日本女子ツアーは早くも後半戦に突入。注目の女王争いは、前半戦終了時点で獲得賞金1億円を突破したイ・ボミ(27歳/韓国)が、賞金ランクのトップに立って独走している(獲得賞金1億2229万2066円/8月24日時点。以下同)。

 今季のイ・ボミは、ほけんの窓口レディース(5月15日〜17日/福岡県)、アース・モンダミンカップ(6月25日〜28日/千葉県)と2勝を挙げているうえ、2位が7回もある。さらに3位が2回あって、ベスト10フィニッシュはトータル14回。その安定した強さは他の追随を許さない。

 賞金ランク2位のテレサ・ルー(27歳/台湾。獲得賞金8484万8200円)とは、約4000万円差。イ・ボミがこのまま調子を維持していけば、昨年9月に亡くなった父との約束でもある賞金女王のタイトル獲得は「ほぼ確実」と、世間的には見られている。

 ところが、当の本人、イ・ボミの心中は決して穏やかではなかった。

「正直、(女王争いに関しては)まったく安心していませんよ。本当の勝負はこれから。10月のNOBUTA GROUP マスターズGCレディース(10月22日〜25日/兵庫県)からだって、思っています。この前、アンちゃん(アン・ソンジュ。27歳/韓国※)ともそんな話をしていたんですよ」
※2010年、2011年、2014年と過去に3度、賞金女王の栄冠を手にしている。

 9月に日本女子プロ選手権(9月10日〜13日/長崎県)、10月初めには日本女子オープン(10月1日〜4日/石川県)と、国内メジャーが2戦、さらにホステスプロを務めるマスターズGCレディースを含めて、その後も優勝賞金が2000万円前後の、高額賞金の大会が続々と控えている。つまり、それらの大会で他の選手が優勝すれば、イ・ボミとの差も一気に縮まる。ゆえに、イ・ボミが今の状況を楽観的にとらえることはない。

 また、イ・ボミがそれだけ危機感を募らせるのは、賞金ランク2位につけて彼女を追いかけているのが、テレサ・ルーだからだ。

 テレサ・ルーは今季、すでに3勝を挙げていて、実力のバロメーターと言われる平均ストロークも1位(70.0027)で、2位のイ・ボミ(70.2656)を上回っている。イ・ボミに勝るとも劣らぬ安定感抜群のゴルフを披露し、海外メジャーの全英リコー女子オープン(7月30日〜8月2日/スコットランド)でも最終日最終組でラウンドして6位でフィニッシュ。大きな自信をつけて、これから行なわれるビッグトーナメントでも間違いなく優勝争いに絡んでくるだろう。3勝目を挙げた先日のNEC軽井沢72(8月14日〜16日/長野県)でも、その強さは際立っていただけに、イ・ボミが「うかうかしていられない」という気持ちになるのもわかる。

 そうなると、これまでの、2位が7回という数字が、偉大ではあるが、惜しくも感じられる。その点について聞くと、イ・ボミは悔しそうに唇を噛んだ。

「2位が多い、というのは、すごいことだと思うんですけど、残念な気持ちがないわけではありません。短いパットをミスしたり、簡単なアプローチを失敗したりして、ボギーを叩いてしまったことがあったからです。そのちょっとしたミスがなければ、優勝できていたのかな、と思うとやっぱり悔しいですね」

 ほんの少しの差で、手元からスルリとこぼれ落ちていった勝利。そのいくつかでもつかめていれば、今頃、目標としていた年間5勝はすでに達成できていたかもしれない。

 だが、そんな甘い世界ではないことは、イ・ボミ自身、よくわかっている。昨季も、一時は賞金ランクのトップに立ちながら、終盤で逆転されるという、苦い経験を味わった(最終的には、アン・ソンジュ、テレサ・ルーに次いで3位)。その分、まずは目標クリアへの思いが強い。

「ツアーはまだ、残り10試合以上もあるので、そこで目標の5勝、言い換えれば"あと3勝する"というのを目指していきたい。もし、これまでに5勝していたら、逆に試合に集中していくことが難しかったと思うんです。そういう意味では、あと3つ勝たなければいけない、という状況にあるのは、むしろ私にとっては好都合です。メジャー大会でも、優勝を狙っていきますよ。

 獲得賞金2億円超えですか? それを期待している人もいるかもしれませんが、そこまで考えてしまうと、それもまた、集中力の妨げになると思うので、考えないようにしています。そういう結果は、あとからついてくるモノだと思っています」

 今季、安定した成績が残せている要因について、イ・ボミはこう語る。

「ドライバーがしっかりとフェアウェーをとらえられるようになったこと。それと、パター部門の記録(平均パット数=1.7595)が1位ということも、安定した成績につながっていると思います。もともとショットはよかったのですが、それに加えて、パットがよくなったことは本当に大きいですね。これまで、賞金女王争いに加わりながら、最後に逃してしまったのは、パットがよくなかったからです。このまま平均パット数の成績が1位をキープできれば、もっといいゴルフができるだろうし、目標にも近づけると思っています」

 最後まで油断することなく、自分のプレーに徹することだけを考える。昨季の失敗を繰り返さないこと、そして父との約束を果たすという強い意志が、イ・ボミを突き動かしていく。その真摯な姿を見る限り、悲願は成就されるはずである。

 そこで気になるのは、次なる目標である。日本ツアーをステップにして、米ツアー参戦もあるのか。賞金女王獲得後、イ・ボミの視線の先はどこを見ているのだろうか――。その疑問を率直にぶつけてみると、イ・ボミはこちらを真っ直ぐに見つめて、こう切り出した。

「実は、その先のことはまだ考えられないんですよ。まだ賞金女王になったわけでもないですし、次の目標はそれが実現できてから決めます」

 ひと呼吸置いて、彼女はこう続けた。

「ただ、基本的なベースは、これからも日本ツアーに置きたいと思っています。その中で、もしも賞金女王になれたら、海外メジャーには積極的に挑戦していきたいですね。来年開催されるリオデジャネイロ五輪にも出たいという気持ちがあります。(韓国人選手の)層が厚いので、出場するのは難しい状況にありますが、最後まで諦めていません。

 それで、『米女子ツアーに挑戦するのか?』と思う方もいるのかもしれませんが、私は日本ツアーが大好きです。日本のゴルフの環境のよさを、すごく気に入っています。それを、理解してもらいたいと思っています。プロゴルファーなら、よりよい環境でゴルフをすることに幸せを感じるのは、当然のことですよね?

 私は韓国人で、母国の韓国では常にたくさんの方が応援してくれて、支えてくれています。帰国したときには、いつも多くの方々が温かく迎えてくれるんです。韓国を離れてプレーしているのに、本当にありがたいと思っています。そして今では、海外の日本でも多くの方々が応援してくれるようになりました。これには、すごく驚いているんですよ! そんな中でプレーすることの楽しさや幸せを、今存分に味わっているところです。これからも、ゴルフをすることに幸せを感じながら、プレーしていきたいです」

 人気選手ゆえ、今後のイ・ボミの動向については、日本、そして韓国メディアでさまざまな憶測が飛び交っている。本人にとって、それは本意ではない。だからこそ、彼女はそのことについて、今思っている正直な気持ちを熱く語った。

 先のことはともかく、今確かに言えることは、イ・ボミが、韓国、そして日本を代表するゴルファーへと成長したこと。そして、これからも多くのファンに愛されるプレーヤーであり続けたいと思っている、ということだ。まずは、彼女が悲願を達成することができるかどうか、その過程をじっくりと見守っていきたい。

text by Kim Myung-Wook