2016年度の就職活動から、就活時期の繰り下げが行われた。ルールを遵守していない企業や「オワハラ」など問題も指摘されているが、ダメなことばかりなのだろうか。千葉商科大学国際教養学部専任講師の常見陽平氏が、就活時期が繰り下げられてあえて「良かった点」を考える。

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 2016年度採用はなんと言っても「就活時期繰り下げ」が話題です。新聞各社は、特集を組み検証を行っています。中でも、日本経済新聞は8月24日から5回にわたり2面の「迫真」というコラムでこの問題を追いました。

 日経の他にも新聞各紙は学生も企業も混乱したこと、ルールに法的拘束力がなく実際は前倒しで内定(に近い打診を含む)が出ていたこと、インターンシップが就活の一部と化している上に8月1日の選考解禁まで内定が出ないが故にむしろ一部の学生にとっては長期化したこと、「オワハラ(就活終わらせろハラスメント)が横行したこと、内定者にほとんど逃げられてしまった企業があったことなどを伝えています。「なんのための就活時期繰り下げだったのか」という論調です。

 私もそう思いますが、この取り上げ方もまた「紋切型」だと考えます。そもそも、就活の時期の早期化・長期化について問題提起をしていたのは新聞各紙です。いや、この件については私も問題提起していました(もっとも、就活時期繰り下げだけでは問題は解決されていないことにもふれていましたが)。単に「それ見たことか」という振り返りはナンセンスだと思います。これは実験だと捉えたいのです。そのため、今回は「就活時期繰り下げ」の「功罪」について、「功」の部分を振り返ってみたいと思います。

「就活時期繰り下げ」がもたらした「功」の部分は、次の点だと思います。

1.採用手法の多様化が促された

2.学生の間でワークルールに関する意識が高まった

3.時期に関するルールは破られることが証明された

 この3点です。順に説明します。

1.採用手法の多様化が促された

 「就活時期」の繰り下げにより、採用広報活動が大学3年生の3月(2015年度までは12月)に、選考活動が大学4年生の8月に(同4月)繰り下げになりました。

 報道の通り、申し合わせを破り早く内定を出す企業は存在しました。ただ、経団連に所属しているクラスの大手企業においては学生に採用する意向を示したりはするものの、正式に内定を出すのは8月1日以降という企業が目立ちました。その間、学生を囲い込まなくてはなりません。そのために、リクルーターなどによる接触、囲い込みが行われました。学生にとっては、何度も呼び出されて迷惑ではあります。ただ、企業と学生の肌合わせが行われ、疑問の解消や、その企業の組織風土とマッチするかどうかを確認することができたのもまた事実です。

 他にも流行ったのは「面談会」です。「面接」という言い方ができないので「面談」と呼ぶわけですが、これは選考を兼ねたものもあれば、文字通りざっくばらんに交流する面談会も存在し、やはり肌合わせを行うことができました。

 また、学内での企業説明会、OB・OGとの交流会など、大学の中に入り込んだ企画が流行ったのも今年の特徴です。

 結果として、就職ナビに過度に依存した就活から、学生と社員が肌合わせを行い、確かめ合う採用に回帰したうえ、ずるいやり方も含め創意工夫が行われたのもまた事実です。もちろん、前述したようにこれは学生にとって負荷のかかるもの、不透明なものではありましたが。

2.学生にワークルールの意識が醸成された

 ワークルールとは、労働法など仕事に関わるルールのことです。近年、ブラック企業問題が話題となり、それから身を守るために注目されました。

 今回の就活時期の繰り下げは「オワハラ」問題が誘発されました。他社を受けないように脅したり、妨害する行為です。文科省が7月に行い発表した調査では、約7割の学校において、学生からオワハラの相談があったことが明らかになりました。

 これが盛んに報道されたことにより、対抗するべく職業選択の自由を主張すること、上手くやりくりすることがむしろ推進されたと私は見ています。みんなが泣き寝入りしたわけではありません。

 「オワハラ」問題は、犯人探し、レッテル貼りがやや過剰に行われたとも言えますが、学生の間にワークルールに関する意識が高まるという点には貢献したといえるでしょう。

3.時期に関するルールは破られることが証明された

 実はこれも、大きな「功」だといえるのではないでしょうか。日本の就活の歴史は時期論争の歴史です。1920年代から就活時期は何度も議論され、見直され、しかしルールは破られてきました。今回もそうなったことは明らかです。

 だから「それ見たことか」と言うつもりはありませんし、「法的拘束力を持たせる」という方向にするのも違うと思います。大学で一生懸命学んでもらい、成長しきった後で採用するのが正しいと、タテマエでは言われつつも、結局、企業は学生の素質、可能性にかけているのであって、結局、他社よりも早く動こうとするわけです。ただ、だからといって他社よりずっと早く動いても、ひっくり返される可能性があることも再確認されたといえるでしょう。

 今後も時期論争は続くでしょうが、時期「だけ」の論争は無意味で、今後は出会い方、選び方をどうするかという議論が盛り上がることを期待しています。

 というわけで、長年、就活の早期化・長期化を問題視していたマスコミが、いざ就活時期を変更すると、「それみたことか」と論じることにも、違和感を覚えるわけです。私も就活時期繰り下げの問題は、この連載でずっと指摘してきましたが、「それみたことか」というのではなく、もたらされた変化もまた直視すべきだと思うわけです。

 2016年度就活・採用戦線を終えた学生と企業の皆さんは歴史の証人です。何が起こったのかをできるだけ具体的に伝えるとともに、タテマエの議論ではなく、本音の議論を始めませんか。