声を挙げるべきは、サッカーファンだ。あらゆる競技の中で、サッカーファンが、スタジアムの在り方について、一番うるさいはずなのだ。よいスタジアム、悪いスタジアムについて、語ることができる人は多くいる。ところが、ファンの代弁者であるべき、サッカー系のメディアは、この件について、ほとんど語ることができていない。サッカー界が、聖地と崇めた国立競技場の問題であるにもかかわらず、世の中をリードする存在になれていない。
 
 真っ直ぐなスタジアム論。いま必要なのはこれだ。世界各地のスタジアムを分析し、新国立競技場にどんな要素を落とし込むべきかを検討することだ。

 前にも述べたが、僕的には、昨季のチャンピオンズリーグファイナルの舞台になったベルリン五輪スタジアムが、新国立競技場の実情に最も適していると考える。スタンドの嵩を低くした掘り下げ式。これならば、明治神宮外苑の景観にもマッチする。聖地感を演出することができる。

 だが、このベルリンから、それ以上に学びたかったのは、改築だ。ベルリンは改築して、よりよいスタジアムに生まれ変わった。国立競技場もすべて壊す必要はなかったのだ。改築の良さは、いまの姿をどれほど残すか調整が利く点にある。10%も可能だし、90%も可能だ。解体がすべて完了し、更地になった跡地を見せられると、もったいないことをしたと残念な気持ちになる。と同時に、新国立競技場はとびきりよいスタジアムになって欲しいと願わずにはいられない。声を挙げるならいましかない。とりわけサッカーファンは、政府に向かって、ありったけの要望を伝えるべきだと思う。何か言えるのは、いましかないのである。