コミックナタリー編集長直伝、現場の文章術「私のおばさんの三女の会社の社長は有名人です」はなぜ悪文か

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『新しい文章力の教室』は、コミックナタリー初代編集長の唐木元が書いた本だ。

「ナタリー」は、月3,000本以上の記事を配信するニュースサイト。
「書くことはあとからでも教えられるが、好きになることは教えられない」という採用ポリシーで、採用されるのは実績のない記者が多い。
そこで、「唐木ゼミ」と呼ばれる新人社員向けのトレーニングが行われており、「唐木ゼミ」で伝えたことをベースに書かれたのが、この本だ。


マジですごい。
現場で書いていて、現場で教えている人のノウハウが詰まっている。
ぼくも、原稿を書き、実践を主体とする講座(宣伝会議の編集ライター養成講座プロフェッショナルコース)で教えている立場だ。

『新しい文章力の教室』の前半、なかなか読むスピードがあがらなかった。
なぜなら、「わ、このあたり、俺はこういうふうな言葉で教えてる」「わあ、この本の言い方のほうが伝わるな」「あ、こんなふうに分解して伝えるのか」と、自分の講座と比較したり、考えたりして、1セクション読むたびに考えさせられたからだ。

第1章で「書く前の準備」がしっかり解説されているところ。
第2章以降も「こう書け」じゃなくて「書いた文章をこう磨け」になってるところ。
ちゃんと新人が陥りがちな罠がすっと挙げられてるところ。
そういったところは、書いているだけの人はなかなか気づかない。唐木さんが、書いている人であると同時に、書くことを教えている人だからこそ書けた本だ。

そうなのだ。
書けない人は、文章が書ける書けない以前に、書く内容がない、もしくは整理されていないのだ。
だから「書く前に準備する」がとても大事。

ここで唐木は、「良い文章とは完読される文章である」と決めてしまう。
もちろんこれは、強引だ。
「良い文章とは〜」の後にくるフレーズは、人や書く場によって違う答えになる。
だが“初心者のうちは、目指すべき状態をはっきり見定め、迷いなく腕を磨いていく必要”があるので、強引にでも“たったひとつの万能解を掲げ”る必要がある。
このあたり、現場で教えている人だからこそできる思い切り。

上手いライターであれば、文章の書き方をうまく指導できるかと問われればノーと言えよう。
「名選手かならずしも名コーチならず」だ。上手いライターは、いろいろなことを自然に当たり前のようにやっている。
その当たり前にやっていることを、構造化し、できない人でもできるように指導するには、実際に教えることで培われるノウハウが必要になってくる。

「完読される文章を書く、その準備はどうすればいいのか」についても、この本は、ひじょうにシステマティックに指導していく。
文章を、事実・ロジック・言葉づかいの3層構造に分け、ロジックから組み立てていく。必要なものは主眼と骨子。
書きたいことのパーツを揃え、主眼をセットし、骨子を立てる。

第2章以降も、「こう書け」じゃなくて「書いた文章をこう磨け」になってる。
これも大切。
「こう書け」と教えると萎縮する。ただただ良い子の文章ができあがる。つまらない。
「こう書け」じゃなくて、「こうチェックしろ」という視点で文章に挑むことが重要だ。

推敲方法もとても現場感があり、具体的だ。
いくつかピックアップしてみよう。

“2連は黄色信号、3連はアウト”
“私のおばさんの三女の会社の社長は有名人です。”
例文として「の」の連続があげられる。
“ダブリは少ないほうが望ましいですが、2連続までは許容できるケースも少なくないのが現実。3連続を超えると、誰が読んでもくどく感じられるものです”と解説。
3連はアウトと具体的な数を示すところがいい。「重複を減らしましょう」だと、3連ぐらいはいいかなと考えてしまう初心者は多い。

“時制を混在させて推進力を出す”
“観客はじっと歌声に耳をこらしていた。田中のエネルギッシュな声を合図に西川によるキャッチーなリフが響いた。”
過去の出来事だから過去形で書く。正しい。けど、文末が単調で、つまらない。
“観客はじっと歌声に耳をこらしている。田中のエネルギッシュな声を合図に西川によるキャッチーなリフが響き、”と推敲すると臨場感がでる。
過去の出来事だが、過去形で通すのではなく現在形を混在させて臨場感を出すテクニックだ。

“濁し言葉を取る勇気を”
初心者が陥りがちな罠だ。
「など」「といった」「ほか」「ら」が、濁し言葉。
「AやBらがCやDなどでE、Fといった楽曲を披露する」
こんな文章を読まされるとモヤモヤする。
濁し言葉を取ることによって、歯切れがよくなる。
“誠実さを切り捨てたときに得られる強さ、キャッチーさがあります。”

第4章の見出しはこうだ。

第4章 もっとスムーズに
読者に伝わる丁寧な文章にしていく
48 スピード感をコントロールする
49 体言止めは読者に負担を与える
50 行きすぎた名詞化はぶっきらぼうさを生む
51 指示語は最小限に
52 「今作」「当サイト」……指示語もどきにご用心
53 一般性のない言葉を説明抜きに使わない
54 わからないことはひと言でも書いてはいけない
55 「企画」「作品」……ボンヤリワードにご用心
56 「らしさ」「ならでは」には客観的根拠を添えること
57 トートロジーは子供っぽさを呼び込む
58 文頭一語目に続く読点は頭の悪そうな印象を与える
59 約物の使いすぎは下品さのもと
60 丸かっこの補足は慎み深さとともに
61 可能表現に頼らない
62 便利な「こと」「もの」は減らす努力を
63 なんとなくのつなぎ言葉を使わない
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『新しい文章力の教室』は、206ページ、全5章構成。コンパクトに秘訣がぎゅっと詰まっている。
完読される力強い文章を書きたいと思っている人に、いま勧める一冊は、これだ。(米光一成)