尊厳死法案は未提出のまま......shutterstock.com

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 誰もが自分はそうなりたくないと思っている「寝たきり老人」。意思表示できず、食事は管から入れられ、排泄も人まかせ、時には拘束までされて生かされる――。

 寝たきり老人が日本だけに多いのは、単に診療報酬など医療システムの問題だけではない。法律という壁が医療者の前に立ちはだかり、延命治療を選ばざるを得ない状況がある。

人工呼吸器を外すと殺人容疑で逮捕される!?

 衝撃的なタイトルで注目を集める書籍『欧米に寝たきり老人はいない 自分で決める人生最後の医療』(宮本顕二、宮本礼子・著/中央公論新社刊)には、次のような事例が記載されている。

 2004年、道立羽幌病院(北海道羽幌町)に勤務していた女性医師が、90歳の男性患者の人工呼吸器を家族の同意を得て取り外したところ、殺人容疑で警察の捜査が入った。また、2000〜2005年の間、富山県射水市民病院で外科部長が末期がん患者ら7人の人工呼吸器を外した件にも警察が介入。両者とも不起訴になったものの、今後も同じようなケースで逮捕起訴されないという保証はない。

 2009年にNHKの番組『クローズアップ現代』で放映された「"私の人工呼吸器を外してください"〜『生と死』をめぐる議論」は社会問題となった。千葉県の病院に入院中のALS(筋萎縮性側索硬化症)患者が、「意思疎通できなくなったら人工呼吸器を外してほしい」という要望書を病院に提出したことを取り上げた内容だ。病院の倫理委員会は1年にわたって議論し、「患者の意志を尊重すべき」という画期的な判断をくだしたものの、結局、院長の判断でその措置は行なわれなかった。それというのも、現行法では人工呼吸器を外すと殺人容疑で逮捕される恐れがあるからだという。

 人工呼吸器、さらには人工栄養も「外したら逮捕される可能性がある」と考えると、医療従事者は二の足を踏んで"延命治療を続ける"ことになるのだ。

いまだ国会に提出されていない尊厳死法案

 終末期における患者の意思を尊重できるよう尊厳死法案(終末期の医療における患者の意思尊重に関する法律案)を国会に提出する動きも出ている。

 15歳以上の患者が終末期に延命措置をしないことを書面で残していれば、それに従って延命措置を行なわない、あるいは中止しても医療者は法的責任を問われない、という内容のものだ。しかし、「死について国家が関与するのはけしからん」などという批判が出て、いまだに国会に提出されていない。

 ただし、『欧米に寝たきり老人はいない』の著者・宮本礼子さんは、「この法案自体に問題がある」と指摘する。「終末期の定義や、終末期の判定などに多くの問題をはらんでおり、このまま成立すると逆に尊厳死ができないことになる」という。

制度開始からわずか3カ月で凍結

 厚生労働省は2007年、医療行為の開始・不開始、医療内容の変更、医療行為の中止などが折り込まれた「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」を作成した。

 翌年には、後期高齢者にかぎり「患者・家族・医師」が終末期の治療方針を話し合い、書面にした場合に診療報酬が支払われることになり、終末期医療について患者の希望が反映されることになった。平たくいえば、あらかじめ担当の医師と話し合い、「延命措置はしない」などの希望を書面にしていれば、患者の願いどおりになるということだ。

 だが、「高齢者は早く死ねばいいのか」などという反対意見が多く、制度開始からわずか3カ月で凍結された。

 判断能力のある時に書いたリビング・ウィルや事前指示書が効力を発揮すれば、本人の意思確認ができないまま胃ろうが造られ、不本意な寝たきり老人になってしまうこともないはずである。ところが、リビング・ウィルや事前指示書は法的根拠がない。それに従って延命措置をしなかった場合、家族に訴訟を起こされる可能性があり、やはり尻込みしてしまう医師も多い。

 実際にはリビング・ウィルに書かれた本人の意思を尊重し、延命治療を行なわない医師もいる。担当医次第ではあるが、とりあえず書いておいて家族にその存在と保管場所を知らせておくといいだろう。決まった書式はないが、やってほしくない終末期の医療行為、書いた日付、署名、それに捺印すれば、それらしくなるだろう。ここに宮本礼子さんのリビング・ウィルを紹介するので参考にしてほしい。

 「食事摂取が困難になったとき、中心静脈栄養、経管栄養は行なわないでください。また、延命のために人工呼吸器を使用しないでください。 平成15年9月21日 宮本礼子」
(文=編集部)