いまや世界的風物詩ともなったヨーロッパサッカー夏の移籍マーケット。今シーズンも移籍期限の8月31日(プレミアリーグは9月1日)ギリギリまで各クラブの選手争奪戦が繰り広げられたが、1年前のワールドカップ終了後のマーケットと比較すると、今夏はビッグネームに動きがなかったこともあり、やや静かな印象だった。

 とはいえ、マーケットで動いたお金は決して少なくない。

 この夏の移籍金トップ3を見てみると、最高額をマークしたのはドイツのヴォルフスブルクからマンチェスター・シティに加入したケヴィン・デ・ブライネの移籍にかかった推定7400万ユーロ(約100億3000万円)。2位はわずか1年でマンチェスター・ユナイテッドを退団し、フランスのパリ・サンジェルマンに新天地を求めたアンヘル・ディ・マリアの移籍金推定6300万ユーロ(約85億4000万円)。そして3位はリバプールからマンチェスター・シティに移籍を果たしたラヒーム・スターリングの移籍金推定6250万ユーロ(約84億7000万円)だった。

 この上位3人の顔ぶれを見ても、今回に限って言えば、動いた金額がその選手の価値に見合っているかは疑問の余地を残すところではある。しかしながら、少なくとも今夏のマーケットも近年の傾向を踏襲したものだったことに疑問を持つ者はいないだろう。

 それは「プレミアリーグ一極集中化」がより顕著になっているという傾向だ。そのことを端的に示しているのが、今回のマーケットでプレミアリーグ全20クラブが補強に使った移籍金総額が、過去最高額を計上したという事実である。

 世界的監査法人「デロイト」社の調べによれば、今回の移籍マーケットでプレミアリーグ20クラブが選手補強に使った金額は、総額11億8540万ユーロ(約1606億円)。これまでの最高額だった昨夏の総額11億3771万ユーロ(約1541億円)をわずか1年で更新してしまった。

 とりわけ、今夏はこれまでマーケットの主役を担ってきたスペインのビッグ2の動きが少なかったことが、その傾向をより色濃くしたとも言える。

 バルセロナはFIFAの制裁によってこの夏の選手補強が禁止されており、年明けまで起用しないという条件でアルダ・トゥランとアレイクス・ビダルの2人を獲得したのみ。一方のレアル・マドリードも、マンチェスター・ユナイテッドの守護神デ・ヘア獲得が失敗に終わり、結局ポルトから右SBのダニーロとインテルからマテオ・コヴァチッチという即戦力を獲得したものの、いわゆる大物補強は行なわなかった。

 これに対して、プレミアリーグの盛況ぶりはとどまるところを知らない。特に今回目立っていたのが、昇格クラブを含めた中堅以下のクラブが積極的な補強を展開した点だ。

 たとえば昇格組のワトフォードはトッテナムからエティエンヌ・キャプー、ハンブルガーSVからヴァロン・ベーラミ、ローマからホセ・ホレバスなど代表クラスを含めて15人もの戦力を大量補強。同じくボーンマスも、サンテティエンヌ(フランス)で昨季にブレイクしたばかりの注目株マックス・グラデルなど12人を新戦力として加えている。

 また、クリスタル・パレスがパリ・サンジェルマンからフランス代表MFヨアン・キャバイエ、サンダーランドからコナー・ウィッカムなど効果的な補強を行なえば、アストン・ヴィラ、ウェスト・ハム、スウォンジー、ストークなども充実した補強を実現している。

 優勝やヨーロッパカップ出場権獲得を狙う上位クラブならまだしも、なぜプレミアリーグでは中堅以下のクラブもこれほど積極的な戦力補強を実行できるのか? その背景には、右肩上がりの成長を続けるプレミアリーグのテレビ放映権料がある。

 今年2月、プレミアリーグの2016年から2019年までの3シーズン分のテレビ放映権料が公表された。その額は95億ユーロ(約1兆3000億円)という莫大なもので、2013年から2016年までの放映権料と比べて70パーセント増。これにより、プレミアリーグ各クラブの収入は約50パーセントアップすることが確約されているのだ。

 このプレミアリーグの放映権料は、同じくリーグが放映権を一括管理販売するイタリアのセリエAやドイツのブンデスリーガの2倍以上の金額(スペインは2016年からリーグが一括管理販売の予定)になる。プレミアリーグ最下位のクラブでもテレビ放映権料だけで100億円前後の収入を得ており、50億円前後とされるブンデスリーガ王者バイエルンの2倍近く収入が保証されているという。

 今年の夏はセリエAのユベントス、インテル、ローマ、ミランなども例年になく大金を使って戦力を補強したが、その中に今が旬のトッププレーヤーは存在しない。現代のサッカークラブにおける収入の大半を占めるテレビ放映権料収入でこれだけの差があれば、リーグとしてもクラブとしても同じ土俵で勝負することは難しいということだろう。一流選手や金の卵と言われる有望な若手選手が、高額な年棒も保証してくれるプレミアリーグへ流入するのは自然の流れなのである。

 すなわち、確実に今後3年間は、移籍マーケットにおいてプレミアリーグ一極集中化の傾向が続くことは決定的だと言える。

 もちろん、これにはマイナス面があることも見落とせない。今、イングランドでは外国人選手が大量に流入したことで自国選手の活躍の場が失われつつあり、それによる代表の弱体化が問題視されている。現在FA(イングランドサッカー協会)では、2010年から施行されている若手の成長促進のためのホームグロウン制度のルール変更など、さまざまな対策が打たれており、今後はEU外の外国人選手がプレミアリーグのクラブに移籍するためのハードルも高く設定されることになっている。

 しかしながら、このようなFAの対策があったとしても、プレミアリーグのテレビ放映権料が下落しない限り、少なくとも市場原理に従って動く移籍マーケットの傾向に大きな変化が起こることはないだろう。

中山淳●文 text by Nakayama Atsushi