“不確実な未来”に向けて大企業はどう備えるべきか?

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大企業の開発環境を見直し、外部のイノヴェイターの力を利用する「オープンイノヴェイション」。アクセンチュアは、大企業とスタートアップ双方の橋渡し役を担い、「ヴァリューハブ」となるための活動を行っている。主要メンバー4人にそのヴィジョンを訊いた。

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シリコンヴァレーではすでに10名ほどのチームが結成されており、ロンドン、ニューヨーク、パリなどの主要都市にも数名ずつ担当者が置かれているアクセンチュアのオープンイノヴェイションの取り組みが、今年日本でも新たにスタートしている。

オープンイノヴェイションの概念自体は、何年も前から提唱されていた。では、なぜいまアクセンチュアはそれに取り組むのか、これまで行われてきたものとは何が違うのか、彼らがやろうとしていることの何が革新的なのか。日本チームの主要メンバーにそのヴィジョンを語ってもらった。


「わたしたちの顧客である日本の大企業に、いま足りていないものはアイデアとスピード感。その悩みを解決することがこのチームのミッションです」──保科学世博士(デジタルコンサルティング本部のマネジング・ディレクター。アナリティクス、データサイエンスが専門領域)

なぜ大企業ではイノヴェイションが生まれないのか?

アクセンチュアの顧客である大企業が抱える問題意識のひとつに、「なぜ大企業ではイノヴェイションが生まれないのか?」というものがあるとオープンイノヴェイションの活動を率いる保科学世博士は言う。「わたしたちはまずその問題に取り組むために立ち上がったのです」

テクノロジーのサイクルが加速し、それに比例してビジネスのスピードも一段と増しているにも関わらず、大企業では組織間の壁が高いがゆえに、新しいアイデアを生み出す社内環境に乏しく、また、仮にイノヴェイティヴなアイデアが生まれたとしても社内階層が深くて稟議に時間がかかった挙句、通らないことすらあるといった問題を抱えている。

「これでは日本の大企業はスピード、コミュニケーション、アイデアすべてにおいて世界のプレーヤーに後れを取ってしまいます」と、保科氏は指摘する。「この状況を打開し、オープンでアジャイル(俊敏)、そして強靭なビジネスを築くため、大企業はオープン・イノヴェイションを導入する必要に迫られているのです」

スタートアップ、大学、公共・自治体といった社内外の人々と繋がり、創発的に解決すべき課題を見つけ出し、外部の新しいテクノロジーを取り込んだり、自社技術を開放することで共創へと至る。このような新しいビジネスのためのオープンな「場」を生み、大企業とスタートアップや研究機関、行政を繋ぐためのハブになっていく。それがこの活動のゴールだと保科氏は話す。



「自ら商品を売る立場にないコンサルこそ、大企業とスタートアップをつなぐ橋渡し役として最適なのです」──立花良範(デジタルコンサルティング本部のリードを務める)

大企業とスタートアップをつなぐ「ヴァリューハブ」になる

一見すると水と油のようにも思える大企業とスタートアップ。

古い価値観や硬直化したビジネスモデルをディスラプトするスタートアップには、リスクを恐れず、尽きることのない情熱をもつ優秀な若者たちが集まっている。そんな彼らからすれば、大企業は「オールド・エコノミー」であり、その意思決定の遅さやアイデアの乏しさを嫌う傾向がある。

一方で信用や安定性を重視し、確実な利益を求める大企業からすると、スタートアップはこれまで「海の物とも山の物とも分からないもの」でしかなかった。そのような両者をつなぐことで、どのようなメリットが生まれるのだろうか?

「スタートアップがもっているアイデアやスピード感と大企業がもっているデータやコンテンツ、ネットワーク等をうまく組み合わせることができるならば、両者は必要とするところを補いあって大きな力を発揮する可能性を秘めています。特にスタートアップにとっては、予算やビジネスのスケールアップを大企業が補ってくれるという点が魅力です」と保科氏は語る。

最近では大企業がスタートアップの集まる「場」を設けて積極的に育成しようとするプログラムも散見される。だがアクセンチュアは、特定の商品・サーヴィスを売り続けなければならない立場ではないため、不要なしがらみもなく、両者をつなぐヴァリューハブとして最適な存在なのだと、デジタルコンサルティング部門をリードする立花良範は言う。

「アクセンチュアの今年のテクノロジー・ヴィジョンのテーマは“We Economy”です。 デジタルの時代に消費者はさまざまな情報機器で武装しているため、ひとつの企業(“I”)が消費者のすべての要求を満たすことはできません。そのため、複数の企業(“We”)がひとつのエコシステムをつくって一人ひとりの生活を充実させることが大切になります。プロダクトをもたない徒手空拳的な立場にあるアクセンチュアは、企業や行政、スタートアップを結び、公共の役に立つことをビジネスベースに乗せて、持続可能な仕組みをつくる触媒のような役割を担うべきだと考えているのです」

このようなヴァリューハブ構想は、アクセンチュアの海外拠点においてすでに実績がある。その代表的な事例は、金融スタートアップと大手金融機関をつなぐ「場」として、ニューヨーク、ロンドン、ダブリン、香港で実施された12週間のメンターシッププログラム「FinTech Innovation Lab」だ。

2012年に開始して以来、59社のスタートアップが参加し、29社の金融機関が興味を示し、総額2億ドル以上の投資を集めている。

こうした海外の成功事例が後押しとなって、日本のチームもヴァリューハブとしての自分たちのミッションとコンサルティングの未来を具体的にイメージし、それを推し進めようとしている。



「その命題は本当に正しいのか? ソリューションデザインの一歩手前、イシューデザインでインパクトが決まる」──市川博久(組織上はオペレーションズ部門のマネジングディレクターを務める一方、2010年より「若者の就業力・起業力強化」をテーマにCSRプロボノ活動を展開。NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボとの協働プロジェクト「LOCAL GOOD」など、オープンイノヴェイションのプロジェクトにも携わっている)

「イシューデザイン」こそが“不確実な未来”に向けた鍵となる

市川博久は、約6年間にわたってNPOなどの公益団体と共にさまざまなプロジェクトを通じて社会課題と向き合い、そこから得た気づきのひとつが「イシューデザイン」の必要性だという。

「成熟化社会においては、人々の欲するものや望む社会の姿は極めて多種多様となり、何が問題で何が原因なのか見えづらくなってしまいました。企業側としても命題の設定が極めて難しくなってしまったのです」

市川氏は、命題ありきの課題解決ではなく、多様な人々からなる対話の場のなかからイシューを発見すべきだという。

「例えば、フューチャーセンターやシビックテックなどによる多様な地域市民が集う場では、社会の持続可能性をテーマにイシュー発見のダイアログが交わされており、そこには不確実な未来に対する鍵が隠されています。そもそも社会と多様性は同義です。わたしたちも社会というカオスに飛び込んで、多様な人々の声に耳を傾け、イシューを切り出し、そこからカタリストとして創発的にイノヴェイションを誘発していきたいのです」

戦略コンサルティング本部で大企業のクライアントのイノヴェイション戦略を担当する廣瀬隆治はこう語る。

「従来のコンサルティングビジネスは単純に言えば、他国や他業界で起きたことをもとに、知識・情報の格差を利用してクライアントがすべきことを提言・実行するものでした。しかしながら、ウェブで検索すれば大抵の知識・情報を集めることができる現状においては、新たな提供価値・差別化要素が求められています。そのうちのひとつがスタートアップの世界でキラッと光る原石を見つけて大企業のビジネスと結びつけることであり、そこに次の時代のコンサルティングがあると思っています」

「既知の課題の解決よりも『不確実な未来に向けてこれをやるべき』と企業に提示していきたい」──廣瀬隆治(戦略コンサルティング本部のマネジング・ディレクター。大企業のクライアントのもとでイノヴェイションを起こすミッションを担っている)


“不確実な未来”に向けて大企業はどう備えるべきか?

筆者は今回の取材を通して、アクセンチュアのオープンイノヴェイション・チームが、クライアントである大企業にこれから提案する回答を次のように理解した。

まず第一に自社が本当に解決すべきイシュー(課題)は何かを、社外の意見も取り入れて適切に見定めること。次にその課題を乗り越えるためのアイデアやテクノロジーを提供できるイノヴェイターをいち早く見つけ出して、彼らと協力して取り組む方法を探ることだ。

アクセンチュアのオープンイノヴェイション・チームは、大企業とイノヴェイターをつなぐカタリスト(触媒)として機能して、そのサポートを請け負うことになる。

この取り組みをアクセンチュアは、“不確実な未来”においてこれからコンサルティング・ファームが果たすべき新しい役割だと認識している。今後の目標は、より多くの成功事例をつくり出すことだろう。

[アクセンチュア]