Mr.Childrenの桜井和寿が政治的発言をしない理由

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今年は戦後70年の節目の年。集団的自衛権を巡る話が活発化したこともあり、「戦争」について考えさせられる場面が今までより多かったのではないでしょうか。

さて、話は変わりMr.Childrenのツアーに2回ほど行ってきました。今年6月まで行われた「REFLECTIONツアー」と現在開催中の「未完ツアー」です。これらのライブでも「戦争」というものに対して考えさせられる、メッセージ性を持った場面がありました。

【戦争を暗示? Mr.Childrenライブ】


REFLECTIONツアーでは、ヴォーカルの桜井さんが「今年は戦後70年ということでちょっとだけ平和について考えながらこの曲をお届けしたいと思います」とMCで語った後、『口がすべって』を披露。この曲はケンカしても人は許し合う力を持っていることがテーマで、歌詞には「争い続ける 血が流れている 民族をめぐる紛争を新聞は報じてる」ともあるように訴えかけるものが強い曲です。
未完ツアーの方でも、「戦争」やさらに根源的な「愛」について考えさせられるような曲や演出がいくつか見られました。(ネタバレになるので、曲名などの詳細は避けます)
また、過去にさかのぼると2011年、3.11後初めてとなったライブツアーでは『everything is made from a dream』を披露しました。この曲は「何十万人もの命を一瞬で奪い去った核爆弾や細菌兵器 あれだって最初は名もない科学者の 純粋で小さな夢から始まっているんじゃないだろうか」という歌詞があり、原発について暗示しているように感じ取れます。

しかし、Mr.Childrenとしてそのような曲を披露しても、桜井さん自身はまったくと言っていいほど、ライブや雑誌などで政治的な発言をしません。『タガタメ』を披露するためにゲスト出演した「NEWS23」で故・筑紫哲也氏に自衛隊のイラク派遣についてコメントを求められたときと、雑誌のインタビューで数回ほど「9.11後にアメリカ的価値観が崩れたので、懸命に他の価値を探した」と語ったくらいでしょうか。
他のアーティストはライブなどで自らの主張(戦争反対、原発反対など)を語ることも珍しくないですが、決して桜井さんはこの手の主張を表明しません。

このスタンスは以前、桜井さんなどが環境問題をテーマに立ち上げたライブフェス「ap bank fes」でも同じで、桜井さん自ら「ごみを減らすために〜をしよう、温暖化を食い止めるために〜をしよう」と主張することはありませんでした。

それはなぜでしょう。これには桜井さんが持っている確固たる信念によるものなのです。

【音楽至上主義者である桜井和寿


桜井さんは「自分にとって宗教みたいなもの」と語るほど音楽に対して誠実です。そのため、あくまでも音楽によって表現したいと考えているのです。
2007年の『ROCKIN'ON JAPAN』でのインタビューでは

「ミュージシャンがライブ会場などでメッセージを発信することもあるが、彼らが信頼されてるのは音楽があってこそ。なのに自分自身が信頼されていると勘違いし、言葉を発信するのは謙虚ではない」

という趣旨の発言をしています。
ようするに、信頼されているのは音楽であってそれを歌う歌手ではない。だから歌手自身がMCなどで自分の主張をするのは、音楽に対して非誠実だというのです。
その上で桜井さんは「自分は音楽に対して向き合い、誠実でいたい」と語っています。

この考え方は先述の「ap bank」を始めたきっかけにも繋がります。元々、桜井さんは生活には一生困らないほど、音楽で大成功していることにある種の罪悪感を持っていました。
そこで、音楽を通して環境問題に向き合うことで、音楽で得た経験やお金をあくまでも"音楽"で還元しようとしたのです。
そのため、「自身がメッセージを発信することはap bankでも求められているかもしれないが、MCで環境問題のことを話すことはもってのほか。なんとしてでも音楽で解決したかった。」とインタビューで語っています。

【言葉よりも音楽を信じるスタンス】


このような考えを持つ桜井さんは音楽と歌の可能性をとても感じている一方で、言葉に対しては懐疑的だと語っています。
その理由は「物語が明確になっている方がつい正しいと思ってしまうが、言葉は人の思いを伝える情報なのにデフォルメしたり、大事なものをそぎ落としたりすることが多いなと思っている」から。
一方で音楽は、感覚的なものを人に感じさせる力があると語ります。そのため、自身が曲作りをする際も、的確に答えを言い当てるのではなく、あえて余白を作ってリスナーにいろいろなことを感じてほしいと考えているそうです。
だからライブでも自分たちは明確に主張せずとも、後はそれぞれのリスナーがなにかを感じとってほしいというスタンスなのではないでしょうか。

音楽を人一倍愛し、誰よりも真摯に向き合う桜井さん。今年NHKの『SONGS』で放送された密着ドキュメントでもその姿勢は存分に表れていました。
そんな桜井さんを一言で表すとしたら、「(an imitation) blood orangeツアー」で桜井さんを紹介する際のギター担当・田原健一の言葉が何よりも正確でしょう。

「誰よりも音楽を愛する天才・桜井和寿」

(さのゆう)
「Sound & Recording Magazine 2015年 8月」