法林岳之氏
 今年5月、SIMロック解除が義務付けされた。これにより乗り換えの障壁がひとつ消え、MVNOの「格安SIM」への注目度もさらに高まっている。

 格安SIMは、前々からデータ通信用のサブ回線としては、リーズナブルな手段として人気だった。では、音声通話付きのメイン回線としてはどうなのか? 格安SIMだけにしても問題はないのか?

 スマートフォンや携帯電話に詳しいジャーナリスト・法林岳之氏に解説してもらった。まず問題になるのは音声通話だ。

「通話料金が高いというのは有名ですね。通常の通話料金は20円/30秒。楽天でんわのようなアプリ系のサービスやIP電話を活用しても10円/30秒程度はかかります。LINEやSkypeなどもありますが、仲間内で使うならともかく、いわゆる電話の代わりにはならないでしょう」

 10円/30秒としても、1時間通話すれば料金は1200円。三大手のかけ放題プラン2700円(定期契約ありの場合)と比較すると、一カ月間の通話時間は2時間15分が目安だ(通話料金についての比較。データも含めた総額は図参照)。

⇒【資料】はコチラ http://hbol.jp/56834/sbj2015s_24

◆数字の比較だけでは使用感はわかりにくい

 法林氏が注意を促すのは、数字だけではわからない使用感だ。たとえば通話品質や安定性。

「三大手と同じクオリティを求めるのは難しいと言わざるを得ません。通話事業には通信設備が必要不可欠なので、回線の帯域幅は投資額の影響を露骨に受けるからです。実際、事業者によって、通信スピードがかなり異なります。ところが、MVNOがどれだけ太い回線を借りているのかは公表されていないため、事前に明確な数値で比較することもできないのです。ネット上にはユーザーが計測した数値もありますが、電波というのは水物ですから、同じ条件で計測・比較するのはほぼ不可能。あくまで参考値としか言いようがないのです。OCN、IIJmio、BIGLOBEなどの、シェアが多いところは比較的リードしているようですが、人気になりすぎてユーザーが集中すれば、遅くなることもあります。実際、そうなった事業者もありました」

 それはどんなリスクにつながるのだろうか?

「たとえば、大手三社の場合、需要を予測して、設備を増強します。しかし、MVNOの場合は、契約者増で混雑してきても、設備の関係で携帯電話会社との回線契約をすぐに太くできないことも考えられる。通信速度が遅くなったところで対策に乗り出しても、速度が回復するのは数カ月後ということもあり得ます」

 はたまたデータ通信。事前に使用量を選択する必要がある。

「『自分はあまり使わない』と言いながら、実は使っている人も多いです。スマホは外出中に使うものと思っている人は多いのですが、統計によると、実は家や会社で使っているんですよ。ブロードバンド環境があれば通信費を節約できますが、格安SIMだけで全てを賄うのはなかなか難しいと思いますね」

 そして大きく異なるのがサポート体制だ。

「スマホが故障したとしても、三大手であれば、ドコモショップなどの系列店に駆け込むことでなんとかなります。補償制度もあり、代替機も貸し出してくれますからね。系列店は地方にもありますし。しかし、格安SIMはそうもいきません。実際にあった知り合いの例では、修理に3〜4週間かかったり、そもそも修理を受け付けてもらえるまで1週間近くやりとりをしたりしてました。これではライフラインとしては心もとないです」

 たとえば、年老いた両親の通信費を削減するために格安SIMを利用するというのは、身近にサポートをできる人がいるのでない限り、危ういものがある。

「現状では、格安SIMは慣れた人向けでしょうね。身近で目にした使い方ですと、仕事用携帯電話で事足りる人がサブ回線として持ったり、オークション用に電話番号を確保したい人の例などもありました。低価格の選択肢が広がったことは素晴らしいことですから、利用スタイルを見極めて選択するのがよいでしょう」

◆チェックポイント一覧表

【通話料金】
通話料金が従量制になるため、通話時間によって料金が大幅に変わる。

【データ通信のスピード】
事業者によってデータ通信のスピードは大幅に変わる。

【ケータイメールアドレスを使えなくなる】
docomo.ne.jpやezweb.ne.jpといったアドレスは使用できなくなる。SMSは利用可能だが、1通ごとに料金がかかる。

【対応端末に制限がある】
端末を流用したい場合には、乗り換え先が元会社の通信規格に対応している必要がある。

【法林岳之氏】
ジャーナリスト。スマートフォンや携帯電話など、モバイル通信についての第一人者。また、デジタル関連製品についての執筆活動・講演を精力的に行う