■8月特集 リオ五輪まで1年、メダル候補の現在地(11)

 世界選手権8日の午前、男子4×100mリレーは予想外の予選敗退。その兆候は3日前の男子200m準決勝からうっすらと見え始めていた。

 大会初日の男子100mでは高瀬慧(富士通)が10秒15を出しながらも、各組3着以下で記録上位3名が進出できるプラス3枠に、0秒03だけ足らず準決勝進出を逃していた。

 予想以上のレベルの高さは200mでも同じだった。25日の予選では藤光謙司(ゼンリン)が20秒28、サニブラウン・アブデル・ハキーム(城西高)が20秒35の2位で準決勝進出を決めたが、強敵が揃った第2組の高瀬は20秒33で走っても4位。プラス枠の3番目でギリギリの準決勝進出となった。

「僕の組の上位3人は決勝の常連の選手。その中で3着以内に入って準決勝進出を決めれば、決勝にはグッと近づけると思って臨んだ。前半の走りはすごく良かったが、直線に入ってから置いて行かれて最後は競り負けた」

 こう話す高瀬は直線に入った時には2番手だった。だがそこで「着順でいける」と思って硬くなってしまい、小さな走りになってしまい、追い上げてきたクリストファ・ルメートル(フランス)に競り負けたのだ。

 翌日の200m準決勝は第3組で、下位進出だったために9レーンまで使う中で最も内側の2レーン。藤光も同じ組の上、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)や20秒04、20秒05を持つ選手たちと同じ組。前半は積極的に突っ込んだが、そこで力を使ってしまい20秒64で最下位に終わった。

 さらに5レーンの藤光も、「レース前に3月のアメリカの大会で痛めた脚の古傷が気になってしまい『思い切っていったら......』と不安が頭をよぎり、前半で乗り切れないレースをしてしまった」と、20秒34で7位。

「結果を見てみれば、自己記録の20秒13を出していれば決勝に行けたことになる。準決勝では20秒0台や1台で走るという気持ちでいったが、心のどこかでは『20秒2〜3台で決勝へ行ける』というこれまでのデータを意識してしまい、そういう準備しかしていなかったのかもしれない」と振り返った。

 7月にスイスで行なわれた競技会で、自己ベストの20秒13を出しながら4位。頭の中では、「ボルトもガトリンも出ていないのにこの順位ということは、相当厳しい戦いになることを覚悟しておかなければいけない」と考えていた。その反面、心のどこかでは「大丈夫だろう」と甘える気持ちも出ていた。それは結局、日本チームの情報の収集や分析能力の低さの表れでもあるのだろう。

 主力のふたりがそんな状態だったにも関わらず、ハツラツと走っていたのが16歳のサニブラウンだった。予選、準決勝とも一番外側でカーブもゆるやかな上、他の選手が気にならない9レーンとなった。予選の20秒35は、自己記録の20秒34が標高995mで平地より気圧も低い準高地で出したことを考えれば、ほぼ自己ベストといえる記録。準決勝では予選に続いて当たったジャスティン・ガトリン(アメリカ)を含め、19秒台2名と20秒0台もふたりいる中で「見えない疲れが残っていたので、前半はぜんぜん乗り切れなかった」と言うが、20秒47で走って5位。運にも恵まれる大物ぶりを存分に発揮し、4×100mリレーでの大爆発を期待させた。

 ところが28日の4×100mリレー予選にはサニブラウンの名前はなかった。そのうえ高瀬も準決勝で右太股に肉離れを起こしたため、起用できなかった。

「本来なら1走が高瀬で2走が藤光、3走が大瀬戸一馬(法政大)で4走は谷口耕太郎(中央大)かサニブラウン。予選の様子を見て勝負に行くなら、決勝はサニブラウンにするつもりだった」と日本陸連の苅部俊二男子短距離部長は言う。

だが高瀬が外れたために大瀬戸を1走に回し、控えの長田拓也(法政大)を3走に使うことになった。さらに日本チームはまだ入賞者を出していないという状況もあり、安全策をとってバトンパスに不安のあるサニブラウンではなく谷口を4走に使ったのだ。

 予選は急仕立ての3走と4走の受け渡しがうまくいかず、決勝進出圏内の3位から順位を4位に落として記録は38秒60。プラス3枠での進出の願いも、第2組の5位が38秒03というレベルの高さに粉砕された。

 高瀬がいなかっただけでなく、エースの桐生祥秀(東洋大)もいなかったという現実はある。だが、主力を欠いても決勝進出を果たしてきたのが日本チーム。その伝統も木っ端微塵になった。

 藤光は「個人の力を上げるのが必要条件だが、合宿でも出てきた者がバトン練習をするだけでナショナルチームの意味が曖昧になっている。個人の走力を上げるためのサポートをしながらも、バトン練習もできるようなチーム環境をつくることが必要だと思う」と語る。

 結局4×100mリレーの決勝では、予選を37秒92のアジア新で通過した中国が38秒01の3位でゴールしながらも、アメリカの失格で銀メダルを獲得した。100mで9秒台を先に出されただけではなく、4×100mリレーでも差を広げられ、世界大会のメダルも日本の銅の上をいかれた現実。そんな中国を、選手や陸連関係者たちがどう感じ、どういう努力をしていこうとするのか。その取り組み次第で、来年のリオデジャネイロ五輪の結果も大きく違ってくるはずだ。

折山淑美●取材・文 text by Oriyama Toshimi