日銀による「量的緩和政策」で株価が上がっているといわれているが、それは本当なのだろうか。経済学者で投資家の小幡績氏が、量的緩和とは本当に効果があるのかについて解説する。

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 安倍政権の誕生以降、日本の株価は大きく上がりました。いわゆるアベノミクスとは、海外では日本銀行の量的緩和政策のことだと思われています。実際、経済政策で大きく変わったのは、量的緩和の規模だけです。だから、「量的緩和で円安になり株価が上がった」ことは疑いようのない事実です。

 ただ、それが「事実」だからといって「因果関係がある」とは限りません。「たまたま株価が上がったときに量的緩和が行なわれた」、あるいは「常に同時に起きるけれど、その間に原因と結果の関係がない」こともあります。専門用語で、「相関関係はあるけれど因果関係はない」と言います。

 要は、量的緩和を拡大したら株価は上がったのですが、その本当の理由は何かが問題なのです。もし量的緩和そのものに理由があるなら、量的緩和を無限に拡大すれば、株価も無限に上がることになります。そんなことが本当に起きるのでしょうか。

 最初に量的緩和で株価が上がる、という前例を作ったのは米国です。米国の中央銀行の政策を決定するFRB(連邦準備理事会)が2007年以降の金融危機で、量的緩和の開始および拡大を3回行ないました。そのたびに株価は上昇し、逆にFRBがその縮小を表明するたびに株価は下がりました。

 しかし、FRBの前議長で、量的緩和を強力に推進したベン・バーナンキ氏は、退任後の講演で、「量的緩和の一番の問題は、理論的には効果がないのに、現実には効果を持ったことだ」と述べているのです。バーナンキ氏は、量的緩和に関する経済学の第一人者なので、この皮肉は衝撃的でした。

 とはいえ、実際に効果があったのは、なぜでしょうか。日本の場合は、円安が進んだことがあります。日銀が量的緩和を行なえば、日本円というマネーが増え、その価値は下がるように感じられます。そうなると他の通貨、例えば米国ドルに対して価値が下がるわけですから、為替は円安になります。

 円安が進むと株高というのが、日本の株式市場の経験則です。輸出企業が円安で儲かるから、という理由がよく挙げられますが、実際には輸出をあまりしない内需関連株も上昇しています。

 これは二つの理由があって、海外投資家から見ると日本の株がドル建てで安くなって「お買い得」になることと、もう一つは円安なら株高というイメージが投資家の間に定着していることです。

 実際には後者の心理的なコンセンサスが大きく、円安が進むと皆が日本株を買います。皆が買えば株価は上がります。その実績が積み上げられ、「法則」のように定着しますが、これは期待の自己実現が起きているだけです。

 量的緩和で株が上がる、というのも同じことです。

 量的緩和で株価が上がる、という実績が米国で積み上がったため、日本が量的緩和を拡大すれば日本株が上昇し、欧州で量的緩和が始まれば欧州株が上昇しました。投資家がそう思い込んで株を買い、その結果として株価が上がったのです。

●小幡績(おばた・せき)1967年生まれ。1992年東京大学経済学部卒、大蔵省(現・財務省)入省、1999年退職。2003年より慶應義塾大学大学院経営管理研究科准教授。『円高・デフレが日本を救う』など著書多数。

※週刊ポスト2015年8月14日号