■福田正博フォーメーション進化論

 ハリルホジッチ監督は、「点の取れる選手を探すのが私の仕事」と宣言して先日の東アジアカップに乗り込んだ。

 だが、日本代表が奪ったゴールは3試合でわずか「3」。中盤で起用された武藤雄樹が北朝鮮戦と中国戦で得点をあげ、韓国戦では山口蛍がゴールを決めたが、期待された前線アタッカーにゴールはなかった。ただし、韓国戦のように、守備に追われる展開になりがちだったことを考慮すると、前線の選手だけを責めることはできない。

 私としては、ゴール前の局面で決定機にシュートを決められなかったのは選手の責任、より多くのゴールチャンスを作れなかったのは、監督の責任だと思っている――。つまり、「最後のシュートのフィニッシュは選手の個の力量の問題」「戦術指導、トレーニングやコンディショニングなどは監督の力量の問題」と私自身は考える。

 現在の日本代表は、攻撃と守備の優先順位を整理している段階にあるのだと思う。そのときに考えてほしいことは、「サッカーで勝つために必要なことは何か?」ということだ。

 それは、ボール保持率を高めることでも、速攻をしかけることでもなく、「ゴールを奪う」こと。

 ゴールを奪うための手段としては、「ボール保持率を高める」ことや「速攻」など、いくつか選択肢がある。ここで注意してほしいのだが、ボールを保持することと速攻をすることは、「手段」であって「目的」ではない。目的はあくまでも得点を決めること。そこを勘違いしないようにしたい。

 そのうえで、よりゴールの確率が高いのはポゼッションなのか、速攻なのか、あるいはサイド攻撃などほかの選択肢なのかを、状況に応じて使い分けられる「引き出しの多さ」が必要なことは言うまでもない。

 ハリルホジッチ監督は、ボールを奪ってからの判断の優先順位を、「ボール保持」から相手ゴール近くへの「縦に速い攻撃」へと変えてきたと思う。なぜなら、相手からボールを奪った直後が、相手の守備がもっとも甘くなっているからだ。

 これは「縦に速いサッカー」と言われているが、判断基準を「ゴールに直結するダイレクトプレー」というサッカーの原理原則に戻したともいえる。もちろん、判断が悪い場合、技術が低い場合は縦パスが通らず、単調な攻撃になることはあるが、選手に植え付ける意識として間違っていない。

 ただし、縦に速い攻撃が「無理だ」と判断した場合にどうするのか。どう相手を崩すのか。そこのアイデアが、東アジアカップではあまり見られなかった。

 今後、欧州組が招集されればチームのクオリティは上がり、チャンスの数は増えると思う。だが、スプリントを繰り返す「縦に速いサッカー」を高温多湿のアジアで90分間続けるのはフィジカル的に厳しいだろう。それだけに、ほかの戦い方も選択肢として準備していくべきではないか。

 欧州や南米のチームと比べて、日本はフィジカルが弱い。そのため、「フィジカルのレベルアップ」を選手に要求することはもちろん大切だが、それだけではただの"ないものねだり"になってしまいかねない。

 フィジカル強化と並行して、ほかの具体策がハリルホジッチ監督から示されることに期待したい。現有戦力で実現可能な、より相手を上回ることができる戦術を複数持つことも、勝つために必要なことだ。

 また、選手の「個の力」頼みだけになることも避けたい。現在の日本で、メッシのような驚異的な「個」が急に現れることはないだろう。個の力がそこまで強くなく、決定力が低いのであれば、チーム全体で決定機を増やす方策を模索すべきだ。それを構築するのが監督の仕事であり、より多くのシュートチャンスを作るための組み立てや戦術を、選手に教えこんでいくことが重要になる。

 そうした、ゴールを決めるまでのパターンを細かく設定して、それを忠実に実行することは、日本人が得意とすることだと私は思っている。ハリルホジッチ監督にそういった日本人の良さを最大限に引き出してもらい、世界を驚かせるようなサッカーを実現してもらいたい。

 就任してから5カ月という短期間で、選手たちの意識は大きく変わってきた。これは監督の強烈なキャラクターや影響力の大きさに加えて、日本人特有のメンタリティも関係していると私は考えている。

 ハリルホジッチ監督がこれまで指導してきた、アルジェリア代表、コートジボワール代表の選手であれば、枠を決めて「ここから出ないように」と指導しても、その枠を外れて自分がやりたいプレーをすることがあるだろう。そのため、そうした規律を乱す選手に対しては、強い言葉や態度で指導して、戦術を徹底させる必要がある。

 それに対して、日本人選手は協調性が高く、規律を守るため、監督やコーチが厳しい言葉を使わなくても指導に従う。良く言えば「規律正しい」のだが、悪く言えば「言われたことしかやらない」。極端に言うと、「縦に速く!」と言われたら、それしかやらなくなるのだ。

 そのため、ハリルホジッチ監督がフランスやアフリカの選手たちに対して行なってきたこととまったく同じ指導を日本人選手にすると、それが裏目に出る可能性もある。それは、東アジアカップの試合展開でも散見された。

 たとえば、北朝鮮戦は試合開始直後から縦への意識を強く持って攻め込んだが、終盤になって足が止まり、相手に試合をコントロールされて逆転負けを喫した。また、次の韓国戦では試合をコントロールしようとする意識が働きすぎて守備偏重になり、リスクをとって攻めることができなかった。

 ハリルホジッチ監督としては、状況に応じて「選手が判断するはず」という考えがあったのかもしれない。だが、「縦に速く!」と言われたことに対して、選手がそれに拘泥(こうでい)してしまい、ほかの戦い方ができない試合展開になっていた印象がある。

 ハリルホジッチ監督がこうした日本人のメンタリティを理解して日本人に合った指導方法を確立し、自らの"経験"や"知識"を日本代表に浸透させていくことに期待したい。そしてそれが、W杯ロシア大会にむけての強化につながっていくはずだ。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro