胸に残るモヤモヤ感を払拭した吉田の一言…カンボジア戦の勝利が持つ意義とは

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文=青山知雄

「勝利を求めていた。そして勝利を手にした」

 3日のカンボジア戦を終えた日本代表のヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、試合後の記者会見でこう切り出した。

 6月のシンガポール戦に引き分けたことで決定力不足が叫ばれ、国内組だけで臨んだ8月のEAFF東アジアカップ2015で未勝利のまま最下位に終わるなど、不甲斐なさが目立っていただけに、今回は人数をかけて守りを固めるであろうカンボジア相手にどんなサッカーをするのかが注目を集めていた。

 3カ月前の記憶が残る中、どこか重苦しい空気を含んだ試合で、日本代表がFIFAランキング180位のカンボジアから奪ったゴールは3つ。本田圭佑(ミラン/イタリア)が左足で豪快に撃ち抜いた無回転ミドル、オーバーラップした吉田麻也(サウサンプトン/イングランド)が右足で放った低空ミドルシュート、そして前半に押しこむだけのビッグチャンスを外していた香川真司(ドルトムント)がペナルティエリア内でこぼれ球を蹴り込んだ一発だ。

 終わってみれば日本代表のボール支配率は73.9パーセントに達し、前後半合わせて計34本のシュートを放った。これだけ攻め込みながら、またしてもフィニッシュの精度を欠いたことで、脳裏に残る苦いイメージを払拭しきれなかったのは正直なところだ。42分には香川が押しこむだけのシュートを決めきれず、エース岡崎慎司(レスター/イングランド)は厳しいマークと密集したエリアで持ち味を発揮できないままノーゴールに終わった。ミドルシュートを求めていたボランチの長谷部誠(フランクフルト/ドイツ)と山口蛍(セレッソ大阪)が中距離弾を狙う機会は少なく、チーム全体として攻撃に迫力を欠いた感は否めない。シンガポールが4−0で勝った相手に3点しか奪えなかったという事実も残る。監督や選手たちは試合後に「もっと点を取れた」、「満足していない」と口をそろえていたが、実際に作り出したチャンスの数を考えると、「3ゴールでは物足りない」と考えるのは明らか。どこか不完全燃焼感が残る試合だったように感じられてならない。

 とはいえ、守りを固める相手からしっかり勝ち点3を得たという結果は評価されるべきだろう。シンガポール戦からの成長が感じられた部分はいくつもあった。

 立ち上がりから一方的に攻め込みながら得点が決まらなくても、焦らずに戦えたのは教訓の賜物だ。指揮官は同じ轍を踏まないために「6〜7つのソリューション」をチームに授け、ピッチ内での臨機応変さを求めた。そして選手たちは試合を支配しながら戦えば、必ずゴールを奪えるという信念を持って敵陣に攻め込み続けた。

 シンガポール戦のように前線に人が溢れかえって“渋滞”が発生することはなく、スペースを作る動きと周囲の動き出しを引き出す意識が感じられた。特に右サイドバックの酒井宏樹はニアとファーに蹴り分けるアーリークロス、ゴールライン際まで攻め上がっての鋭角の折り返し、さらには大きなサイドチェンジと、監督が授けたソリューションを意識しながら、前方で起点になってくれる本田とうまく連係して監督の狙いを忠実にピッチに落とし込み続けた。結果的に合宿開始から強く意識させてきたミドルシュートが2本決まったことは、ハリルの狙いが実を結んだ形とも言える。

 攻撃ばかりが注目されがちな試合だったが、その一方で守備面のアグレッシブさには目を見張るものがあった。奪われた瞬間に3人、4人と一気に襲い掛かるプレス、特に相手が少しボールを戻した瞬間に前線から複数の選手がプレスバックして奪い返した12分のシーンからは選手たちの意識の高さが感じられ、ハリルホジッチ監督も「本当に選手たちのスピリットが素晴らしかった。『6〜7秒で相手のボールを奪え』と言っていたが、3秒で奪っていた」と手放しで称賛していた。相手が攻め出てこない中で緩くなりがちな守備において高い意識を持ち続けたのは、ピッチで戦う選手たちの結果に対する執念の表れだったようにも思われた。