■俳人・堀本裕樹 × スポルティーバ編集部
第1回 スポルティーバ句会開催!
スポーツ俳句への誘い(2)

 俳人・堀本裕樹氏を主宰に5人のスポーツ関係者が集まり始まった『第1回スポルティーバ句会』。前回は自己紹介後に、作者がわからない状態でランダムに記された俳句から、各人が並選を3句、特選を1句、計4句選ぶ「選句」が行なわれた。

 その後、自分の選んだ俳句を読みあげる「披講(ひこう)」という作業に入るわけだが、堀本氏は次のように説明をする。

「選んだ俳句を読みあげる際、例えば私であれば最初に『堀本裕樹選』と言い、ふってある番号と一緒に俳句を読んでください。そして特選は最後に明かしてください。終わるときは『以上、堀本裕樹選でした』と言って締めくくる。これが披講の流儀になります」

 堀本氏を含む6人全員が読み終わると、次は点数出しとなる。点盛りといって、特選を2点、並選を1点で計算し、合計点が発表される(堀本氏のみ特別に6句選句)。その後、点数の高い句から「講評」が行なわれる。なぜ、この句が良かったのか? あるいはこの句から何をイメージするのか参加者たちが選評するのだ。同じ句であっても人によってまったく異なる受け取り方もあれば、自分と同じイメージを持つ者もいる。そこに俳句の奥深さが見え隠れする。

 そして、全員の並選、特選をまとめると、このような結果になった。(選句用紙参照)

 1番の評価を受けたのは6点を獲得した『凡戦やツバメがピッチを賑わせる』(作者・杉山茂樹)である。特選にした者が2名おり、講評では「凡戦」と「ツバメ」の関係性について語られた。

●堀本評
 おもしろいのは、最初の五音、これを「上五」と言うのですが、ここで『凡戦や』ときて、つまらない試合だなとわかります。また『や』というのは「何々だなあ」という詠嘆が含まれる切字と呼ばれるものです。そして一拍置いて『ツバメがピッチを賑わせる』となり、ツバメが飛んでいる情景が目に浮かぶ。ツバメが飛んでいることで、試合を邪魔するわけじゃないけど、「凡戦が」より際立っている。あと何の試合かはわからないのですが、『ピッチ』という言葉から、何となくサッカーが見えてきます。ただ、『ツバメ』というのは実は春の季語なんです。一方で夏の季語として「夏燕(なつつばめ)」というのがある。ですから、私ならば、この句を『凡戦やピッチ行き交ふ夏燕』というようにします。

●高森評
 僕はこれを特選にしたんですが、ツバメが低く飛んでいるということは、気圧が低くて今にも雨が降りそうなんじゃないかと思ったんです。どんよりとした天気の光景が見えましたし、そういった意味で凡戦がより引き立っている。なによりも最初の『凡戦や』という部分の、スパッと切れている感じが効いているなと思いました。

●作者(杉山)評
 これは考えたというよりも、ふだん現場でよく見る光景を句にしました。ふつうなら上空を飛んでいるツバメが、盛り上がっていない試合だから低く飛んでも大丈夫みたいな。面白くない試合は、どうしても集中が切れてしまって、飛んでいるツバメに目が行ってしまう。僕はプレイヤーではなく観戦のプロとして、いつも感じていることをそのまま書きました。

 堀本氏の『〜夏燕』の添削に一同感動。また、ツバメの習性まで汲んだうえで、句を解釈した高森氏の選評にも感心した。

 2番目に高評価だったのは5点を獲得した『天仰ぎ芝に流るる玉の汗』、当サイト副編集長・上杉の作品である。この句では、描かれている情景ばかりではなく、「句の形」についても言及された。 

●堀本評
 描かれている世界も美しいし、句の形も美しい。『流るる』という古語を使っているのがポイントで、通常ならば『流れる』を使う。しかし『るる』にすることで、玉の汗が余計丸っこく感じられる効果があります。字面で見せるというか、俳句って漢字やひらがな、カタカナ、古語など表記を吟味して選択することで、1句の表現を効果的に深める面があります。また情景としても、試合に勝ったのか負けたのか、あるいは練習なのか、その辺りは書かれていないけど、読み手の想像力を促す感じも効いている。つまり俳句というのは余白の部分が多く、いかに読み手が想像力を膨らませられるかといった非常に日本人的な文芸でもあるんです。そういう意味でこの句は省略も効いているし、字面もおもしろいので私は特選にしました。

●市橋評
 とても美しい句だし、情景がすぐに思い浮かんだので特選にしました。この芝生の上で仰向けになり、空の青を見て、汗が滴っている感じ。すごく瑞々しいし、キレイな流れで、夏という季節をすごく感じましたね。

●作者(上杉)評
 季語の辞書である俳句歳時記で『汗』を引いたら『玉の汗』というのがあって、この言葉にすごく惹かれたんです。『玉の汗』を使い学生が最後の大会で負けた姿をイメージし、天を仰ぎ、悔しさや充実感が入り混じるシーンを描いてみたくなり、この句ができました。

 最多タイの4人から支持され4点句となった『夏の空走りながらも陰探す』(作者・市橋有里)は、共感を呼ぶ作品となった。

●堀本評
 陸上部で走っていた経験上、よく理解できる句ですね。例えば夏の炎天下でロードを走るとき、どうしても涼しさを求めてしまうので、気がつくと陰のところばかり行ってしまう。そういうところにすごくリアリティを感じましたし、『夏の空』という季語が非常に効いている良い句だと思います。

●杉山評
 昨日のことなんですけど自転車で街中を走っていて日差しがすごくきつかったんです。で、道路をまたいだ反対側は日陰になっている。あっちに行きたいなと思ったんですがなかなか信号がなくて行けない(笑)。学生のとき、部活でこんなことあったなって思い出したんですけど、偶然にもそのままの情景が描かれていました。

●作者(市橋)評
 これは先日、実際に走っていて思い浮かんだ句なんです。暑いし、日焼けもしたくないし、ついつい日陰を探してしまっているなって。そう思った瞬間に詠めた句で、今回の作品の中で一番簡単にできたものです。そういう意味でリアリティがあったのかもしれませんね。

 続いて3点句となった『テニス部のあの子の汗はきっと甘い』(作者・高森勇旗)は、男心をくすぐる作品として評価された。

●堀本評
 まず『あの子』というところに、作者の気持ちや思い入れを強く感じますね。おもしろいのが最後の五音を「下五」と言うのですが『きっと甘い』は一音多く、字余りになっている。この字余りによって、さらに甘さが引き立っているように感じたし、ここは巧いこと使ったなと。この字余りからは青春が滲んでいるようなイメージを受けます。

●じゅんいち評
 どんなに可愛い子でも汗は絶対に甘くないですし、そこがおもしろくて選びました。そんなわけないやんって(笑)。ただ。硬式テニスのほうが軟式テニスよりは甘いかもしれませんねえ。回転ですか? これは掛かってますね。無回転であれば、『あの子の汗も甘くない』になりますから(笑)。

●作者(高森)評
 学生時代、野球部の汗は臭いと言われていたので、それに対するカウンターの意味で作ってみました。汗なんかどの部活も一緒じゃないかと思ったんですが、ひょっとしたらテニス部だけは甘いかもしれないと。これがバスケ部やソフト部だとちょっと違うんですよね(笑)。字余りの箇所はちょっと中学生感を出したかったというか、『きっと』という言葉も可愛かったんで、使ってみたいなと思いました。

 人によって解釈が異なる俳句の世界は、あらゆるスポーツの情景を豊かに想像させてくれる。読者の方々は、どの句を高く評価し、おもしろいと思っただろうか?

 ところで、まだじゅんいちダビッドソン氏の俳句が講評されていない。果たして次回、じゅんいち氏の『無回転俳句』は読まれることになるのか? 俳人の心も動かせるのか? 注目である。
(つづく)

【profile】
堀本裕樹(ほりもと・ゆうき)
「いるか句会」「たんぽぽ句会」主宰。創作の傍ら、老若男女幅広い層へ俳句の豊かさや楽しさを伝えることをテーマに活動中。近著は又吉直樹氏との共著『芸人と俳人』(集英社)

石塚 隆●文 text by Ishizuka Takashi