クルム伊達公子は、今年の全米オープンテニスで、シングルス予選1回戦で敗れたが、ダブルスでは本戦ストレートインを果たした。しかし、現地9月2日に行なわれたアンディ・ミネラと組んだ1回戦では1−6、5−7で敗れ、昨年のベスト4(14年のダブルスパートナーは、バルボラ・ストリコバ)の再現はならなかった。

 「ファーストセットで思うようにできなかったところから、戦えるところに戻せたが、流れを引き戻せた感じではなかった。(ランキング)ポイントを守ることは考えていなかった」

 クルム伊達のWTAダブルスランキングは、55位(大会時)だが、大会後に昨年ベスト4の780点を失って、109位前後まで落ちる見込みだ。

 また、WTAシングルスランキングのほうも148位で、現状として、来シーズンのグランドスラムでは、単複ともに本戦ストレートインができないポジションになり、彼女を取り巻く状況は厳しいと言わざるを得ない。

 ただ、今年の春頃に、右肩や左ひじなどにけがを抱えていた一番悪い時に比べて、大きな故障がないことは、クルム伊達にとって明るい材料といえる。

「全然いいですよ。治療にかける時間も今は少ないですし、プレーで、どこか制御しながら動かないといけないということもない。ただ、100%かどうかと言われると、時々(故障が)出てくるのはある。完治するわけではないので、酷使したり、試合数が重なったりすると、体に負担がかかる」

 今季のグランドスラムの戦いを終え、クルム伊達は、シングルスで本戦を戦えたのは、全豪オープンのみで、他の3大会では、すべて予選敗退だった。

「一時期は、グランドスラムの予選になったら厳しいし、(本戦出場へ予選を)3回勝つことは簡単なことではないので、予選になったら、その時が引退の時と考えていたことがなかったわけでない」

 こう語るクルム伊達は、2008年に現役再チャレンジを始め、10年頃にグランドスラム本戦の舞台で戦えるようになってからは、「ランキングが落ちて、再び予選での戦いを強いられるのは、体力的にも精神的にも難しい」と考えていた。だが、2015年シーズンになって、実際その状況に置かれると、彼女の考えには変化が生じてきている。

「今までは予選を出るからには、予選を勝ち抜いて本戦へ、というこだわりがどこかにあったかもしれない。でも、そこまで本戦、予選にこだわる必要がないのかな。予選のタフな戦いで、自分がどこまでできるのか、やってみるのも悪くない。反対に、予選をうまく戦えれば、それは大きな自信になるし、そんなにマイナスなことばかりではないのかなという気持ちになった。全豪以降、予選でしか戦えなくて、予選で負けたことへの落胆というのは、私の中ではそんなに大きなことではない」

 今年の全豪で、クルム伊達はケガに加えて、やる気も失い、どう自分を奮い立たせればいいかわからず、会見で涙を流した。春頃まで続いた大きな試練を乗り越えた今、クルム伊達は、再びテニスがプレーできる喜びをかみしめているように見える。そして、現役再チャレンジを始めた頃の、ただテニスをすることを楽しむという、クルム伊達のチャレンジの原点に戻っているのではないだろうか。

 9月28日に、クルム伊達は45歳になる。4〜5試合連続で戦えば、体力的に厳しく、体への負担が増すこともある。クルム伊達は、昨年の秋から今年の春までケガに悩まされた教訓を生かして、大きなケガをしないように心がけながら、自分のできる限りの力を尽くして戦う準備をしている。

「当然数年前と比べれば、体力的にもきつくなっているし、当然勝てなくなれば、精神的にもモチベーションをキープするのは簡単ではない。体が元気であれば、いいパフォーマンスは、まったく無理じゃないとまだ思っているので、もう少し自分としてはできるんじゃないかという手ごたえと気持ちの方が強いかな」

 9月に東京・有明で開催されるジャパンウィメンズオープンで、クルム伊達は、本戦ワイルドカードを獲得している。現状では数少ないWTA大会で戦えるチャンスを活かせるかどうか、そして、トップ100へ戻って、来年にグランドスラム本戦の舞台で戦えるかどうか、クルム伊達の今後のキャリアを左右するような重要な戦いが続く。

神仁司●文 text by Ko Hitoshi