ミニバンも十数年前までは"猫も杓子も"の大ブーム商品だった。当時は各メーカー入り乱れて激アツの販売競争を繰りひろげており、ビッグからスモール、背高から背低までサイズはいろいろ、さらにあるものは高級車だったり、あるものは不可思議なシートレイアウトだったり、あるいはスポーツカーみたいだったり......と、個性的なミニバンが多数存在していた。

 ホンダのミニバンで歴史がもっとも長く知名度が高いオデッセイは、地を這うように背が低かった4代目(第24回参照)から一転して、現行5代目はスライドドアで背の高いワンボックス型になった。ブームが去った現在のミニバンはすっかり日用品グルマが主流で、とにかく広いワンボックス型以外はほぼ淘汰されてしまった。オデッセイも生き残るためには、そうするしかなかったのだろう。

 かつては多種多様なミニバンを手がけていたホンダは、このオデッセイの転身にあわせて、密かにミニバンを車種整理した。というわけで、現在ホンダが国内販売するミニバンは全部で4車種と、ずいぶんスッキリしている。日用品ミニバンとしてフリードとステップワゴンがあり、そして上級ミニバンとして、オデッセイに加えて、この新型ジェイドが新しいツートップ......という布陣である。

 ジェイドは商売上では"4代目オデッセイと、その弟分だったストリームの統合後継車"という位置づけだが、スタイリングや性能レベルは、今はなき4代目オデッセイの再来そのものといっていい。

 特徴的な低全高は、わずかながらも4代目オデッセイよりさらに低い。サードシートは明らかに子供用あるいは大人なら短距離用と割り切っている。そのぶんセカンドシートをあえて2脚独立タイプとして「3列目はメチャせまいけど、2列目は贅沢に広い」という室内思想は今ある実用ミニバンとは一線を画す。この点が4代目オデッセイ(は大人7人がしっかり座れた)と新しいジェイドの大きく異なるツボである。

 走りはお世辞ぬきにスゴイ! ジェイドには1.5リッターエンジンにモーターを追加した低燃費の"ハイブリッド"と、モーターじゃなくてターボを掛け合わせた"RS"の2種類があるが、どちらも地面にベタッと張りついて、ミニバンっぽい腰高感はホントに皆無。まあ、実寸法も立体駐車場フルサイズ(1550mm)よりさらに低くて、普通のセダンとほぼ同じ背丈なのだから、腰高感がないのは当たり前ではある。

 ただ、実際のジェイドのステアリングの鋭さと正確さ、ボディがピタリの安定感、それでいて生き物のように滑らかによく動くサスペンション......などは、いかにも"走りに振り切れたときのホンダ"特有のオーラがただよう。同じジェイドでも、今回のRSはよりスポーツテイストを重視した仕立てで、コーナリングスピードは驚くほど速い。1.5リッターターボは実質的に従来の2.2〜2.4リッター級の性能だが、それでもまったく物足りないくらいに、ジェイドの基本フィジカルは高度だ。

 聞くところでは、ジェイドの企画当初に「走りに特別こだわるオーナーが多いホンダ車は?」という調査がおこなわれたという。1位はまあ予想どおりの"タイプR"だったが、2位がなんと3〜4代目オデッセイだった。実際のオデッセイという名前は、前記のとおり上級背高ミニバンに与えられたが、それはあくまで商品名=商売の都合であり、4代目オデッセイのクルマとしての心意気は、ジェイドが受け継いだということである。

 現在はタイプRを名乗るホンダは国内販売されておらず、日本で新車が手に入るホンダでは、このジェイドと軽スポーツカーS660(第103回参照)が"今のホンダのアツい走りツートップ"だと、ワタシは断言する!

 もっとも、背が異例に低く、その結果として室内はせまく、それなのに異様によく走るジェイドは、口悪くというと、ミニバンとしてはイビツである。実際にジェイドの販売成績は早くも国内トップ30圏外。今年2月に発売されたばかりの最新ミニバンと考えると、ハッキリいって、すでに不人気車(!)というほかないだろう(ジェイドはすでに中国でバカ売れしており、ホンダはトータルで損をしない計算をきちんと立てているが......)。

 ただ、イビツだがブッ飛んだ一芸入魂グルマで、かつ走りがギンギン......とは、いかにも根っからのホンダファンが好むツボだ。いまホンダらしいホンダに乗りたいなら、S660かジェイドに乗るべきである。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune