連載「ATARI GAME OVER」への道:ゲームソフトが徳川埋蔵金?

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編集部より:この連載は1990年代以降ゲーム業界を渡り歩いた黒川文雄さんが往年の名ゲームメーカー、ATARIのゲームビジネスを検証するドキュメンタリー「ATARI GAME OVER」の日本語化に奔走する物語です。懐かしのゲーム機やゲームソフトだけでなく、アタリの創業者(正確には共同創業者)であるノーラン・ブッシュネル氏に突撃取材を敢行するなど、この連載だけでしか読めない内容を10回に分けてお届けします。

ATARI(以下アタリ)というゲームメーカーをご存知でしょうか。

世界初の家庭用ゲームハードとゲームソフトを商業化に成功した会社です。もちろん、アタリ以前にもマグナボックスの「オデッセイ」やフェアチャイルドの「チャンネルF」などの家庭用ゲームハードやソフトをリリースした会社はありましたが、いずれも大きな成功にはいたりません。時代が早すぎました。

現在に例えるとグーグルやフェイスブックのように短期間に急成長を遂げた会社で、1970年代のシリコンバレーを代表する企業でした。しかし、そのアタリは1980年代前半に経営破綻、会社分割の憂き目に遭います。

その崩壊の原因と失われた30年を検証する映像ドキュメントが「ATARI GAME OVER」なのです。

スティーブ・ジョブズを最初に雇ったのは?



アタリの創業者(正確には共同創業者)ノーラン・ブッシュネル氏は、MIT(マサチューセッツ工科大学)のスティーブ・ラッセル氏が開発した「スペースウォー!」に触発され「コンピュータースペース」を開発します。このゲームは世界初の業務用ゲームとして有名ですが、それ以上に、ブッシュネル氏とアタリを有名にしたのはテニスをデジタルゲーム化した「ポン(PONG)」と、1977年には業務用のゲームを家庭でも遊べるようなハードウェア「ATARI 2600」(VCS・写真)を開発したことでしょう。

アタリは創業から2〜3年でシリコンバレーとアメリカを代表する企業に成長しました。おそらく現在のフェイスブックやグーグルに匹敵するような企業だったと思います。ちなみに、のちにアップルを立ち上げるスティーブ・ジョブズ氏を社員として起用したのはアタリが最初の会社でした。

アタリ、スティーブ・ジョブズ、Engadgetの意外な共通点


しかし、1976年にブッシュネル氏保有のアタリ株式の一部をワーナー・コミュニケーションズに譲渡するあたりから雲行きが怪しくなります。

「ワーナーから新しく来た経営陣には、ゲームに対する信念や愛情は一切なく、金儲けの道具くらいにしか考えていなかったよ」。ブッシュネル氏が私とのインタビューでの応えた内容です。最終的にワーナー経営陣はブッシュネル氏を会社から放逐。同氏は経営にはタッチしなくなります。

思えば、ジョブズ氏にも似たようなアップルにおいて経歴があるのが興味深いことです。このコラムを書いているEngadgetの母体AOLもタイムワーナーグループと合併、その後、解消し独自の道を歩み始めました。歴史は繰り返します。

ブッシュネル氏退任後のアタリはゲームをメイク・マネー(単なるカネ稼ぎ)の方法として最大限活用します。サードパーティのゲームを粗製乱造し、さらには多額のライセンス料を払って映画原作のゲームを乱発します。『E.T.』のライセンス料として、ユニバーサルとスピルバーグ監督に2200万ドル(約28億円)のライセンス使用料を支払ったといいます。しかも『E.T.』のゲームソフト開発期間はたったの5週間!

ちなみに今回のDVD映像ドキュメンタリー「ATARI GAME OVER」は、1983年に起こったとされるアタリショックの大きな要因となった『E.T.』ゲームカートリッジを発掘する(ことを通じてアタリのゲームビジネスを検証する)物語ですが、現在に至ってはそのアタリショック(アメリカでは「ビデゲームクラッシュ1983」と呼ばれています)そのものがなかったのではないかと言われています。確かに『E.T.』のソフトは大きな失敗でしたが、それ以外の要因も重なってアタリの経営は崩壊したのではないかという見解です。

ATARI GAME OVERは徳川埋蔵金?


さて、実は私自身もアタリ世代ではありません。

ATARI 2600(日本発売はアタリ2800)は1977年発売、当時は高価な趣味だったと思われます。そして当然ながらアタリショックも海の向こうのニュースで、1982年当時に呑気な22歳だった私にとっても「(アメリカで)ゲーム産業がヤバイらしい」くらいの認識でした

そして、それから約30年を経た2013年1月のこと。海外ゲームニュースに詳しいGameSparkの記事で「史上最悪のクソゲー『E.T.』は本当に埋め立てられたのか? アタリの墓を掘り返す検証ドキュメンタリーが進行中」というニュースを見つけたのが、アタリを再認識するキッカケでした。

「『E.T.』埋めたんだ......」程度の認識でしたが、壊して捨てたとか、燃やしたというのではなく埋めたという言葉に未知の面白さを感じました。そしてそれを堀り起こす--まるでアメリカ版徳川埋蔵金じゃないか......面白そうだなあ--と。

そして、ここから私のATARI GAME OVERの旅路がスタートしました。

筆者より:「ATARI GAME OVER」特別上映会を9月5日に開催します。参加者募集中!

黒川文雄(くろかわ・ふみお):1960年、東京都生まれ。音楽ビジネスやギャガにて映画・映像ビジネスを経て、セガ、デジキューブ、コナミデジタルエンタテインメントにてゲームソフトビジネス、デックス、NHNJapanにてオンラインゲームコンテンツ、そしてブシロードにてカードゲームビジネスなどに携わり、エンタテインメントビジネスとコンテンツの表と裏を知りつくすメディアコンテンツ研究家。顧問多数。コラム執筆家。黒川メディアコンテンツ研究所・所長。黒川塾主宰。株式会社ジェミニエンタテインメント 代表取締役「ANA747 FOREVER」「ATARI GAMEOVER」(映像作品)、「アルテイル」「円環のパンデミカ」他コンテンツプロデュース作多数。