敏性腸症候群の症状が続くと様々な不定愁訴が現れる shutterstock.com

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 腹が立つ、腹黒い、太っ腹、腹の探り合い、腹に一物あり......。

 腹(腸)と心(脳)の機微を表す言葉が実に多い。現代では、脳と腸の類似性や共通性はかなり解明されているが、先人たちは脳と腸がつながっていることを経験的に知っていたのだろうか。

脳と腸はつながっている!

 腸は「第2の脳」と呼ばれる。脳と腸は、自律神経、ホルモンやサイトカインなどの情報伝達物質を通して、互いに密接に影響を及ぼし合っている。脳がストレスを感じると、自律神経から腸にストレスの刺激が伝わるので、お腹が痛くなったり、便意をもよおしたりする。腸が病原菌に感染すると、脳は不安を感じる。腸からホルモンが放出されると、脳は食欲を感じる。まさに、腸は「第2の脳」だ。

 例を挙げよう。旅行や出張などで見慣れない土地に行ったり、大切な試験の前や重要な会議の前になると、緊張感などで下痢をしたり、便秘になることはよくある。過敏性腸症候群(IBS)の兆候だ。過敏性腸症候群の症状が続くと、うつ症状やさまざまな不定愁訴が現れる。脳がストレスを受け、自律神経のバランスが崩れれば、血行不良、肩こり、頭痛などを伴うことがある。とくに生理不順や月経困難症の女性は、胃腸の働きが低下するので、便秘や頭痛に悩まされる。

 このように胃腸がストレスを受け続けると、脳が不快な経験として知覚するため、脳の反応が消化機能を悪化させる悪循環に陥る。

 これらの症状が現れるのは、脳が強いストレスを感じて、自律神経の働きが乱れるからに他ならない。活動したり、緊張したり、ストレスを感じている時に働く交感神経の指令が胃腸に伝わり、胃腸の働きが低下する。しかし、脳がリラックすれば、体を回復したり、休息したり、リラックスしている時に働く副交感神経へスイッチが切り替わり、胃腸のコンディションはよくなる。腸と脳の二人三脚は、とても理にかなった生体システムなのだ。

脳腸相関がもたらす恩恵

 脳と胃腸は、どのような協同作業を行っているのか? ホルモンは、どのような仕組みで分泌されるのか? 胃腸の運動や食べ物を摂取する量は、どのように調節されるのか?

 これらの研究が進み、そのヒミツが少しずつ分かってきた。脳と腸は緊密に連携しており、腸内フローラが大脳代謝系に影響を与えていることが解明されてきたのだ。この脳と腸の関係を脳腸相関(のうちょうそうかん)または脳腸軸(のうちょうじく)という。

 脳腸相関の仕組みは至ってシンプルだ。胃腸が脳に向かって消化管の状態を知らせるシグナルを抹消神経に伝えると、脳の視床下部は胃腸に向かってシグナルを送り返して応答する。例えば、空腹時に胃から分泌され食欲を増進させるホルモンのグレリンだ。グレリンは、「空腹だから何か食べてよ!」というシグナルを迷走神経から脳の視床下部に伝える。シグナルを受け取った脳の視床下部は、摂食を促すホルモン、ニューロペプチドYを分泌し、「空腹なら何か食べてもいいよ!」と胃腸に食べ物を受け入れるように指令を出す。

 このように脳と腸は、自律神経、ホルモンやサイトカインなどの情報伝達物質を媒介にして、双方向の生体ネットワークを形づくっている。少し科学的にいえば、腸内細菌は、脳が関係する腸管刺激因子の刺激を調整したり、制御したりする重要な役割を果たしていることになる。

 腸内フローラは、自律神経や内分泌の働きにも深く関わり、体の恒常性(ホメスタシス)の維持に大いに役立っている。目には見えないが、私たちは脳腸相関という以心伝心のタッグチームがもたらす壮大な共存共栄の恩恵に浴している。腸内細菌と仲良く生きよう!


佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。