全米プロ最終日。最終組をともに回るジェイソン・デイとジョーダン・スピースを眺めながら、どちらが勝ってもうれしい結果だと思っていた人は多かっただろう。
全英オープンでプレーオフに残れず涙を流すジェイソン・デイ
2008年から米ツアーで戦い始めたデイは、これまでメジャー20試合に出場し、トップ10に9度も入りながら、いつもぎりぎりで勝利を逃してきた。メジャー惜敗の流れは今年も続き、全米オープンでは持病のめまいに襲われ、実力発揮ができず、9位に終わった。全英オープンでは72ホール目のバーディパットがほんの数センチだけカップに届かず、思わず悔し涙を流した。
そんな経緯を経て迎えた今大会で、デイは今回こそはメジャータイトルを得ようと勝利への意欲を燃やしていた。
一方、今年のマスターズと全米オープンを制したスピースは、全英オープンでは4位に終わったものの、今大会の結果次第ではローリー・マキロイを抜いて世界ランキング1位に輝く状況にあり、だからこそスピースも闘志を燃えたぎらせていた。
そんな2人のサンデーアフタヌーンの戦いは見ごたえがあった。デイの2打リードから始まり、終始、デイがリードを守り抜いた展開は、いわゆる「シーソーゲーム」ではなかったけれど、2人の若者の爽やかなプレーぶりとゴルフに注ぐピュアな想いが一挙手一投足から伝わってくるようで、そんな2人を眺めることが楽しかった。
最終ラウンド終盤。3打差で迎えた上がり3ホール。16番(パー5)はともにバーディで3打の差は変わらなかった。
続く17番(パー3)。どちらもグリーンを捉えたが、デイは18メートル、スピースは12メートル。先に打ったデイがファーストパットを見事に50センチまで寄せたとき、スピースは親指を立ててサムアップしながら「ナイスパット」とデイを讃えた。
終盤は難関ホールが続くウィスリングストレイツ。そこに差し掛かる前の「8番から12番までの5ホールでスコアを伸ばせなかったことが僕の敗因」と振り返ったスピースは、あの17番で、すでに自らの敗北を覚悟し、デイの見事なパットを賞賛した。それは、スポーツマンシップが溢れた美しい光景だった。
運命というものは本当にあるようで、デイとスピースには不思議な縁がある。2010年、まだ16歳だったスピースが地元のテキサス州で開催されたバイロン・ネルソン選手権にスポンサー推薦で初出場した。スピースにとって生まれて初めてプレーした米ツアーの大会。スピース少年は興奮して飛んだり跳ねたりしていたが、初出場にして16位になり、大きな注目を浴びた。
スピースにとっては生涯忘れることのない米ツアーデビュー戦。その大会で米ツアー初優勝を遂げたのが、驚くなかれ、デイだった。デイにとっても生涯忘れることのない大会。同じとき、同じ場所で、生涯を通して忘れがたき思い出を作った2人が、今日の日にメジャー優勝を競い合ったことは、「運命の悪戯」というより、「運命の粋なはからい」のように思えてならない。
そう言えば、スピースが3日目の夜、こんなことを言っていた。
「この先、僕らがキャリアを重ねていけば、いつのどのメジャーでどんなことがあったかをすべて覚えていることはないだろう。でも『いつ勝ったか』と『いつ勝ちそこなったか』だけは、生涯忘れることはないと思う」
今年の全米プロは、デイにとっては「勝った日」、スピースにとっては「勝ちそこなった日」であり「世界一になった日」。2人にとって忘れがたき思い出が、またしても同じ日に同じ場所で起こった。
そんな不思議な縁で幕を閉じた今年の全米プロは、私にとっても、世界中のゴルフファンにとっても、忘れがたき大会になった。
文 舩越園子(在米ゴルフジャーナリスト)
<ゴルフ情報ALBA.Net>

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