に愛される"地に足のついた"経営をする健全なリーグなのだ。

 ここがタグ・ホイヤーとリンクしている。タグ・ホイヤーは溌剌(はつらつ)としたブランドイメージを持つ高級時計ブランドだが、無理にラグジュアリー路線に向かうことはない。価格帯を控えめに抑えることで適価良品を心掛け、幅広い層から愛されている。つまりタグ・ホイヤーも"地に足のついたブランド"なのだ。

 ジャン-クロード・ビバーは熱狂的なスキー愛好家であり、サッカーにはまったく詳しくないのだが、見事にタグ・ホイヤーのユーザー層とブンデスリーガの客層の類似性を読みとった。この天性のゴール感覚を武器に、4点目を狙っている。

篠田哲生●文 text by Shinoda Tetsuo