「人食いバクテリア」はいかにして進化したか

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2014年に発表された研究成果は、「人食いバクテリア症」と呼ばれる感染症を引き起こす「A群レンサ球菌」の進化の過程を説明するものだった。

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バクテリアの進化は、実に急速だ。ライフサイクルが短く世代交代も目にも止まらぬ速さで行われるため、自然淘汰に適応し、人のつくりあげた洗練された抗生剤を軽くいなしてしまう巨大病原菌へと進化していく。

人類からすれば、肉食性の変種への対処が厄介なのはいうまでもない。『Proceedings of the National Academy of Sciences』誌で発表された研究(PDF)は、こうしたバクテリア、「A群レンサ球菌」の進化を詳細に分析したものだった。進化の過程を図示することで、科学者は、変種のあとに続く世代に対処し、病の本質を理解しようとしている。

あるいはあなたには、A群レンサ球菌がノドに感染した経験があるかもしれない。レンサ球菌のタイプによってはさまざまな経路で感染する可能性があるが、場合によっては致命的な症状になることもある。

「レンサ球菌は筋肉などに感染しますが、血流にも入り込みます。全身に波及することで、敗血症性ショックと呼ばれる症状に至ります」と、カリフォルニア大学サンフランシスコメディカルセンターの医師、ポール・サラムは述べている。皮膚や靱帯、血管などの軟組織が徹底的に破壊されてしまう壊死性筋膜炎と呼ばれる症状にかかることもあるという。

バクテリアも、ウイルスに感染する

しかし、そもそもレンサ球菌が悪性で攻撃性が強いものであった、とは限らない。1980年代初頭、突然伝染病として猛威をふるうようになったわけだが、上記の研究からは、そうなるに至ったプロセスを知ることができる。

科学者たちが明らかにしたのは、A群レンサ球菌におけるほんの些細な変化が、世界的な伝染病を引き起こすきっかけになったということだった。

「ヒトと同じように、バクテリアもウイルスに感染するのです」と、ヒューストンメソジスト研究所の伝染病の病理学者で、論文著者の1人でもあるジェームス・マッサーは言う。

80年代のあるとき、“最初のウイルス”がA群レンサ球菌のバクテリア細胞1個に感染し、その遺伝子を新たな毒素を生み出すバクテリアに変えてしまった(この現象は「遺伝子の水平伝播」として知られている)。そしてさらに、バクテリア遺伝子の突然変異が起き、毒性が“グレードアップ”した。

「こうしたプロセスが、2つの変化をもたらしました。感染数と重症度それぞれを高めたのです」(マッサー氏)

研究は、大掛かりなスケールで取り組まれたにも拘わらず低予算で行われた。5年前であれば、5つのゲノム分析を行うのでさえ“一大プロジェクト”だと考えられていたが、今回の研究が調査対象としたのは、3,615ものA群レンサ球菌ゲノムだ。技術の進歩によって、科学者は生物医学の研究において長らく疑問とされていた問題に取り組めるようになったわけだ。

そして、レンサ球菌と対峙することの意味は非常に大きい。「A群レンサ球菌にはワクチンもありません。しかし、得られた情報を活用すれば、バクテリアにとっての“アキレス腱”がわかるでしょう」と、マッサー氏は述べた。

「伝染病がどのようなものか、わたしたちは理解できるようになりました。ただ、いまのところは、その病の背景に共通した法則を見つけ出すために、同様の実験は他のA群レンサ球菌で繰り返していきます」

参考文献:
Nasser, W. et al. (2014) Evolutionary pathway to increased virulence and epidemic group A Streptococcus disease derived from 3,615 genome sequences. PNAS.

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