「グループ3位以内」を目指すシンガポールが、6月の日本戦で選んだ戦い方は徹底した守備固めだった。 写真:サッカーダイジェスト

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 9月3日に行なわれるワールドカップ・アジア2次予選のカンボジア戦を前に、ぜひともチェックしておきたいことがある。試合前に知っておくべき情報だが、意外にサッカーを見慣れている人でも、忘れがちなのだ。それは――。
 
 両チームにとって、この試合の目的はなにか?
 
 6月に行なわれたワールドカップ・アジア2次予選では、FIFAランク154位(当時)のシンガポールに、52位の日本代表が苦戦し、0-0のスコアレスドローに終わった。試合終了のホイッスルと同時に、シンガポールはベンチメンバー全員がピッチに飛び出し、まるで国際大会で優勝したかのような歓喜に沸いた。
 
 彼らは90分間、亀のように守備をがちがちに固め、セットプレーにも粘り強く応戦した。もちろん、日本に対して守備重視で試合に入るチームが珍しいわけではない。しかし、それにしても、これほどまでに攻撃を最初から諦め、徹底的に守備固めをすると割り切ったことに、少なからず驚きはあった。
 
 中立的に見ても、シンガポールには勝点3を獲得する可能性がほとんどなかった。そういう戦い方を選択した、とも言える。このような試合運びを“90分間”実践されたことについて、「Jリーグでは経験したことがない」と、少なくとも国内組の若い選手は、口々に語っていた。
 
 なぜ、シンガポールは、ここまで“徹底”したのか?
 
 そこに落とし穴がある。
 
「我々は、今度のワールドカップ(2018年のロシア大会)に出場できるとは思っていない。個人的な目標としては、2019年にUAEで開催されるアジアカップに出場することだ」(シンガポール代表ベルント・シュタンゲ監督/試合前日の記者会見より)
 
 あとから思えば、このコメントにシンガポールの真意が潜んでいた。
 
 この2次予選は『ワールドカップ2次予選”兼アジアカップ予選”』と銘打たれている。各組1位と、各組2位の成績上位4チームが、ワールドカップ・アジア最終予選に駒を進めるのと同時に、2019年のアジアカップ出場権も得られる規定になった。
 
 ひと粒で二度美味しい。日本にとっては、アジアカップ予選を戦う必要がなくなり、そのぶんのスケジュールを、欧米の強豪チームとの強化試合に費やすことができる。ある意味では、オマケのように捉えていた”兼”の部分。
 
 しかし、シンガポールにとっては、そうではなかった。ワールドカップ最終予選に進めなかった残りのチームも、それで終わりではない。各組2位の成績下位4チーム、各組3位、各組4位の成績上位4チームは、アジアカップ3次予選に駒を進めることができる。ここがポイントだ。
 それは同じグループのなかに、異なる思惑が存在することを示している。直近のワールドカップ予選ならば、各組2位以上が次のラウンドに進むだけ。3位になろうが、4位になろうが、その序列に大した意味はない。
 
 ところが、この”兼”が付いた予選は違う。「アジアカップに出場すること」を目指すシンガポールにとっては、2位が無理でも、着実に3位につけることが目標なのだ。
 
 日本でのアウェー戦といっても、過去の予選における対戦相手は、「あわよくば勝点3」という色気が、多少はあったはず。なぜなら、2位に入らなければ意味がないからだ。だが今回のシンガポールには、それが1ミリもなかった。強がりでもなんでもなく、アウェーで日本を相手に引き分ければ、3位に向けて大きく前進する。
 
 つまり、かつてないほど彼らは”引き分け上等”だったのだ。その目的を共有したことが、「90分間の徹底した守備」につながった。シンガポールのベンチが試合終了後に大きく沸いたのも、「目指した結果=引き分け」を手にしたからに他ならない。