まずは血圧と気温の関係について、東京都健康長寿医療センター高血圧外来の担当医が説明する。
 「血圧は気温に著しく影響を受けます。気温が下がれば着衣が重くなって血管が萎縮し、健康な人でも血圧が高くなります。逆に暑い時期は、多くの汗をかいて体の水分が失われ、そのままの状態でいると血液がドロドロの状態になる。そのため血圧が上昇し脳梗塞や心筋梗塞などの血管病を起こしやすくなりますが、通常の生活を送っていれば、夏には血圧は正常値まで低下し安定するのです。人によっては降圧薬を一時的に減量、あるいは中止(休薬)する場合がありますが、その際はあくまで医師の指示に従ってください」

 さらに同担当医は、こんな一例を示した。
 52歳の会社員Bさんが降圧剤を服用し始めたのは、5年前。当初、Bさんの日常での血圧は160/106mmHgと、診察室で測定した場合の基準値140/90mmHg未満を遥かに超えて高かった。以来、処方された降圧薬(一錠)を飲み忘れないようにし、定期的な運動、減塩、ストレスを少なくする生活などを心掛け、血圧は徐々に低下。最近は120/80mmHg台を維持するようになったという。
 昨夏の7月は今年同様に暑さが厳しく、熱中症で倒れて搬送される騒ぎが何件も起きていた。しかしそんな折、Bさんは月に1回の定期検査に訪れると、担当医から「血圧が安定しているので、夏の間だけでも薬をやめてみますか?」と提案され受け入れた。ただし、「血圧が上がれば再度薬を飲み始めてもらう」とクギを刺されていたので、以前にも増して適度な運動と減塩食に取り組んだ。
 結果、今年は降圧薬をやめて2度目の夏を迎えられ、“休薬”に成功したのだ。

 東京都多摩総合医療センター血液内科の平野宏之医師は言う。
 「暑い日は暑さで血管が拡張するので、血圧が下がりやすく、それをきっかけに薬を止めることは可能です。ただ、冬になると血管が収縮して血圧が上がりやすくなるので、『薬をやめられたのは夏の間だけ』となる人は多いようです。しかしBさんのように、薬と手を切ることができた人も珍しくありません」

 ただし、平野医師は次のように指摘する。
 「“休薬”する場合は、生活習慣に注意し、定期的な血圧測定を怠ってはいけません。また、休薬が勧められるのは、治療前に臓器障害のない『I度高血圧』(収縮期血圧140〜159mmHg、または拡張期血圧90〜99mmHg)の患者さんに限ります。ですから、血圧が下がるといっても自己判断で降圧薬の服用をやめることは絶対に避けてください」

 なぜなら、降圧薬の服用をやめると血圧が急に上昇し、そのまま血管病を起こすリバウンド現象を起こす場合があるからだ。特に、カルシウム拮抗薬、β遮断薬を使用している人に、リバウンド現象が起きやすいのだという。
 したがって、薬をやめるには(1)毎朝自宅で血圧を測定している。(2)前出のBさんのように血圧基準値「120/80mmHg」を、最低でも半年以上キープすること。この二つの条件を満たさなくてはダメだ。

 別の専門家も“休薬”についてこう語る。
 「薬を複数錠飲んでいる人は、まず今の錠数から一錠減らすようにしてください。三錠なら二錠、二錠なら一錠と…。1週間毎朝血圧を測り、4日間以上130/85mmHgを超えてしまったら、服薬の再開を検討し始めることになります」