長いプロ野球の歴史の中でも、トリプルスリー(打率3割・30本塁打・30盗塁)の達成者はわずか8人。今季、そこに仲間入りしようとしているのが、ヤクルトの山田哲人(23)とソフトバンクの柳田悠岐(26)だ。

 9月2日終了時点で、山田は打率.328・33本塁打・27盗塁、柳田は打率.362・29本塁打・26盗塁と、極端な不調やケガさえなければ、トリプルスリーを達成する可能性は高い。実現すれば、2002年の松井稼頭央(当時・西武)以来13年ぶり、さらにセ・パ両リーグから同時となれば、実に65年ぶりの快挙となる。

 65年前の1950年はプロ野球の両リーグ制が発足した年。記念すべき初の日本シリーズにそれぞれのチームを導いた岩本義行(当時・松竹)と別当薫(当時・毎日)の記録達成によって、トリプルスリーの歴史は始まった。1953年には弱冠20歳の中西太(当時・西鉄)が未だに破られていない最年少記録を作り、そこからは簑田浩二(当時・阪急)が1983年に達成するまで30年の空白がある。

 長い間達成者がいなかったことがトリプルスリーに対する注目度を上げ、平成に入って、西武の秋山幸二や、広島の野村謙二郎、金本知憲、今なお楽天で現役を続ける松井稼頭央(当時・西武)が達成した際も大きく取り上げられることになった。

 山田、柳田のおかげで過去の達成者が話題になる一方、これまで「トリプルスリーまであと一歩に迫りながら届かなかった選手」もいた。以下にその名を挙げてみよう。

1949年 大下弘(東急)    打率.305 本塁打38 盗塁27
1950年 小鶴誠(松竹)    打率.355 本塁打51 盗塁28
1950年 青田昇(巨人)    打率.332 本塁打33 盗塁29
1950年 川上哲治(巨人)   打率.313 本塁打29 盗塁34
1958年 長嶋茂雄(巨人)   打率.305 本塁打29 盗塁37
1963年 張本勲(東映)    打率.280 本塁打33 盗塁41
1985年 松永浩美(阪急)   打率.320 本塁打26 盗塁38
1995年 イチロー(オリックス)打率.342 本塁打25 盗塁49
2003年 井口資仁(ダイエー) 打率.340 本塁打27 盗塁42

 ここで挙げた条件は、「打率3割・30本塁打・30盗塁」のうち2つを満たし、かつ、届かなかった部門の成績が「打率2割8分・25本塁打・25盗塁」以上の選手。決して数は多くないが、レジェンド級の豪華なメンバーがズラリと並ぶ。

 真っ先に目に入るのは、"打撃の神様"と呼ばれた巨人の川上哲治。卓越したバットコントロールでヒットを量産した川上も、現役生活で本塁打が30本を超えたシーズンはなく、1950年の29本がキャリアハイだ。鈍足ながら、投手のクセを盗む努力を重ねて30盗塁を上回った年だっただけに、あと1本足りなかった本塁打が何とも悔やまれる。

 同年には、川上の好敵手だった青田昇や、松竹の「水爆打線」の主軸として当時のホームラン記録を更新した小鶴誠も、わずかに盗塁数が足りずトリプルスリーを逃している。もし、この3人も達成していたら、前出の岩本、別当と合わせ、1950年は合計5人ものトリプルスリー達成者が生まれるというとんでもない年になっていた。

 本来なら達成者に名を連ねていたはずだったのが長嶋茂雄だ。プロ入団初年度の1958年に本塁打が1本足りず記録達成を逃したが、この年の長嶋には幻となった本塁打がある。9月19日の広島戦で放った打球は左中間のフェンスを越えるも、1塁を回る際にベースを踏み忘れて、塁審から「アウト」の宣告。この本塁打が取り消しになっていなければ、ルーキーでのトリプルスリー達成という初の快挙となっていた。もっとも、この記録の逃し方が"記録よりも記憶に残る男"と称されるゆえんなのだろう。

 現役生活23年で16回も打率3割を上回った張本勲が、打率が足りずトリプルスリーを逃したのは何とも意外。1963年の張本は月によって好不調の波が激しく、3割に届くまでわずか11本のヒットが足らなかった。これも意外(?)ながら足は速く、この年の41盗塁をはじめ通算319盗塁を記録。通算504本塁打と合わせ、生涯成績で「3割300本300盗塁」という"異型トリプルスリー"を達成している。

 張本の最多安打記録(3085本)を日米通算で上回った、平成の"タイトルコレクター"イチロー(マーリンズ)もトリプルスリーには届かなかった。オリックス時代の1995年は首位打者、盗塁王に加え、80打点で打点王のタイトルも獲得。25本に終わった本塁打については、「イチローはアベレージヒッターだから」と思われるかもしれないが、この年の本塁打王・小久保裕紀(当時・ダイエー)の28本にあと3本と迫っていた。もしトリプルスリーを達成していたら、史上初となる三冠王との同時達成という偉業を成し遂げていたのである。

 どんなに能力のある名選手でも、ちょっとした巡り合わせで達成を逃すほどに、トリプルスリーの前には"見えない壁"がある。山田と柳田にはどうか今の勢いのまま、その壁を打ち破ってもらいたい。

和田哲也●文 text by Wada Tetsuya