NASA、映画『オデッセイ』(火星の人)に登場する実在テクノロジーを解説

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NASAが、映画『オデッセイ』に出てくる実在のテクノロジーをリストアップ、公開しました。

2016年2月に国内公開予定の映画『オデッセイ』 (The Martian)は、リドリー・スコット監督、マット・デイモン主演の SF 作品。火星の有人探査中、嵐に遭遇し死亡したと思われた主人公マーク・ワトニーが、ひとり置き去りにされた火星で懸命に生き延びようとするストーリーです。
  

 
 

NASA があげた映画『オデッセイ』に出てくるテクノロジーは下の9つ。

居住設備
農場
水再生システム
酸素供給装置
火星用宇宙服
ローバー
イオン推進装置
太陽光発電パネル
原子力電池(RTG)

居住設備(ハブ)



 
主人公マーク・ワトニーは、ただひとり取り残され、この居住設備で4年後にやってくるであろう次の火星探査ミッション「アレス4」のクルーを待ちます。

テキサス州ヒューストンにあるジョンソン宇宙センターには、HERA(Human Exploration Research Analog)と呼ばれる居住訓練施設があります。HERA 内部にはエアロックに始まり作業空間、衛生施設、運動用具、就寝具など、宇宙生活に必要な環境が揃えられ、最大4名が長期滞在可能です。HERAは主にISSクルーの訓練に活用されています。

農場



ワトニーは食料の備蓄が300日ほどであることを知ります。そして4年後に「アレス4」のクルーが到着するまで生き残るため、ハブ内にジャガイモ農場を作ります。ただ、火星の土にはバクテリアがいないため、地球から持参した土と自ら生産する天然肥料をブレンドして土壌を整える手に出ます。

ISS ではジャガイモではないものの、8月10日にレタスが食事に出されました。その赤いロメインレタスは ISS 内部で栽培したもので、成長を促進するという青色と赤色の光で地上の3倍の早さで育ちました。これを食したスコット・ケリー飛行士は「ひとりの人間にとっては小さな一口だが、NASA の野菜栽培と火星探査にとっては偉大な飛躍だ」とどこかで聞いたようなツイートを飛ばしています。

水再生システム



 
作中では尿や汗から水分を回収・再生するシステムを使用しています。もちろん、現在の ISS でも水再生システムは必需品です。しかし、相次ぐ補給船の打ち上げ失敗で、現在すでに水回収システムの交換部品の在庫が尽きてしまっています。そこで NASA の依頼を受け、日本の補給機 こうのとり 5号が緊急物資として水再生システムのフィルターやポンプを搭載し ISS へと向かっています。ISS と こうのとり のドッキングは8月24日の予定です。

酸素供給装置


ワトニーのいるハブには酸素供給装置が備え付けられています。そして燃料プラントが排出するCO2から酸素を得ます。

一方、ISS では水を電気分解して酸素を得る OGS(Oygen Generation System)が先ほどの水再生システムとともに稼働しています。またロシアの酸素供給装置(Elektron)も稼働しており、さらに非常用として旅客機の客席頭上に配置されている酸素マスクと同じ方式の固体燃料酸素発生装置(SFOG : Solid-Fuel Oxygen Generator)を搭載しています。

火星用宇宙服



 
作中で使われている火星用宇宙服は、火星の屋外で丸1日(1ソル)を過ごせるだけの酸素供給能力を持っています。

2014年にNASAが発表した火星での活動を想定した Z-2 宇宙服は、いくつかの候補から一般投票でそのデザインが決定されました。背中のランドセル部分からスーツに"出入り"できるなど、着脱のしやすさも考慮されているものの、実際の開発はこれからといった段階です。

ローバー



左:オポチュニティ 手前:ソジャーナ 右:キュリオシティ

ワトニーは通信環境を復旧するため、ローバー(探査車)に乗って嵐のとき自分にぶつかってきたアンテナを探しまわります。

NASAはこれまでに現在も活躍中のキュリオシティをはじめ、オポチュニティやスピリット、ソジャーナといった火星探査ローバーを送り込んでいます。ただ、これらには人は乗れません。

オデッセイの物語はこれまで実際に行われた火星探査や有人宇宙計画のデータに基づいて構想されており、各ローバーもワトニーが取り残された火星の地表に残っています。

イオン推進装置



宇宙船ヘルメスの推進装置はイオン推進装置でした。イオン推進装置は燃料推進装置に比べ、搭載燃料が非常に少なくて済むのが特徴。その反面、加速には非常に長い時間を必要とします。ただ、将来の有人火星探査機用推進装置として本命の技術とも言われています。

なお日本では小惑星イトカワから粒子を持ち帰った探査機「はやぶさ」の推進装置としても知られています。

太陽光発電パネル



電気を作るために必要なシステム。原作では嵐のせいで砂に埋れ、機能しなくなっていました。
太陽光発電装置はNASAにかぎらず、ESA、JAXAその他の宇宙機関が製作する人工衛星および宇宙船、宇宙ステーション、探査機などにほぼ必ず搭載されています。もっと言えば、最近はそこらへんの家の屋根にも乗っています。

原子力電池(RTG)




キュリオシティに搭載されている原子力電池

原作では、火星上昇機と訳される宇宙船 MAV が備える原子力電池を、放射能漏れに備えてハブから遠く離れた場所に埋める描写があります。

RTGは別名"宇宙電池"とも言われプルトニウム238など放射性元素が起こすアルファ崩壊のエネルギーを使って電力を発生します。古くはアポロ計画の頃から、現在は火星探査車キュリオシティの動力としても使用されています。

主人公ワトニーは救助の日まで生き延びるため、RTGのみならず火星で手に入るあらゆるものを、本来の用途や安全対策などまるで無視して活用してゆくことになります。現実の科学技術に基づきつつ、冷酷な数字と次々に襲いかかる想定外を前にあくまで冷静に、時にはあっと言わせる発想で生き抜いてゆく主人公の姿が原作小説では人気を博しました。

現在のNASAの計画では2030年代のうちに火星への有人探査を目標としています。15〜25年後というと、なんだまだまだ先じゃないかと思われるかもしれません。しかし宇宙飛行士が火星まで辿り着き、そして帰還するには越えなければならないハードルが山ほどある状態です。

たとえばスコット・ケリー飛行士は、今年3月から1年間の ISS 長期滞在を実行中です。これは長期間の無重力生活で、月探査や火星探査におけるリスクとその対策を検討するデータを得るため。また帰還後には双子のマーク・ケリー飛行士との健康状態を比較することで、より詳細な宇宙生活の影響を確認することができます。火星への道を切り開くには、こうした研究をひとつひとつこなしていかなければなりません。

なお日本では JAXA が NASA の有人火星探査計画への参加を目標の一つとして掲げています。

ちなみに、原作 The Martian 著者のアンディ・ウィアーはこれが初の作品。当初は自身のウェブサイトで公開していた小説でした。ところが読者の勧めでKindleでの販売を開始したところ大ヒット作に。そして出版社と契約して紙の書籍化と続き、最終的にそれがリドリー・スコット監督の目に留まり、映画化の運びとなりました。原作小説はハヤカワから『火星の人』として文庫化されており、Kindle版も販売中です。
 


映画『オデッセイ (The martian)』は、米国では10月、日本では2016年2月公開です。