リオ五輪予選を兼ねたバスケットボールの女子アジア選手権が8月29日から中国・武漢にて開催される。今年6月からWNBA(米国女子プロバスケリーグ)のシアトル・ストームに入団した日本のエース、渡嘉敷来夢(とかしき らむ・24歳/192cm)も一時帰国して24日に合流。12名の代表は決戦の地に乗り込んだ。

 FIBA(国際バスケットボール連盟)から資格停止処分を受けていた日本バスケ界。協会会長に就任した川淵三郎氏をはじめとするタスクフォースチームによる、スピード感ある2リーグ分裂の問題解消と役員人事一新の改革によって、晴れて8月9日に正式解除の日を迎えた。「五輪出場ピンチ」という現実を突き付けられなければ動かなかった日本バスケ界だが、キャプテンを務める吉田亜沙美(JX-ENEOS)は「出場できると信じていたし、制裁解除のために動いてくださった方々のためにも、応援してくれる皆さんのためにも、私たちは一丸になって切符をつかみにいく」とより一層の決意を表明している。

 オリンピックの出場枠は12カ国で、各大陸予選でチケットを手にできるのは優勝国のみ。アジアの2、3位は来年開催される最終予選に回ることになるが、日本はこの予選方式になった2008年の北京五輪から、最終予選に回っては出場権を逃している。最終予選では強豪ひしめくヨーロッパ勢を敵に回さなければならないため、是が非でも、今回のアジア予選で切符をつかみたい。

 大会方式は、アジアのレベルIに属する日本、韓国、中国、チャイニーズ・タイペイ、タイ、インドの6カ国で総当たりの予選リーグ戦を行ない、上位4チームが準決勝、決勝に駒を進める。予選リーグと準決勝以降での再戦があるだけに、手の内を知り尽くした中での駆け引きが、アジア選手権の常だ。

 前回大会(2013年)はこの駆け引きなしで43年ぶりの栄冠をつかむことができた。アジアのライバルとして立ちはだかる2強のうち、中国が世代交代の真っ只中で若さを露呈し、韓国は世代交代が遅れ、30代のベテラン勢がスタミナ不足に陥ったため、日本の得意とする走力を生かすことができたからだ。日本は大会MVPを獲得した渡嘉敷を筆頭に、ベスト5を受賞した吉田、間宮佑圭(まみや ゆか/JX-ENEOS)ら充実期を迎えたメンバーが完全にライバルたちを凌駕した。

 緩やかながら世代交代を進めていた日本は、若手が経験を積み、今後の伸びしろに期待がかかるところ。だが今回、日本はチームの方針を変えた。というより、変えざるを得なかったといったほうが正しいだろう。それは、昨年の世界選手権で惨敗したからだ。

 昨年の世界選手権で日本は、司令塔の吉田が膝の故障によって戦線離脱をした影響もあったが、あまりにも走れないまま予選リーグ3連敗を喫して大会を終えた。いまやどこの国も大会前に手合せをして情報を入手する時代。アジア制覇をした日本には大会前にたくさんの試合のオファーが舞い込み、今は手の内を知られる怖さよりも強豪国と戦って力をつけていくことが先決とばかりに、9カ国との対戦にトライをした。だが、そこでスカウティングされたことを本番で覆すほどの対応力はまだ備えていなかった。

 迎えるリオ五輪予選では戦い方を変えるしかない。「世界選手権では足を止められた反省があるので、今回は今まで以上に走って勝つ勢いを出したい」(内海知秀ヘッドコーチ)と、日本の良さをより前面に掲げたチーム作りを推し進めることにしたのだ。

 その勢いの象徴が、スピードと鋭いドライブインを武器にスタメンの座をゲットした23歳の本川紗奈生(もとかわ さなえ/シャンソン化粧品)、そして3ポイントシュートが得意なメンバーを揃えたことだ。本川は近年の日本には珍しいスラッシャータイプのシューティングガード。若手で臨んだ昨年のアジア競技大会では銅メダル獲得の主力となり、成長著しい。また栗原三佳(トヨタ自動車)、山本千夏(富士通)ら若手シューターが選ばれた中で異色なのが37歳のベテラン、三谷藍(富士通)の復活だ。三谷には若手が戸惑ったときに、短い時間で流れを変える一撃が期待される。

 ようやく世代交代に踏み切った韓国も厄介な相手に代わりはないが、それでもやはり、ホームアドバンテージがある中国こそ、今大会一番の難敵になるだろう。中国は昨年の世界選手権でヨーロッパの強豪、セルビアやベラルーシから勝ち星をあげて6位になる急成長を見せ、王座奪回に燃えているからだ。

 そんな中で日本の最大の武器となるのが渡嘉敷来夢の存在である。

 日本代表に合流した渡嘉敷はやる気に満ちていた。WNBAに参戦して3カ月あまり。ストームでは27試合に出場し、平均20.1分出場、8.3得点、3.0リバウンド、最高21得点を記録。チーム再建期のためになかなか勝ち星は得られていないが、コートでの存在感は徐々に大きくなり、「運動神経が良いタク(渡嘉敷)はディフェンスで貢献している」とジェニー・ブーザックヘッドコーチに言わしめるほどである。

 日本人がアメリカで運動能力を認められることは、これまでのバスケット史上なかったこと。本人が「毎試合すごい選手と対戦できることにワクワクしっぱなし。うまくいかない時は、それをどうしようかとやり合えることもすごく楽しい」と思える感情や体験は、日本にいたら味わえないことだろう。

 懸念があるとすれば、スタミナと対応力だ。「アメリカに行って気がついたけど、日本は本当によく走る」という渡嘉敷のWNBAでの出場時間は日本にいた時に比べると少ない。日本代表ではエースとしての働きが求められ、連戦のためにスタミナが必要となる。またストームではアウトサイドのシュートを多く求められるポジションに挑戦していたが、日本ではインサイドでアタックするプレーも要求される。アメリカのスタイルから日本への"逆アジャスト"を短期間でやり通さなくてはならない。

 それでも、日本のエースは「やってやりますよ」と笑顔を見せる。その理由はひとつ。「個人のレベルアップのためでもあるけど、日本代表として世界に通用する選手になるためにアメリカに行った」からだ。

 インサイドでコンビを組む間宮は「私たちがタクに合わせるのではなく、彼女が私たちに合わせてほしい」という注文を出す。これまで創り上げてきた日本のチーム力に、渡嘉敷ならば、プラスアルファを加えられると期待してのことだ。

 渡嘉敷のストームでのチームメイトには、アメリカ代表で3度の五輪金メダルを獲得したベテランガードのスー・バードがいる。そんな世界一の司令塔から「選手である以上、オリンピックは経験すべき場所だと言われた」と話す渡嘉敷の目は輝きを増し、そしてこう言い切った。

「WNBAでプレーしてから、よりオリンピックに行きたくなりました。中国や韓国が私をどう抑えにくるのかが楽しみだし、逆に私は1対1のディフェンスがよくなったと思うのでライバルたちを抑えたい。ただオリンピックに行きたい。その思いで戦います」

 アウェーの地で走力を発揮し、渡嘉敷が持つプラスアルファを融合すること。このチャレンジを乗り越えてこそ、2004年のアテネ大会以来、3大会ぶりとなる五輪切符を手にすることができる。

小永吉陽子●取材・文 text by Konagayoshi Yoko