人生、ツキに見放されている時の最善の対処法
【石原壮一郎の名言に訊け】〜高嶋仁の巻

Q:ツキがないというか何というか、このところ悪いことばかりが続いています。仕事で大きなミスをして上司の信頼を失うし、長年付き合っていた彼女ともちょっとした誤解が元で険悪な関係になっています。憂さ晴らしにパチンコに行ってもぜんぜん当たりません。しかも、お腹が冷えてあわててトイレに入ったら紙がなくて……。ただ、ピンチはチャンスだと言うし、悪いことが重なったあとはきっといいことがあるはずですよね。信じて大丈夫ですよね。そう信じないとやってられません。(千葉県・27歳・運輸)

A:昔から、人間の運の総量は誰しも同じだと言います。「苦あれば楽あり」「好事魔多し」という諺もありますが、実際はどうなんでしょう。昼下がりの喫茶「いしはら」のカウンターでは、元高校球児で今も高校野球となると目がない山田さんが、甲子園の試合を見て声援を送っています。お楽しみのところすいませんが、どう思いますか、この相談。

 ちょ、ちょっと待って、今いいとこだから。あー、ダブルプレーか……。えっ、何だって、悪いことが重なったあとにはいいことがあると信じていていいか、だって。ま、信じたければ信じればいいんじゃないの。いや、やっぱり信じないほうがいいかな。

 野球でも「ピンチのあとにチャンスあり」って言われてるけど、あれって、ただ単にタナボタのラッキーを待ってるわけじゃないんだよ。ピンチを乗り切ってテンションが上がってるから、さらに気合いを入れて頑張ったらチャンスを作れるぜ、ってことなんだよ。相談を読んでると、ツキの貸しが返ってくるのをアテにして「果報は寝て待て」的な姿勢でいるつもりにしか思えない。だとしたら、ふざけんなってことだよね。

 甲子園で春夏合わせて3回優勝して、歴代最多の63勝っていう記録を持っている智弁和歌山の高嶋仁監督が、こんなことを言っている。

「苦しい思いをした人間だけが逆境をチャンスに変える」

 逆境をチャンスに変えられるのは、努力して頑張ってる奴だけだよ。当たり前だろ。根拠のないジンクスに頼っているようじゃ、逆境のまま事態は悪化していくだろうな。高嶋監督は、生徒たちにどこよりも厳しい練習をさせた。だから結果が残せたんだ。一時期、今年で退任するって言ってたけど、まだ続けてくれるみたいだな。よかったよかった。

 あんたみたいなタイプは、インチキなビジネスセミナーのいいカモだよね。インチキな講師は、それこそジンクスみたいなのをいっぱい持ち出してきて、「あなたはそのままで大丈夫。こういうジンクスがあるから、きっと成功する」と無責任に夢を持たせて、苦しいことやできそうにもないことからは目をそらさせる。聞くほうだって面倒な思いをしたり自分のダメな部分を突きつけられたりするのはイヤだから、ジンクスをあれこれいじって救いを求めようとする。どっちもどっちだけど、まあ不毛な話だよね。

 仕事のミスは仕事で取り返すしかないし、彼女とはきっちり話し合って誤解を解いたほうがいいし、今度からトイレに入るときは紙があるかどうかちゃんと確かめなよ。もう十分に自分を慰めただろうから、あとはピンチをチャンスに変えるために、本気を出してみるのがいいんじゃないの。苦しい思いをすればいいことがあるっていう“ジンクス”は、信じてもいいと思うよ。

◆【今回の大人メソッド】運やジンクスに頼りたくなるのは悪循環の始まり

「悪いことが重なったあとには、いいことがある」と考えるのは、ヘコんでいる自分を元気づける生活の知恵ではあります。しかし、アテにしてボーッと待っているだけでは、いいことなんて起きません。運やジンクスに頼りたくなるのは弱っている証拠。そのまま甘い誘惑に溺れてしまわず、自分に喝を入れて、無理のない範囲で行動を起こしましょう。

【相談募集中!】ツイッターで石原壮一郎さんのアカウント(@otonaryoku )に、簡単な相談内容を書いて呼びかけてください。

いしはら・そういちろう/フリーライター、コラムニスト。1963年三重県生まれ。月刊誌の編集者を経て、1993年に『大人養成講座』(扶桑社)でデビュー。以来、さまざまなメディアで活躍し、日本の大人シーンを牽引している。『大人力検定』(文春文庫PLUS)、『大人の当たり前メソッド』(成美文庫)など著書多数。近年は地元の名物である伊勢うどんを精力的に応援。2013年には「伊勢うどん大使」に就任し、世界初の伊勢うどん本『食べるパワースポット[伊勢うどん]全国制覇への道』(扶桑社)も上梓。最新刊は、定番の悩みにさまざまな賢人が答える画期的な一冊『日本人の人生相談』(ワニブックス)