記者会見で「もっと点を取って勝つのが理想だが、今夜はネガティブにはならない。選手たちにはおめでとうとだけ言いたい」としたハリルホジッチ監督だが、さらなる高みを目指す発言は忘れなかった。

「勝ったことには満足しているが、もっともっと得点は取れた。我々に厳しい要求を続けてください。チームはビックチャンスを作りつづけることが大事です。まだまだフィニッシュはハイレベルじゃないし、そこを含めていろいろな部分を伸ばさなければならない。私はどこを伸ばすべきかを完璧に分かっています。このチームはまだ伸びる。勝利のスパイラルを続けたいし、自信をつけたい」

 目指すべきところは、まだまだ先にある。かねてから指揮官はそう語ってきた。今は引いた相手を崩すことが求められているが、いずれ強豪国に対しての戦い方もポイントになってくるのは間違いない。チームとして結果を出して自信をつけながら、同時に課題を見つけながら、一つずつ進んでいくしかない。世界と戦って結果を出すためのハードル設定を下げることは決してない。その中でどんなトライを続け、何を得ていくかだ。

 状況は理解している。先を見据えなければならないことも分かっている。だが、どうしても気になっていたことがあった。「引いた相手を崩せない」と言われていた選手たちは、果たしてこの勝利でモヤモヤしていたものが晴れたのか。この疑問を思い切って吉田麻也にぶつけてみた。

 彼の解答は明快だった。

「これで一歩踏み出せたとは思います。ただ、シンガポール戦のあと、東アジアカップもあって、サポーターや日本国民の皆さんはかなり落胆していると思うので、僕らは『まだまだこれからだ』ってところを見せていかなければいけないし、自分たちでそれを証明していかないといけない」

 明らかに格下相手の勝利で「勝って当たり前」と言う人もいるだろう。それも間違いではないが、選手たちにとっては、とにもかくにもシンガポール戦から続いていた“ゼロの呪縛”からひとまず抜け出したことが大きな一歩なのだと思う。「勝ちながら課題を見つけて解決していけばいい」とは吉田と並んで最終ラインでバランスを保った森重真人(FC東京)の弁だ。そして本田は「もっと高いところを目指していかないと。勝った時にこそ厳しく、『なんで3点しか取れなかったのか』って見ていくべきだと思う」と意識の高さをうかがわせた。

 フィニッシュの精度、守りを固める相手への対応、強豪国との戦い方……。課題をクリアするために、また新たな課題が見つかるだろう。ポジショニングやコンビネーションなど細かな部分を上げればキリがない。これから取り組まなければならないことは多い。課題は山積だ。もちろん結果は重視すべきだが、必要以上に一喜一憂せず、覚悟を持って日の丸を着け、存在意義を証明していく選手たちの成長を見ることも重要となる。

 千里の道も一歩から。停滞していたチームが、ようやく動き出した。ハリルジャパン、ロシアへの旅はまだ始まったばかりだ。