袴田事件は東京高裁で即時抗告審が継続中(袴田弁護団公式ホームページより)

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 最近の危険ドラッグには、各種の麻薬成分が含まれていることが数多く認められるようになった。それに伴い、危険ドラッグ中毒患者の重症化、時には死に至るケースも報告されている。また、常用することで依存症に陥ることも問題視されており、長期間の精神科的治療やケアを要する症例も増加している。

 本年の日本中毒学会総会では、麻薬成分含有ドラッグに関する症例報告、化学分析に関する報告が多かった。その中でフェンシクリジン(PCP)およびその類似体による中毒に関する報告が注目されたので報告する。 

死因は危険ドラッグの直接的影響による心停止

 東京大学大学院医学系研究科法医学の槇野陽介医師は、自宅でタバコの先に粉末状のドラッグを付着させて吸引し、同居人に発見された時には既に死亡していたという、30歳代男性の症例を報告した。

 解剖の結果、致死的外傷はなく、誤嚥による気道閉塞の所見も認められなかった。急性死を示唆する諸臓器のうっ血を認めたが、特に腎臓の尿細管のミオグロビンの沈着を確認したため、横紋筋融解症による急性腎不全を引き起こしたものと考えられた。また、尿と血液より、合成カチノンであるα-PVP、α-PHP、αPNPとともに、フェンシクリジン類似体である3MeO-PCPが検出された。

 死因は危険ドラッグの直接的影響による心停止や呼吸抑制、それに急性腎不全も加わったものと診断された。この症例は、危険ドラッグ中毒患者の重症化、複雑化を象徴したものである。法医学教室による尿、血液の分析が行われたため、危険ドラッグ中毒死と確定診断された。 

 また、国立国際医療研究センター病院救急救命センター救急科の佐藤洋祐医師は、34例(男性26例、女性8例)のフェンシクリジン類似体による急性中毒に関する症例報告を行った。眼振は21例、痙攣は8例に認められ、不穏状態を呈したのは21例であった。22例で入院治療を要し、3例が人工呼吸管理を必要とする重症例も認められた。幸いにも死亡例はなかった。 

日本ではフェンシクリジン(PCP)は麻薬

 PCPは1950年代に米国で麻酔薬として開発されたが、麻酔より覚醒する際に幻覚、妄想、暴力行為を引き起こすなどの副作用が認められたため、使用されなくなった。しかし、その後、幻覚剤として乱用されるようになった。

 わが国では麻薬として取り扱われている。麻薬中毒患者が、タバコに付着させて吸引することによって使用するケースが多い。長期に乱用すると、思考鈍麻、記憶力減退、うつ状態、嗜眠、昏睡、集中力低下、けいれんなどの症状を呈する。また、幻覚や幻視に悩まされ、最悪のケースでは突然死に至る。 

 現在、危険ドラッグに関しては、包括指定制度などの法の整備、マスコミによる注意喚起、警察による取り締まり、摘発によって症例数の減少を認めている。しかし、危険ドラックの依存例および死に至る重症例は増加している。これは危険ドラッグの成分に、麻薬や覚醒剤の成分が混入されていることが大きな要因となっている。

 危険ドラッグを取り扱うショップは激減したが、インターネットを利用した入手が後を絶たない。ドラッグを撲滅するためには、インターネットに対する何らかの規制の強化が必要であろう。また我々も危険ドラッグに手を出さないことが何よりも重要であろう。  


横山隆(よこやま・たかし) 
札幌中央病院腎臓内科・透析センター長、日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医 

1977年札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。 
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。