室屋義秀は満面の笑みをたたえ、レース後の公式会見の場に姿を現した。

 室屋がこの席に着くのは、千葉・海浜幕張公園で行なわれた今季第2戦以来のこと。だが、「地元パイロットとしての出席」にすぎなかった5月とは、気分はまったく違ったはずだ。

 8月15、16日、イギリス・アスコットで開かれたレッドブルエアレースの2015年シーズン第5戦。室屋は自己最高順位に並ぶ3位となり、自身2度目の、そして今季初となる表彰台に立ち、歓喜のシャンパンファイトを味わった。

 表彰式を終え、堂々たるトップ3のひとりとして会見場にやってきた室屋は、次のように英語で語った。

「今季2戦目からニューマシン(エッジ540 V3)を導入し、前回第4戦のブダペストまでは十分に準備する時間がなかった。だが、あらゆることを試し、機体もパイロットも、すべてをこのレースにセットアップしてきた。表彰台に立つだけの準備はできていた。だから、昨年の表彰台(昨年第2戦での3位)とはまったく意味が違う」

 昨年経験した3位について以前、室屋自身が「他のパイロットにミスが続出した結果、自分が上がっただけ」と話していたことがあるように、初の表彰台は少なからず運にも恵まれてのものだった。

 しかし、今回は違った。これが「立つべくして立った表彰台」であることは、自信に満ちた室屋の話しぶりからも、はっきりと伝わってきた。

 思えば前日、室屋は予選のフライトを終えると、こんなことを話していた。

「コース取りも1カ所くらい詰めるところがあるが、ほぼいい形で飛んでいる。感触は悪くない。十分ファイナル4まで行けると思う」

 室屋の予選成績は5位。過去2戦では、いずれも予選2位につけていたのに比べ、順位は下がっていた。数字だけの比較で言えば、調子が落ちているようにも見えた。

 ところが、室屋はあくまでも冷静に機体の状態や自身のフライトを分析し、その後のレース展開を見通していた。語る口調は予選2位だったときよりも幾分静かだったが、言い換えれば予選順位に一喜一憂することなく落ち着いていた。

 実際、室屋は強かった。ラウンド・オブ・14からラウンド・オブ・8を経てファイナル4へと順調に勝ち上がった。

 ラウンド・オブ・14では、前回のブダペストでも同じステージで対戦し、室屋が敗れているマティアス・ドルダラーに対し、1秒以上の差をつけて圧勝。ラウンド・オブ・8でも、前回から新機体を導入し、調子を上げている予選4位のピーター・ベゼネイを楽々と退けた。

 このラウンド・オブ・8で室屋が記録したタイムは1分6秒706。今回のレースで室屋が出した最速のタイムは、予選のタイムから実に1秒1も縮めていた。予選終了の段階で、チームの分析担当であるベンジャミン・フリーラブが「計算上、あと1秒は縮められる」と話していたことからも、室屋の強さが単なる"一発狙い"による偶発的なものではなく、計算された裏付けに基づいたものであることが分かる。

 果たして室屋は、有言実行のファイナル4へと進出した。

 結局、最終順位は自己最高タイの3位。完全な結果論であることを承知で言えば、もし室屋がノーペナルティで飛んでいれば2位になれていた。それだけに悔しさも残るファイナル4だったが、室屋にとってはうれしい自身2度目の表彰台である。地元・千葉での第2戦で新機体を導入して以来、いつこの場に立ってもおかしくない状態が続いていた。周囲の高まる期待を感じつつも惜しい負けが続いていただけに、ようやく関門をひとつクリアしたというところだろう。

 とはいえ、室屋が目指しているのは、たった一度表彰台に、それも一番低いところに立つことではない。シーズンを通してコンスタントに勝ち続け、年間総合チャンピオンになることである。

 その意味で言えば、今回のレースは1年半ぶりに味わう歓喜の一方で、この先に待ち構える厳しい戦いを強く予感させる一戦でもあったのではないだろうか。

 室屋は公式会見を終えて、集まったファンからのサインや記念撮影の求めに笑顔でひとしきり応じると、いつもの落ち着いた表情に戻り、厳しい口調でこう語った。

「トップのふたり、とくにポール(・ボノム)が安定しているのに比べると、まだフライトごとにばらつきがある。そこに追いつくためには、もうひとつ越えなければならない山がある。ハンネス(・アルヒ)にしても今回はエンジントラブル(ラウンド・オブ・8でエンジンがかからず、飛べずに敗退)があったが、彼も含めて上位の3、4人はテクニック、機体ともに揃っているのでかなり速い。そこは僕自身のトレーニングだけでなく、機体の改良を含めてまだまだやらなければならないことは多い」

 実際、室屋は今回のレースで3位に入ったとはいえ、予選からファイナル4まですべてのラウンドで、優勝したボノムと2位のマット・ホールにタイムで及ばなかった。とりわけ1分6秒台をコンスタントに出し続けるボノムとは、順位以上の大きな差を見せつけられたと言ってもいい。室屋が続ける。

「ファイナル4に残るとか、表彰台に立つとかだけならともかく、優勝するとなると、もう一歩二歩前へ進まないといけない。このままでもいいところまでは行けると思うけど、総合優勝を狙うとなると、そこで越えなければならない山は結構デカい」

 久しぶりに味わう歓喜の一方で、あらためて見せつけられた力の差。室屋にとっては手放しに喜んでばかりはいられないレースだったことは間違いない。

 それでも目の前の扉をひとつずつ開けていくこと以外に、前へ進む術はない。それを分かっているからこそ、室屋はひとまず喜びに浸る。ともに戦うチームスタッフとともに。

「ひとつ結果が出て、これでチームも勢いに乗って気分よく進んでいける。今季残り3戦で、まだテストを重ねるので不具合が出るときもあるだろうけど、ファイナル4に残れるくらい、最低限そこを保ちながら挑戦していけるようになるんじゃないかな」

 そして、笑みを浮かべてこう付け加えた。

「まだまだ、いろいろなプランがあるからね」

 次回第6戦は、9月5、6日にオーストリア・スピルバーグで開かれる。室屋は日本に帰ることなく、次なる舞台へ愛機とともに飛び立つ予定である。

■レッドブル・エアレース・ワールドチャンピオンシップ第5戦(アスコット)最終順位

1位ポール・ボノム(イギリス)
2位マット・ホール(オーストラリア)
3位室屋義秀(日本)
4位ニコラス・イワノフ(フランス)
5位ナイジェル・ラム(イギリス)
6位ピーター・ベゼネイ(ハンガリー)
7位マルティン・ソンカ(チェコ)
8位ハンネス・アルヒ(オーストリア)
9位マイケル・グーリアン(アメリカ)
10位マティアス・ドルダラー(ドイツ)
11位フワン・ベラルデ(スペイン)
12位カービー・チャンブリス(アメリカ)
13位ピート・マクロード(カナダ)
14位フランソワ・ルボット(フランス)

浅田真樹●取材・文 text by Asada Masaki