Doctors Me(ドクターズミー)- 【医療現場のウソとホント】第2回:医療ドラマの撮影現場に遭遇した!

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同じ白衣を着ているのに、見えない境界線で分けられた空間で別々に展開される”医療現場”。あちらは入念なリハーサル付き、こちらは予想がつかないオンタイム中。実際の診療時間内に、私はこのような面白い経験をしたことがあります。

医療ドラマのロケ撮影を、私が勤めていた大学病院と医学部キャンパスで撮影していたからです。こちらは日常の仕事着として白衣を着ている、本物の医師。あちらは配役として架空の世界で白衣を着ている、演技中の俳優さん。

休日の宿直勤務中、人気シリーズの撮影現場に突然遭遇したため、最初は興味本位で細かいリハーサルを眺めていました。慌ただしくもキリッと引き締まった本番前の雰囲気は、現役の医師にも未知の世界でした。

大学病院内で撮影していた人気ドラマ


医療ドラマは、外観を含めた現実感を生み出すために、本物の医療機関を借りてロケ撮影することが少なくないそうです。番組終了時のテロップに実在の病院名が記されている場合は、放映シーンのどこかを院内で撮影したことを示しています。

もちろん、本物の患者さんたちが通院している平日の外来や、入院中の患者さんたちがいらっしゃる病棟は、ドラマの撮影に使うことは出来ません。通常診療を行っていない土日・祝日に、周囲から目立たぬよう配慮しつつ、朝早くから撮影開始というパターンが多いようです。

同僚の女性医師は、別シーンを同時に撮影していた主役の男性俳優を身近で目撃したと大喜びでした。長身のイケメンで、若い女性に人気のある俳優さんです。いつものように渡り廊下を通ろうとしていたところ、リハーサル場面に遭遇し、「本物の先生」なので主役の傍を特別に通過させてもらったそうです。

医師でさえ驚く、院内の特別な光景。医療機関内で行われるドラマ撮影は、創作の医療シーンが現実と同居している珍しい状況を生み出すわけです。

本物の医師が傍観した

私の場合は、医学部キャンパス内の売店へ行こうと、学生講義棟の廊下を歩いていました。ときどき患者さんがいらっしゃって救急外来から呼ばれる程度の、穏やかな週末勤務でした。いつものように野良猫が数匹、ひなたぼっこをしている中庭へ出ようとしたところ、見慣れぬ大きな機器があちこちに積み重ねられていました。

10人以上のスタッフによって多くのケーブルやカメラ、三脚などが手際よく移動していくのを見て「ドラマの撮影をしているのか」と何だか嬉しくなりました。自分の勤務場所がテレビで全国に放映されるのは、慌ただしい医療現場において少し誇らしい出来事でもあります。

当日の撮影に気がついた他の医師や看護師たち数名も、私と同じくガラス張りの扉に沿って、撮影準備を眺めていました。すると「ちょっと動かないでください、向こうに映り込んでしまうので!」という厳しい注意がスタッフから飛んできたのです。

俳優と撮影スタッフの連携に感心


勤務時間中に手が空いた私たち医療従事者と、作品を作り上げるために撮影に励むスタッフでは、その真剣度が異なります。医師も看護師も無言で慌てて移動し、これから起こるであろう展開をじっと待っていました。

ほどなくして有名な女性俳優が中庭のベンチに現れました。想像よりも華奢な女性です。真っ白な長白衣をさらりと着こなした医師役の女性俳優は、スタッフと何かを打ち合わせると、さっとポーズをとって身構え、いきなり本番の演技を始めました。

その瞬間、周囲の空気感がまったく変わり、とてつもない緊張感が私たちを襲いました。携帯電話で同僚にクレームを言うらしい、数十秒のシーンを撮影するために、数多くのスタッフが連携して準備にあたり、俳優はそのシーンで全力を発揮する。思わず感嘆の声を上げそうになりました。

撮影完了後、颯爽とロケバスへ戻っていく俳優をすぐ近くで見送っていた私は、芸能界のプロフェッショナルが身につけたスター性を、ひしひしと感じました。「格好いい!」とミーハーな気持ちが押し寄せる中でも、この連携がどの世界にも必要な仕事の本質であって、シリーズものの人気ドラマが何年も続いていく真の原動力になるのだろう、と感じました。

ワンポイントアドバイス

視聴者にとってリアルな医療現場を再現するために、俳優と撮影スタッフは巧みな連携を実現していました。院内を借りて、限られたロケ時間において必ず結果を残す見事な仕事ぶりは、通りがかりで見学しているだけでも大変勉強になりました。本物の医師が医師役の俳優から学ぶとは、何とも驚きの経験です。

他の人気ドラマでも「外科医の役作りのために医師から習った」であろう、巧みな手術シーンを見るとき、俳優という職業の奥深さを感じないわけにはいきません。オリジナルである私たち医師の世間的なイメージを支えてくれているのも、優れた医療ドラマや映画です。

ロケ撮影を目撃したあの日から、何気なく見ている医療ドラマには隠れた凄みが数多くあるように感じています。皆さんもリハーサルの光景を思い浮かべながら医療ドラマを観ると、その奥深さを発見できるかもしれませんね。

〜医師・医薬コンサルタント:宮本 研〜