夏休みで海外に出かける方も多いことでしょう。ある旅行会社のサイトによると、最近のアジア旅行の一番人気は台湾、次がソウル、そして香港なのだそうです。
ソウルはハングルが主ですが、台北や香港の街を歩いていて必ず目にするのがおびただしい漢字の看板の洪水です。
それらの漢字は実にさまざまのデザインがほどこされています。
そうした漢字のデザインの基盤になっているのが、漢字の「書体」です。
歴史的な漢字の「書体」をちょっとのぞいてみましょう。

さまざまな漢字があふれる台北の町並み


「篆書」と「隷書」

中国では、漢字書体が歴史とともに展開してきました。
代表的な書体は、「篆書」「隷書」「草書」「行書」「楷書」です。
まずは、「篆書」(てんしょ)。
これはもっとも古い書体といえるものです。漢字はおおよそ3500年前に「甲骨文字」として生まれたと考えられていますが、これが変化して「篆書」というかたちに整理されたのです。紀元前3世紀のころのことです。
古代では神聖な書体とされてきました。現在でも印鑑などに使われることがあります。
次は「隷書」(れいしょ)。
これも篆書が整理されたころから篆書を簡略したかたちで使われ始めました。
左右への払いが特徴的です。現在でも新聞の題字や紙幣に使われます。

『書道字典』より。「看」の楷書、行書、草書、隷書、篆書の順で並べられている

『書道字典』より。「看」の楷書、行書、草書、隷書、篆書の順で並べられている


「草書」と「行書」

草書(そうしょ)は隷書を早書きする過程で書かれるようになったと考えられています。
楷書を崩して書くようになったと言われることもありますが、実はそうではありません。
草書は点画が省略されているので簡便な書体としてもありますが、感情や気分を表現するのに適している書体と考えられて、書道芸術の媒体としても重要な書体です。
行書(ぎょうしょ)は草書をもう少し整えて書いた書体です。


「楷書」

「楷書」(かいしょ)は、書体の歴史ではもっと後になって作られた書体です。
隷書や行書が変化する過程で、おおよそ3世紀中頃から書かれるようになったと考えられ、はっきりと整理された点画の表現や折れ曲がり方が特徴です。7世紀「唐」の時代には美しく完成されました。
現在では、この楷書がもっとも広く流通している書体です。現在の日本でも契約書などで「楷書で書いてください」と指定されていることがありますね。
同じ漢字でもそれぞれの「書体」によって、その文字が帯びる雰囲気はずいぶん変わってきます。
東南アジアなどへ旅行に行かれた際は、街の看板ウオッチングでも意識してみてはいかがでしょうか。