トム・クルーズの体当たりアクションと視覚的快楽が凄い「ミッション:インポッシブル」

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映画『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』が公開17日間で累計興行収入34億円を突破しました。シリーズ前作である『ゴーストプロトコル』の同期間と比べて23%増と好調です。シリーズ5作目となる今回の見どころをライター・編集者の飯田一史さんとSF・文芸評論家の藤田直哉さんが語り合います。

監督がサスペンスの力を信じている


藤田 トム・クルーズ主演の大人気シリーズ『ミッション:インポッシブル』最新作、『M:I5』こと『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』は、端正なサスペンス映画であり、アクション映画でした。監督がサスペンスの力を信じて作っているのが良くわかりますね。映像も、最近の流行である3Dを使ったぐるぐる動く映像を、あえて避けた画面作りをしていますね。まず、この堂々としたたずまいを、評価したい。
 とはいえ、若干の物足りなさを覚える部分もありました。
 まずは、面白かった点から指摘します。設定としては、主人公のイーサンが所属しているのはIMFという「架空の組織」と表向きは言っている諜報組織。でも本当は実在するIMFが、「『シンジケート』と呼ばれる架空のテロ組織をでっちあげて、組織を正当化するために自作自演の事件を起こしている」とCIAに追い詰められていく。この逆転の設定は面白かったですよ。そりゃ、現場にイーサンと犯人はいるわけだから、状況証拠的に、イーサンが犯人に見えても仕方がないわけです。

飯田 主人公(たち)が疑われるのは第1作目もそうだったし、スパイ映画ではよくあるモチーフだよね。ほかにもIMFが、要人がいるオペラ会場に潜入して敵組織とやりあうっていうのも、1作目の焼き直し。
 見た目のハデさとセキュリティと潜入手法(に関するテクノロジー)だけが今っぽくアップデートされていて、あとは敵のありようも含めて20世紀のスパイもののマナーを踏襲していてはみ出さないんですよ。
 イーサンの前に現れる謎の女のダブルスパイっぷりや「組織と個人で引き裂かれる」とか「国のために働いていたはずなのに、ボスから梯子を外されて根無し草になっちゃう諜報員」とかもぜんぶ古典的テーマ。つまり、『M:I5』の見どころは話の筋とか設定の新味じゃない。そんなの期待してもムダ!
 見どころは、トム・クルーズの体当りアクション! カーチェイス! 無理ゲーそうなセキュリティやぶりをしまくるスーパースパイぶり! そんなふうに娯楽に徹して、現実の政治的事件を考えさせない。

スタート地点の期待値はでかいが……



藤田 いや、現実の政治的事件に関連するような、社会派的なメッセージも、あると言えばあるんですよ。それが、ちょっと中途半端なのが、不満と言えば不満なんですよ。
 IMFに挑戦してくるテロリストが今回の敵で、冒頭ではこれまでさんざんムチャしてきたIMFに対して解体命令が下されるじゃないですか。
 ブッシュ政権のころからよく言われている「ならずもの国家」って、英語ではRogue Stateって言うんですよね。北朝鮮とか、イラクとかを指します。今回のサブタイトル「Rogue Nation」は、「Nation State」(国家)にかけて、ひっくり返しているので、英語のネイティヴであれば、現代の政治的テーマをひねってきていることを期待するタイトルなはずなんです。
 テロ組織と戦っている主人公たちの組織であるIMFが、CIAに「ならずもの組織」扱いされる。この辺は、結構良かったんですよ。
 でも、ネタバレになっちゃいますが、結局、オチが弱かった。国際的なテロ組織と戦うのではなくて、イスラム国とかビン・ラディンとかのテロ組織を生み出したのは実はアメリカだ! みたいな、イラク戦争の頃や911のあとに聞き飽きるほど聞いた内容に終始していて、そこは期待はずれでした。
 ぼくは、予告編で観たときに、IMFと中国が本気で衝突するような、本気で世界経済のエグい内容を期待してしまっていたんですよ。IMFは間違っている! グローバル経済の違う原理を示すぞ! ぐらいの、凄いことをやるんじゃないかと思っていた。

飯田 中国と衝突www

藤田 『M:I5』は、中国企業のアリババ社が初めてハリウッド映画に出資した作品なわけですから、それが内容に影響して、IMFをやたらdisる展開になるのかとすごい期待したら、そんなでもなかったw

飯田 それは「国際通貨基金」のほうのIMFとごっちゃになってるでしょ?w
 というか、「ネーション」も「ステート」も関係ない話じゃなかった? 諜報組織同士のつばぜりあいでしょ、すべてが。国家おいてけぼりの話。「諜報組織制御できなすぎワロタwww」みたいな。

藤田 一応ちゃんと言っておくと、作中の特殊部隊は「Impossible Mission Force」。実在の組織、国際通貨基金は「International Monetary Fund」。略称は、同じくIMFですね。この略称の重なりを使ってグローバル資本主義の問題を扱うと思い込んだのは、ぼくの勘違いw 物語の規模が小さいのは、同意です。スタート地点の期待値がでかいのに、意外と小粒なとこに収束してしまうのは残念でしたね。しかし、国家の統制を離れた別組織を作ろうとするあの悪役は、『メタルギア・ソリッド』のビッグボスにちょっと似てません?

飯田 いやいや、ラスボスはキング・クリムゾンのロバート・フリップみたいな顔だった。

藤田 それは見た目でしょうw たしかに似てますけど。イギリス人らしいイギリス人ですからね。あきらかに、あの後半の設定は、『007』にケンカ売ってますよねw イギリスを代表するスパイ映画が『007』なわけですが、アメリカを代表するスパイ映画である『ミッション:インポッシブル』がガチンコで喧嘩売りに行った感じはありました。そこは、文脈を知っていると、おお!ってなるかと思います。

飯田 序盤でオーストリア首相が暗殺されるけど、これは第一次世界大戦のはじまりを思わせる事件ですよね。でかいフリをもってきた! ……と思ったらオチがしょぼいところに収束していく。敵がどうでもよすぎ! あいつら、テロをして何をしたいのかが結局よくわかんない。「世界の変革のため」とかって言うけど具体的にはなんなの?
 これは不満でもあるけど、くりかえして言えば現実のテロ組織や政治的に危険な勢力を映画を観ているあいだはいっさい連想させないようにしてるんじゃないかと。序盤で第一次大戦を思わせる事件を起こすのは、「20世紀のお約束でいきます」という宣言だったんじゃないか。

藤田 あれも、期待させておいて、意外と「広がらなかった……」感の一因ですよね。
「サスペンス」って、観ているひとを緊張させるように真偽とか白黒を「宙吊り」にしなきゃいけないのに、後半、色々と分かってしまって、ハラハラしなくなるんですよね。イーサンたちIMFを助けてくれる敵の組織の女性(ヒロイン)の「敵かな? 味方かな?」感のスリルや、裏切りや敵の正体へのドキドキが中盤まではあったのに、後半はひっくり返しや裏切りがなくて、そのことにびっくりした。ラストにもう一回、ひっくり返すと思っていた。
 そうぼくが思ってしまうのも、監督のクリストファー・マッカリーは『ユージュアル・サスペクツ』という、すごいどんでん返しのある非常に優れた作品の脚本を書いた人なので、あのぐらいすごい脚本が用意されていると思った。しかし、構造的には、色々な対の関係やひっくり返しなどがうまく配置されているけど、ダイナミックさに欠けていた。アクション映画だから、仕方ないと言えば仕方ないのですが、物足りないと言えば物足りない。

少年マンガだと思って観るべし!



飯田 第一作目はともかく、その後は「スパイ像の更新」とか興味ないよね、このシリーズ。20世紀のスーパーヒーロー的なスパイ像やスパイ映画のお約束を踏襲していて、だからこそ安心して観られる。
 今回は『M:I2』とは違ってロマンス色も薄くて、イーサンたちIMFの「俺たちチームだろ」みたいな。ノリが少年マンガで、『BORUTO』ばりに「チームワークと根性」がテーマの作品になっていた。前作までこんなにチーム感あったっけ? と思ってHuluでざざっと見返したけど、今回はやっぱり今までより強調されてるよね。IMFがCIAに組み込まれることになったら辞めちゃう黒人なんて、1から3までは出てたけど、前作出てないのにさw

藤田 チーム感は今回、濃かったですね。決して裏切らない感じが出ていた。『ミッション:インポッシブル』って、こんなに『ワイルド・スピード』みたいな結束感あったっけ? と途中で違和感は覚えました。『メタルギア・ソリッド』だったら、あのチーム内に絶対に敵が混じっていて、最後に裏切るはずだけど、仲間は裏切らない、仲間は助ける、そういう原理ですよね。

飯田 この映画、視覚的快楽はあるけどメッセージがほとんどない。というか、むずかしくなさそうだからこそ人が入る。

藤田 しかし、オーストリア首相暗殺を入れておいて、「現実の政治を考えさせない」わけではないと思うんですよ。……というか、あの件は、作品世界の中で、あの後、大丈夫だったんでしょうか。首相暗殺されてるのに、その後の状況のフォローが全然ないw 物語の焦点が、「イーサンの無罪を晴らせるか?」「敵の実在を証明できるか?」「組織が存続できるか?」に絞られているがゆえでしょうね。

飯田 そういうふうに判断基準が狂ってるからこそ、IMFはCIAにギリギリ詰められているんだと思うんだけどねw

藤田「IMFを維持するために、敵を捏造して、自作自演で事件を起こして解決している。その証拠に、毎回事件の現場にいる」っていうCIAからの冤罪は、面白かったですよ。『名探偵コナン』とか『金田一少年』が、行く場所で毎回殺人事件が起きるから、コナンと金田一を逮捕しようみたいな話w

飯田 だから少年マンガなんだってw

トム・クルーズは松岡修造である


飯田 『M:I5』のトム・クルーズはほとんど松岡修造にオロナミンCのCMやらせてるみたいなものじゃないですか。「熱くなれよ!」「中途半端な気持ちでできるか、こんなのが!」「おまえならできる!!」っていうノリですよ。飛行機に張り付いたまま空飛べそうじゃないですか、修造なら。

藤田 たしかにw 冒頭の、飛行機に外からトム・クルーズがしがみついているシーンは迫力がありました。あれはCGではなくて、実際にトムが離陸する飛行機に(固定された上で)しがみついて撮影したみたいですね。作中のギミックも、なつかしい感じのゴツゴツしたメカメカしいのと、ハイテクをうまく組み合わせていて、映像とガジェットの両側面におけるそこが本作の魅力でした。

飯田 予告の段階から観客はカラダを張ったギリギリのアクションが観れるという期待をしていて、それをちゃんと魅せてくれるのがいい。『M:I2』あたりから絶壁やビルに張り付くのがお約束になっていて、ついに高速で動く飛行機に張り付いた! というw

藤田 あの冒頭の飛行機のシーンが、物語展開上、あんまり必要ないのがいいですよね。単に、やってみたかった感じがして。

飯田 高い! でかい! 広い! 速い! 痛い! びっくり! みたいな単純な娯楽要素をカネかけまくってつめこんだ、めっちゃ気楽に観られる映画。むずかしいことを考えようとしても、何も出てこなかったw 

藤田 物語的な教訓、政治的なメッセージは、割と陳腐ですよね。先進国の諜報が、テロ組織を生むっていう。いや、それは9・11のあとに、みんな知ってますよ、っていう感じでした。

飯田 そんなことは何も考えずに、トム・クルーズを松岡修造だと思って観たらいいと。それが僕の結論ですね。