◆8月特集 リオ五輪まで1年、メダル候補の現在地(7)

 W杯のアジア出場枠は4.5。それでも日本の突破確率はせいぜい8割だ。5回に1回程度は本大会出場を逃す覚悟をしておく必要がある。最近の日本代表を見ていると、8割は甘過ぎ。次あたり危ないのではないかと不安に襲われる。

 だが、フル代表以上にその危機に絶えずさらされているのは五輪代表チームだ。

 五輪本大会のアジア枠は、W杯より狭き門だ。前回ロンドン五輪予選は3.5枠あったが、今回リオ五輪予選は通常に戻り3枠。突破の確率は6割がいいところだ。

 アトランタ五輪以降、5大会連続出場を記録している日本。しかし、アテネ、北京、ロンドンの各予選はいずれも際どい戦いだった。

 そろそろ危ない。確率的な問題に加えて、今回は戦力的な問題が輪を掛ける。過去の5大会に出場した顔ぶれと、現在のメンバーを比較すれば、それは明白になる。

 96年アトランタ、2000年シドニー。この両大会に出場した選手は、いま振り返れば、その後の日本サッカー史を彩ることになった華のある選手で占められていた。

 28年ぶりの出場を果たしたアトランタ五輪チームには、A代表と戦わせれば勝つんじゃないかと、その対戦を本気で望む声さえ挙がったほどだ。シドニー五輪はA代表そのものと言いたくなるような顔ぶれで、2年後の日韓共催W杯の日本代表に、ほぼそのままスライドしていった。五輪チームとA代表。両者にはその時、境界線というものがほとんど存在しなかった。

 この頃の若手には勢いがあった。Jリーグで若手とベテランがポジションを争えば、あっという間に若手はベテランを抜き去った。大きな右肩上がりを描く日本サッカー界を象徴する事象と言えた。

 04年アテネ、08年北京、そして12年ロンドン五輪の選手たちは、それに比べると劣る。年長者をいまにも抜き去る勢いはなかった。移籍して海外組となった選手、A代表入りを果たした選手、またそれに近いポジションで活躍している選手が大半を占めるとはいえ、予選の戦いぶりは危なっかしかった。近い将来、右肩上がりの時代が終焉を迎えるのではないかとの予感を抱かせる、頼りないものだった。

 五輪チームは代表チームの3〜4年後を占うバロメーター。日本サッカー界はその定説に、素直に従っている感じだ。好意的に見ても横ばいを示す最近の代表チームの姿は、ある意味で何年か前から予想されたものだったのだ。

 年を追うごとに、いい若手が減っている。日本のサッカー界に大きなインパクトを与えるような、存在感のある期待の選手を見つけにくくなっている。

 そして今回の選手たちは、過去3大会より落ちる。ハリルホジッチが、先の東アジアカップに招集した23人中、五輪チームの選手は、遠藤航と浅野拓磨のわずか2人。海外組不在の1.5軍級のメンバー構成だったにもかかわらず、だ。欧州でプレイする五輪チーム候補、南野拓実、久保裕也は選考の対象外だった。

若手の発掘より、結果を意識したハリルホジッチの思惑も多分に含まれるとはいえ、1.5軍級に2人というのは、A代表より五輪チームの方が強いんじゃないかとまことしやかに囁かれた過去を思えば、いかにも寂しい現実だ。隔世の感さえする。五輪チームはA代表に、かつてないほど大きく水を空けられている。

 昨年1月、新しく始まったU-23アジア選手権に、日本は今回の五輪チームと同じ年代の選手で臨んだ。経験を積ませるために、だ。しかし結果は準々決勝敗退。同じコンセプトで臨んだイラクに敗れている。ゲームを優位に進めながら不運にも敗れたとか、勝ちゲームを落としたというわけではない。先行きを楽観できない敗れ方をしている。

 来年1月に開催されるその第2回目は、リオ五輪アジア地区最終予選を兼ねてカタールで行なわれる。ホーム&アウェー戦だったこれまでとは異なる短期集中のセントラル方式だ。16チームを4つのグループに分け、その各組上位2チーム、計8チームでトーナメントを争う。

 決して強くないチームを、3位以内に滑り込ませるために不可欠になるのは、監督の手腕。焦点は、試合が単発で行なわれるホーム&アウェー戦とは違う、6試合の連戦を見越した戦いができるか、だ。できるだけ多くの選手を使いながら、チームとしての可能性を膨らませながら、準々決勝以降の戦いに臨めるか。

 しかし五輪チームは先の女子W杯を戦ったなでしこジャパンとは立場が違う。目先の試合にも100%に近い戦いを強いられそうなのだ。組分けの抽選が前回大会の実績に基づくなら、日本はグループリーグで第1シードにならないだろう。その立ち位置はとても微妙。采配にも微妙なさじ加減が求められる。しかも舞台は中東、カタールだ。手倉森誠監督で大丈夫か。心配になるのは僕だけではないはずだ。

 カタールで開催された短期集中のセントラル方式といえば、思い出すのは93年10月。ドーハの悲劇だ。監督として采配を振るったオランダ人監督オフトでさえ、期間中、半ばパニックに陥ったような姿を報道陣の前で見せている。経験不足。時の川淵三郎技術委員長は大会後、そう断じたものだ。

 もっともそれはW杯初出場をかけた戦いだった。今回は五輪6大会連続出場がかかっている。監督は、それを途切れさせるわけにはいかないという半端ないプレッシャーにも襲われるだろう。監督の仕事としての難易度は、相当に高い。

 手倉森監督が哀れに見えてくるほどだ。いい素材を育てることができていない協会の問題を、1人で背負い込まされてしまった運の悪い人に見えてくる。

 逆風吹く中で、彼がどれほどの采配を見せるか。五輪最終予選の観戦が、僕は怖いもの見たさの心境になりつつある。

杉山茂樹●文 text by Sugiyama Shigeki