中国・南京で行なわれていたAFC U-19女子選手権決勝で、日本は北朝鮮とPK戦にまでもつれ込んだ死闘を制し、2大会ぶりの優勝を手にした。

 現在、アジアにおける日本女子サッカーの立ち位置は、常に大会の優勝候補に名を連ねるトップクラスである。日本をはじめ、北朝鮮、韓国、中国、オーストラリアの5強がしのぎを削る勢力図。これらはすべての世代代表に当てはまる。U-19女子代表――通称"ヤングなでしこ"にもそれは通じる。

 上位3チームに与えられる、来年のFIFA U-20女子ワールドカップへの出場権がかかった今大会。日本はオーストラリア、ウズベキスタン、中国とともにグループAに入った。3強がそろったグループAは得失点差も含めて、すべての試合結果が決勝トーナメント進出を左右する。順調に勝ち進んだ日本は一番乗りで決勝トーナメント進出を決めたが、勝負はここからだった。

 準決勝の相手は韓国。総当たり方式だった2013年の前回、日本は大会中盤で当たった韓国に0−2で敗れると、残り2戦も勝ち越すことができず、わずか「1」の得失点差で世界大会出場を逃している。いくら内容で勝っても、結果につながらなければ涙するのは自分たちだ。1勝、1ゴール、1勝点の重みを痛感させられた。

 当時のメンバー7人が残り、そのひとりが長谷川唯(日テレ・ベレーザ)だ。飛び級でU-19女子代表に招集されていた彼女はその後、U-17女子代表として世界一になった。チームの中心選手として各世代のカテゴリーで活躍しながら、未だアジアを制した経験を持たない変わり種だった。その長谷川が今大会では苦しんでいた。

「納得できるプレーができていない」(長谷川)

 スタメンから外されることもあれば、途中交代も増えた。それでも、この準決勝にかける思いは強かった。

 奇しくも相手は韓国。自然と力が入る。ボールを支配しながらも、ゴールは遠い。ブロックで固める韓国守備陣を破れずに迎えた82分、西田明華(セレッソ大阪L)のパスから小林里歌子(常盤木学園)が放ったシュートが右ゴールポストを直撃し、そのままゴール。「絶対にチャンスは来ると思っていました。ミートしなかったんですけど、決まってよかった」という小林がゴールをこじ開け、ワールドカップ出場権をもぎ取った。

 勝利の瞬間、ベンチに下がっていた長谷川の目には涙があふれていた。

「やっとここまで来た。自分が考えていた以上に強い思いがあったみたいで(笑)、涙が止まらなくなった。決勝は泣かないで喜びたい!」(長谷川)

 そして、その決勝は想像を超える激戦となる。

 中2日で迎えた北朝鮮との決勝。一進一退が続く中、ハプニングが起きたのは後半残り5分を切った頃。接触プレーで隅田凛(日テレ・ベレーザ)が負傷退場となった。不運だったのは、隅田が78分に流れを引き寄せようと切った最後のカードだったこと。ここから日本は10人での戦いに突入する。

 しかし、延長戦で北朝鮮の猛攻をしのぎ、PK戦を制した日本が優勝を決めた。センターサークル付近で動けなくなってしまったのは、キャプテンの乗松瑠華(浦和レッズL)。「ホッとしたのもあるし、延長、PK戦っていうのが初めてだったんで疲労もありました。前回大会では本当に悔しい想いをした。そこからここで優勝するために2年間過ごしてきた。緊張もすごくあったけど、みんなではねのけて優勝できて本当によかったです」(乗松)

 ピンチの際のみならず、セットプレーのチャンスにも味方に声をかける。誓った雪辱と、背負った責任――キャプテンマークを巻く乗松の覚悟が見えた。

 U-17女子ワールドカップ優勝経験者と、U-19で屈辱を味わった選手たち。対極の経験を味わった選手で構成されていたが、実に上手く融合されており、世代の境目を感じることがなかった。いい意味で、主要選手のみが目立つということがない。トップだけでなく、ボランチやサイドハーフを目まぐるしく変えても、実力を落とすことなく、色を変えることができる選手層の厚さを見た。

 最終ラインをまとめた乗松は群を抜く安定感を見せ、清水梨紗(日テレ・ベレーザ)、北川ひかる(JFAアカデミー福島)ら両サイドバックのビルドアップは攻撃パターンを増加させた。

 さらにタレント豊富なのが攻撃陣だ。U-17世代では押しも押されもせぬエースとして活躍した杉田妃和(INAC神戸)や長谷川だけでなく、鋭い切り込みを見せた西田はサイドハーフ、中央と自在に攻撃に絡むことができ、切り札にはパワー系の清家貴子(浦和レッズL)が控えていた。ボランチの隅田も効果的なプレッシングを見せていたし、この1年でメンタル強化を図ってきたという小林は大会MVPに選出された。

 攻撃陣を自在に組み合わせていた高倉麻子監督は言う。

「(マッチングの部分では)トライしていきたいという気持ちもあったし、決勝でもチームを成長させるためにできるトライはした。選手の良さは引き出してやらないとダメ」

 アジア制覇を目指しながらも、すでに世界大会を視野に入れてチーム作りをした。「どんなチームにしたいのか、どんなプレーをしたいのか」という自発性を常に促した。

 決勝の位置づけは"ワールドカップへのスタート"。だからこそ、「北朝鮮には負けられない」「優勝カップを掲げるんだ」と選手に話した。この世代の選手たちは、2020年の東京オリンピックの"なでしこジャパン"へと成長していかなければならない。ポテンシャルは十分に秘めているが、足りないのは勝負強さであり、自信だった。

「選手からは自信がないという声も聞こえてたから、10人で戦ったり、延長、PKとフルコースで戦ったり......、厳しい決勝だったけど、そこにタイトルがついてきたことで大きな自信になったと思う」(高倉監督)

 そしてチームがまとまった要因のひとつは"プレッシャー"だった。

「私たちが想像している以上に前回大会を経験している選手たちの想いが強かった。それは痛々しいくらいに。特に準決勝での選手たちの緊張はすごかった。だからこっちとしても絶対に世界大会へ連れていってやりたいと思った」(高倉監督)

 気持ちの強さは上の世代が落とし込み、自信と勢いは下の世代が持ち込んだ。それでも足りないと高倉監督は言う。

「みんな上手いけど、こぢんまりとしちゃってる。もっとパンチがほしい。U-20年代ともなれば、格段にレベルは上がる。このままでは世界は戦えない。ここから自覚を持って取り組んでほしい」

「世界大会よりも難しい。これがアジアなんだと痛感した」と高倉監督が語る大会を制したヤングなでしこ。今大会、攻守に生まれた多くの課題はすべて"可能性"でもある。来年、パプア・ニューギニアで開催されるU-20女子ワールドカップではどのような戦いを見せてくれるのか、期待が膨らむ。

早草紀子●取材・文 text by Hayakusa Noriko