人が多すぎて、参拝をあきらめる人も(撮影/川口友万)

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 今年の終戦の日は、日本の敗戦から70周年。靖国神社の英霊の列には、私が生まれるはるか前にわずか19才で南方戦線で亡くなられた叔父も並んでいる。

 安保法案のゴタゴタやネトウヨ・ブサヨのネットの対立が靖国神社にも持ち込まれるのか? ニュース映像では流れない靖国神社を知るため、足を運んだ。

 九段下から靖国神社までの長くゆるい坂は、靖国神社を参拝する人たちで埋め尽くされ、屋台の一軒もない(今年は御魂祭りも含めて、靖国神社では屋台が出ていない)代わりに、ウイグルやモンゴル、台湾の民族独立運動の支援団体がビラを配り、署名を集めていた。靖国神社=保守=反中国ということらしい。中国政府がしているという凄まじい拷問の写真に、気持ちが引いてしまう。

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台湾の支援グループによる署名運動

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ドローンもニコ生も使ってはいけません

 境内に入る前に正午を迎えた。列が止まり、しばし黙祷。改めて、今日という日は失われた命とその魂のために、生きている私たちが静かに祈る日なのだと思う。

 境内は意外と空いていた。拝殿に向かって歩いていくと、軍服姿の人たちがいる。……乃木将軍? 車いすのご老体は那須戦争博物館の館長、栗林白岳氏だ。私財で作った個人経営の博物館は戦車からガトリング砲まで1万5000点余を収集・展示しているのだという。

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乃木将軍と日本兵の図。取材が集中していた

 その隣になぜかドイツ軍、しかもナチスの親衛隊の軍服を着た青年が。なぜナチス?

「親衛隊が好きで、親衛隊の恰好がしたかったんですよ」

 でも靖国だぜ、ここ。

「三国同盟だったからいいかなって」

 今日、コミケやってるけど、そっちじゃないの?

「コミケは行かないっす」

 その彼と軍服マニアつながりという海軍服の男性は、中国のテレビ局につかまっていた。制服は本物かと聞かれて、

「レプリカです」

 他にも軍服姿の参拝客は多い。汗をダラダラにかいていた航空兵に、パイロットが好きなのかと聞くと、戦争博物館でボランティアをしているのだという。

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暑いのに重装備の飛行兵

「その時の恰好がこれなんで、今日もこういう恰好で……」

 軍歌を流しながらチェロを弾いたり、ハーモニカを吹いたり、これは大人のコミケなんだとなとわかってきた。参拝の場は場として、その周辺でやっているのはお祭りだ。コミケが参加者たちの中で自然と今のスタイルにたどり着いたように、ここでも自然発生的にコスプレあり生演奏あり物販ありのお祭りが生まれている。

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千人針の体験を勧められる。女性のみ

 神社らしい、これ以上ないほど靖国神社らしいお祭りだ。死と祝祭は常に表裏一体なのだ。

右翼と衝突! 反天連デモ

 終戦記念日の靖国神社では夕方からデモ行進が行われる。九段下の交差点で待っていると、16時頃になって日章旗を掲げた集団が現れた。頑張れ日本! 全国行動委員会によるデモだ。デモのイメージは割れたスピーカの怒号と太鼓と歌だが、そんなものは何もなく、ただ日章旗を掲げ、黙々と歩いている。200人は軽く超えていただろう。あれほどたくさんの日章旗を見たのは初めてだ。沿道から「がんばれよ!」「お疲れ様」と声援が投げかけられる。

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頑張れ日本! 全国行動委員会によるデモ。日章旗が美しい

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空を埋め尽くす日章旗

 静かで美しい。8月15日だからこそ、粛々と頭を垂れる、そういう行進が似つかわしい。
その30分後、急にあたりがざわめき始めた。警備をしていた機動隊に加え、さらに新しい人員が路上に展開、柵で歩道と車道を遮断し始めた。

   反天連=反天皇制運動連絡会のデモが来るのだ。保守と右翼が集まっている終戦記念日の靖国神社で極左がデモをするのだ。警察も警備が大変である。隣りの中年男性がいきなり怒鳴った。

「おめえら、どっちの味方だ? 通せよ、このやろう、怖いのか?」

 警察と保守や右翼は仲が良いと思っていたのだが、そうでもないらしい。右からも左からもいじめられて、警察は大変である。

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反天連のデモ。スピーカーの音がうるさくて何を言ってるのか聞き取れない

 やがて反天連が現れると、ものすごい怒号が沿道からデモ隊に叩きつけられた。デモ隊と言っても、安保反対の青年たちとは違い、反天連の人たちは中高年が多い。そういう白髪交じりの人たちに「かえれ!」「売国奴!」「息するな!」とヤジがひどいひどい。反天連も反天連で「戦争をやめろ!」「天皇をやめろ!」とよくわからないことを言っているので、どっちもどっちなのだが。

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警察の制止をものともせず、柵を超えようとする右翼中年たち

 日の丸を背中に縫い込んだ、血気盛んな青年……もとい、おじさんが柵をよじ登ろうとして機動隊に押さえつけられている。

「なんであんな連中の味方をするんだよ!」

 味方とか味方じゃないとか、そういうことじゃないだろうと思う。絵に描いたような右翼の人たちが怒鳴りまくっていて、プロレスっぽい。マイクでがなりまくる上に、柵がリングアウトで場外乱闘という感じなのだ。

 右翼は昔ながらの怖くて粗暴な人たちというイメージ通りで、反天連も昔ながらの小理屈っぽい左翼で、その2つが沿道でにらみ合い、間で困っている警察官。何だか面白いことになっていたのだった。また隣りで中年男が怒鳴る。

「ポリ公、なんとか言え、こら! だからお前ら、公務員にしかなれねえんだよ!」

 言ってることはまるで酔っ払いである。思い込みが激しすぎると、みんな酔っ払いみたいになっちゃうんだな。

 ホント、警察のみなさん、ご苦労様でした。

(取材・文/川口友万)