俳優・渡哲也(73)が6月初旬、急性心筋梗塞で入院し、カテーテル手術を受けた。幸い早期治療が奏功し、すでに退院して自宅でリハビリを続けているという。この病は“急性”と付いているのがポイントで、若年層にも罹患者が増える傾向が指摘され、決して他人事ではない。
 昭和大学病院循環器内科の担当医はこう説明する。
 「心筋梗塞は、結果として心臓に酸素と栄養素を送る冠動脈が詰まり、心筋が壊死する病気です。“急性”が付くタイプは、発症直前まで冠動脈の血流が十分保たれているので、いわゆる狭心症のような“胸の痛み”や“息切れ”を感じたことのない人がほとんど。心筋梗塞の全体のうち、狭心症がないケースが7割という報告もあります。健康診断で血圧や脂質などの数値が少し悪い程度の“グレーゾーン”で発症するケースが少なくないのです」

 “急性”の反対は“慢性”だが、その違いは血流が遮断されるまでのスピード。血栓が何年もかけてじわじわと大きくなり、やがて冠動脈を塞ぐのが慢性。一方、発症するまでは異常なかった血栓が突然大きくなり、あっと言う間に冠動脈を塞ぐのが急性だ。
 「脳梗塞の場合は、血中に出来た血栓(血の塊)が動脈に詰まり、酸欠のため脳組織が壊死、またはそれに近い状態になる病です。脳の場合、動脈が90%以上詰まると脳梗塞などを発症しますが、それまではほぼ自覚症状がありません。ただ、障害が起きた場所によっては、意識がなくなったり手足がマヒするなどの発作が起き、命が助かっても運動障害や言語障害などの後遺症が出る場合があります」(専門医)

 一方の心臓は、血管が75%以上詰まると発症するが、こちらもギリギリまで自覚症状は表れず、健康な人が突然倒れる。
 また、一般的に心筋梗塞や脳梗塞というと、寒さの厳しい冬場の病気と思われがちだが、ある医療機関が2万人を対象に調べたデータによると、冬よりも夏の方が多く発症しているということだ。

 心筋梗塞に襲われた62歳の男性の例を見てみよう。
 7月中旬、この男性は渡哲也と同じように「胸に痛みを感じる」と家族に訴え、すぐにかかり付けの病院で受診した。
 発症した時期は全国的に猛暑に見舞われ、軒並み40℃近い場所が出た頃だ。男性はそんな最中、食事どき以外は水分をほとんど摂っていなかったという。診断結果は「急性心筋梗塞」で、水分不足による脱水症が起きており、それが引き金となって血中の水分量が減少。血液を固める働きをする血小板が小さな塊を作り始め、さらに周りの赤血球や白血球を取り込みながら血の塊(血栓)を作っていた。

 「脳梗塞もそうですが、心筋梗塞などが増えるのは暑さに大きな要因があります。血管を詰まらせる原因の血栓が出来やすくなるためです。もともと血栓は体の防御反応と関係があり、血液中には止血のために血液を固まらせる血小板が含まれていて、この血小板はストレスを感じると活性化します。冬の寒さ同様、猛烈な夏の暑さもストレスの要因の一つ。最近の研究では、赤血球もこの暑さによるストレスで変形して大きくなり、血液凝固の原因になることが分かっています」
 こう語るのは、東京社会医療研究所の村上剛主任だ。

 また東京都健康長寿医療センター高血圧外来担当医は、次のように説明する。
 「厚生労働省の患者調査によると、狭心症と心筋梗塞を含めた虚血性心疾患の男性患者は60代、70代がメーンですが、最近は40代や50代の人が目立ちます」