日本の糖尿病患者数は約950万人 (shutterstock.com)

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 糖尿病といえば、日本人の三大疾病、心疾患、脳疾患、がんに次ぐ国民病。インスリンの欠乏によって血液中のブドウ糖(血糖)の濃度が異常に高まり、高血糖の状態を招く重篤な慢性疾患だ。

 ヒトは、食べ物に含まれる三大栄養素(炭水化物、脂質、たんぱく質)を消化・吸収して得たブドウ糖を使って、脳、筋肉、内臓を動かし、生命のホメオスタシス(恒常性)を維持している。ブドウ糖の量(血糖値)は、食後1〜2時間をピークに減っていくが、食事のほかストレスなどの様々な要因によって、刻一刻と変動する。変動する血糖値をいつも一定のレベルにコントロールしているのがインスリンだ。

 インスリンは、膵臓のランゲルハンス島にあるβ細胞で作られる。β細胞は血糖値が上がるとインスリンを分泌して、血糖値を下げるように働く。血糖が全身の臓器に届くと、インスリンの働きによって臓器のエネルギー源になり、肝臓にグリコーゲンとして蓄えられたり、タンパク質の合成や細胞の増殖を活性化したりする。身体活動で血液中のブドウ糖が消費されると、肝臓のグリコーゲンが分解されて再びブドウ糖となり、血液中に供給される。このように、食後に増加した血糖値は、インスリンによって速やかに処理され、常に一定に保たれているのだ。

 このインスリンの分泌が十分に行われないとどうなるの? ブドウ糖を効率よく活用できなくなるために、血糖値が高まり、様々な合併症や機能障害を招きやすくなる。とくに起きやすいのは、神経障害、眼球の網膜に出血する網膜症、腎臓の機能が低下する腎症で、糖尿病の三大合併症と呼ばれる。

 厚生労働省の「2012年国民健康・栄養調査」によると、日本の糖尿病患者数は約950万人。治療を受けている患者は、その約65%にすぎない。糖尿病は自覚症状が少ないため、糖尿病に罹っていることに気づかない人や受診しない人が多い。だが、放置すれば合併症のほか、生命に関わる重大な機能障害を引き起こすので、決して侮れない。

 糖尿病は、この1型糖尿病のほか、遺伝的に糖尿病になりやすい人が肥満・運動不足・ストレスなどをきっかけに発病する2型糖尿病、その他の疾患に伴う糖尿病、妊娠糖尿病がある。

インスリンを入れたカプセルを皮下組織に移植

 1型糖尿病は、自己免疫の異常によってインスリンを合成する膵臓のβ細胞が破壊されるためにインスリンが欠乏し、高血糖になる疾患だ。8〜12歳の思春期の発症が多いが、幼児や成人にも見られ、日本人の有病率は1万人当たり1人と高い。

 1型糖尿病の再生医療は、どのような状況なの? 1型糖尿病の細胞治療は、長年にわたって米国のバイオテク企業ViaCyte社が研究に携わってきた。2014年、同社はFDA(米国食品医薬品局)の治験開始の承認を得て、カリフォルニア大学でヒトES細胞を使った細胞移植を世界に先駆けて実施。この細胞移植は、まずヒトES細胞からインスリン産出細胞を大量に生産して透過性カプセルに封入し、患者の皮下組織に移植する方法だった。

 この移植法の利点は、患者の血液中の血糖濃度に応じて移植細胞が適度のインスリンを分泌するので、現在行われているインスリン注射よりも高い治療効果が期待できる点だ。また、透過性カプセルを患者の皮下組織に直接移植するため、移植細胞を膵島(膵臓の一部)や肝臓に移植する必要がないことから、患者が受ける侵襲や負担が少ない点も大きなメリットだろう。

 さらに、血液や体液中の血糖値に応じたインスリンを血液中に放出するだけなので、移植細胞を透過性カプセル内に封入したまま治療が行える簡便性は大きい。なぜなら、もしも移植細胞ががん化しても、カプセルごとに取り出せるため、安全性が高いからだ。しかも、免疫細胞がカプセル内に侵入しなければ、生体の拒絶反応も起きにくい。ただし、血糖値を常に安定させるためには、患者ひとり当たりおよそ10億個もの大量のインスリン細胞を移植しなければならない。

 したがって、大量生産できる生産工場で、移植細胞を封入した透過性カプセルを生産しながら、冷凍保存し、世界中に流通させる仕組みが必要になる。しかし、このシステムは、ビッグファーマ(大手製薬企業)がすでに確立している医薬品の流通プロセスに細胞医薬品として乗せれば、解決するだろう。

 実用化するためには、信頼性、有効性、安全性が十二分に確認され、とくに品質管理とコスト管理に万全を期さなけばならないのは言うまでもない。次回は、パーキンソン病の再生医療をテーマに、分かりやすく具体的に話していこう。

佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。