木登りがあなたの脳を呼び起こす? 高山龍也/PIXTA(ピクスタ)

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 最近、頭に"キレ"がなくなった――。「あれ、いま何をしようとしたんだ?」と立ち止まる、話す途中で言いたかったことを忘れた......。

 思い当たることがあれば、あなたの脳のワーキングメモリが劣化し始めた証拠かもしれない。ワーキングメモリとは、何か目的を持って行動するときに、必要な情報を一時的に記憶しておく領域のことだ。

 たとえば、買い物で商品の合計金額やおつりの暗算をするとき。あるいは、会話で相手の話の内容を理解し、それを踏まえながら次の言葉を発するとき。このワーキングメモリがフルに活動している。

 また、仕事で新しい企画を考えるなど、クリエイティブな思考が求められる際にも使われる。ワーキングメモリの領域が広い人は、幅広く柔軟な発想で思考を繰り広げることが可能だ。

 その機能が低下していると、経験上の狭い領域にとらわれがちで、創造性が発揮されにくい。しかも、うっかりミスも増えてしまう。ビジネスパーソンにとっては、由々しき事態だ。

木登りやアスレチックなどのアクティビティで5割もUP!

 最近の研究では、ワーキングメモリは学習障害や発達障害のリスク要因として密接に係わっていることも明らかになり、世界中で注目されている。そんななか、世界的権威のトレーシー・アロウェイ博士率いる米ノースフロリダ大学のチームが、興味深い研究を発表した。

 木登りやアスレチックなどのアクティビティが、ワーキングメモリの改善にめざましい効果を発揮したというのだ。今回の研究では、被験者(18~59歳)のワーキングメモリをテストした後、3つのグループに分けた。

 第1グループは「木登り」「細い角材の上を歩くか這う」「姿勢に気をつけながら移動する」「裸足で走る」「上下左右の障害物を避けつつ移動する」「バランスが悪い物を運ぶ」など、体の向きとバランスに気を使いながら、同時に木登りのルート決定や移動を行うことが要求される運動を行った。

 第2は、大学で講義を受けて新しい情報に触れることで、脳の活性化を促すグループ。第3は、ヨガを行うグループだ。

 それぞれの活動を2時間にわたって行い、もう一度ワーキングメモリのテストを行った。すると、木登りなどを行った第1グループは、最初のテストよりも成績が50%もアップ。それに対して、他の2グループは、ワーキングメモリの向上はみられなかったという。

予期しづらい状況への対応と身体コントロールが、脳を鍛える

 なぜ「木登り」が、それほどワーキングメモリを向上させるのか。これは動的な「固有受容的運動」(関節の位置や関節の動き、変化を感じる運動)が鍵となる。

 つまり、自分が木の枝や角材の上を移動すると、状況や地形が次々と移り変わっていく。それに対応するためには、身体の位置や姿勢、運動を素早くイメージしてコントロールしなければならない。

 研究者は、「次が予期しにくい状況への対応と、それに要求される身体のコントロールが、ワーキングメモリを増強させるのだろう」と述べている。自分が動きながら、周囲の状況の変化に対応していくことがポイントだ。木登り以外にも平均台や、山道を走る「トレイルランニング」でも同じような効果が得られるという。

 ヨガも、固有受容な運動であるという意味では木登りグループと同じだが、木登りが「動的」であるのに対してより「静的」な運動になる。

 20~30代をピークとして、年齢とともに衰えていくといわれるワーキングメモリ。だが、こうした身近な運動で鍛え直すことができるなら試してみない手はない。
(文=編集部)