代表戦直前の試合では、渡独後初ゴールを含む2得点で存在をアピールした武藤だが、カンボジア戦では無得点。焦りからかシュートを打ち損なう場面も。写真:滝川敏之(サッカーダイジェスト写真部)

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 どこに伸びしろがあり、なにをしなければならないかは分かっているが、あまりにも時間がない。どうやらそれがヴァイッド・ハリルホジッチ監督の本音だ。ほとんど攻撃練習に終始することが分かり切ったカンボジアやアフガニスタンとの試合のために、わざわざベストメンバーを揃えるのも、最重要課題がチーム作りにあるからなのだろう。

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 確かに欧州組が増えてから指揮を執ったアルベルト・ザッケローニ、ハビエル・アギーレ両監督は、就任して間もなくアジアカップを戦っているので、それなりにまとまった練習時間を確保できた。
 
 ところがアジアカップを終えてから指揮権を引き継いだハリルホジッチ監督には、チームを束ねて細部を詰める時間が与えられなかった。このハンディを薄め、落ち着いて仕事を進めさせるためには技術委員会のサポートが不可欠なのだが、今のところ肝心なロシア・ワールドカップで結果を出すための中長期的なビジョンが見えてこない。だから新監督も、明確な代謝や底上げの意図もなく、その都度ベストの布陣を揃えて試合を消費している。
 
 ハリルホジッチ監督は「私にはストレスはない」と強調する。しかし一方では「シンガポール戦の結果を噛みしめたまま夏を過ごさなければならなかった」と吐露している。つまり明らかにチーム内で最もナーバスになっているのは指揮官自身だ。ワールドカップ2次予選は最終予選への切符を手にすれば良いし、東アジアカップも結果ばかりを問われる大会ではなかった。
 
 ところが新任監督は、まだこうしたアジアや日本の事情を十分に把握し切れずに、この時点で必要以上に重圧を感じている。それがピッチ上の選手たちに伝染し、逆に相手にツキを与えてしまっている印象だ。
 
 改めてワールドカップ2次予選では、トップ通過だけがノルマなのだ。ところが日本代表は、さらに大量得点というノルマを上乗せして首を絞めてしまっている。とりわけ攻撃陣は、ボックス内に入ると対戦相手との実力や経験の差をすっかり忘れて力んでしまう。
 
 不思議なことに、ブンデスリーガでしっかりと結果を出している香川真司や武藤嘉紀が、カンボジアDFの人数にストレスを感じ。正確にミートできない。カンボジアは常に8〜10人をペナルティエリア周辺に固めていたが、逆に引いたままで出ていくこともないので、日本はサイドに展開すれば確実に数的優位を作れていた。実際に酒井宏樹は、本田とのコンビで再三右サイドを抉っている。ハリルホジッチ監督が振り返るように「数えきれないほどのビッグチャンスを作り、相手ボールになれば3秒で奪い返す守備」を継続で来ていた。
 結局アギーレ問題の混乱の影響もあり、日本代表は有効な強化プランを欠いたまま与えられた試合をこなしている。遅きに失した感は否めないが、今からでもしっかりと問題を整理していく必要がある。2次予選で必要なのは結果だけで、守備というテーマを欠く一方的な試合では、いくら大量得点を奪っても世界で戦うための参考にはならない。
 
 カンボジアのような相手には、もっと効率良く結果を出すことに集中し、世界へ向けてのチーム作りは別の視点で捉えるべきだ。引いた相手から得点を奪う作業を効率化するなら、高さとクロスの精度、さらには展開力とミドルシュートに長けたボランチが要る。現状なら豊田陽平、今回は怪我で外れたが太田宏介、それに柴崎岳、遠藤航のボランチで臨むのもひとつの方法で、逆にスペースが少ないのが分かり切った試合に永井謙佑の選考などは理解に苦しむ。
 
 いずれにしてもアジアでは様々なレベルの試合が混在しており、今後はテーマに即した選考を考えていかないと、順調な強化は望めない。欧州組も含めたチーム作りを最優先に考えるなら、逆にハリルホジッチ監督を派遣して現地でミニ合宿の時間を作るなど、抜本的な発想の転換が必要なのだと思う。
 
取材・文:加部 究(スポーツライター)