会員数を伸ばし続ける「Apple Music」

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みなさんお久しぶりです、「同人音楽超まとめ」のAnitaSunです。

【Apple Musicの本質は「月額定額制」にあらず! 音楽体験を変える鍵となる機能とは?の画像・動画をすべて見る】

最近、「LINE MUSIC」や「AWA」はじめ、様々な定額制の音楽ストリーミングサービスの話題で持ち切りですが、KAI-YOU編集部と「Apple Music」について軽く世間話をいたしましたところ、「是非、記事にしてほしい」というオファーをいただき、突如寄稿することとなりました。

それといいますのも、本来SpotifyやApple Musicは、単純な「月額定額の音楽聴き放題サービス」ではありません。しかしながら、現状ではそのような側面しか紹介していないITメディアや音楽メディアが多く、「本来のApple Music」の姿が正しくユーザーに訴求されていないように見受けられます。

そこで、この記事を寄稿するに至ったという次第です。

題して「Apple Musicとはナニモノなのか、そして今後我々に何をもたらすのか」。

そして、それを考えるにあたって、競合するサービス、特に「Spotifyがどのようなサービスであるのか」の分析を通して、このテーマを紐解いていこう、というのが本記事の趣旨です。

まず、結論としては、「Apple Musicの音楽キュレーション機能がどこまで利用されるか(利用され得るよう、仕組みを広げていけるか)」次第で、Apple Musicが日本の音楽市場に与える影響は大きく変化するのではないか、と筆者は考えています。

つまり、このキュレーション機能が充実し、様々なメディアやWebサービスと連携して多くのユーザに利用されるようになれば、このストリーミングサービスは新しい音楽シーンの潮流として成立していくのではないかというのが、わたしの持論です。

数字から見た、Apple MusicとSpotifyの概要


「Apple Music」スクリーンショット

「Apple Music」スクリーンショット


早速Apple Musicの紹介に入りましょう。

みなさんご存知のApple Musicは、期間定額制(月額、年額…)の音楽聴き放題サービス(以後、単に「サブスクリプション」と呼ぶ)です。現在は初回3ヶ月無料キャンペーン中のため、破竹の勢いで会員数が増大し、ついには1,100万アカウントに到達しています。

そして、これが最も大事なことですが、Apple Musicには隠れた名曲をお勧めする「音楽キュレーションサービス」としての側面があります。ここの詳細は後述します。

一方で現在、サブスクリプションにおける全世界の覇者は、「Spotify」と呼ばれるスウェーデン発のサービスです。

「Spotify」スクリーンショット

「Spotify」スクリーンショット



2015年6月時点で、全世界での有料会員数は2,000万アカウント超。無料会員も含めたアクティブユーザー数だけでいえば、7,500万アカウントあります。Apple Musicと比べて、非常に大きなサービスであることがうかがえます。

また、権利者への支払額は総額30億ドル(およそ3,700億円)、楽曲数は3000万曲超、ユーザによって作成されたプレイリストの数は15億件にも上り、およそ世界60カ国でサービスインしているモンスターサービスです。[1]

次に音楽業界への影響ですが、まず本国スウェーデンでは、Spotifyのサービスイン後、音楽市場全体が3年連続でプラス成長したという結果が出ているほか[2]、一年遅れでイギリス、ドイツと、後を追って音楽市場全体の回復が見られています[3]。

Spotifyは以前より、様々な国の、様々な立場の人々から「便利だが、アーティストにとって有益かどうかは分からない」[4]と言われ続けていた“いわくつき”のサービスですが、結果としてヨーロッパ各国において、音楽市場にとって非常によい効果をもたらしたと言えるでしょう。

ただし、アメリカでは、現時点で音楽市場は縮小を続けています。アメリカは、先進国内ではSpotifyの進出が遅れた国の一つでもありますが、それとSpotifyに関係があるかは、わかりません。

そして、この巨人Spotifyと正面から競合する新興サービスが、Apple Musicです。

[1] http://www.businessinsider.com/spotify-now-has-20-million-paid-subscribers-75-million-users-charm-2015-6
[2] http://theconversation.com/spotify-nation-sweden-shows-why-streaming-is-future-of-music-23560
[3] http://www.musicbusinessworldwide.com/german-record-industry-4-4-streaming-income-jumps-87/
 http://www.digitalmusicnews.com/2014/10/07/spotify-now-profitable-uk/
[4] http://www.hypebot.com/hypebot/2011/09/vote-is-spotify-a-good-deal-for-artists.html

「音楽キュレーションサービス」としてのApple Music


さて、先ほどApple Musicのことを隠れた名曲をお勧めする「音楽キュレーションサービス」でもあるというご紹介をしましたが、これが一体何のことを示しているのか説明するために、先にSpotifyのキュレーション機能について。

まず第一に、「友達がいま、何を聞いているか」がすぐに分かる機能があることが挙げられます。これは起動直後の画面の右側に"See what your friends are playing"という大きなカラムがあることから分かるでしょう。

また、Facebook(世界で最もユーザー滞在時間の長いサービスの一つ)とも連携機能があり、100人の友人がいれば、その100人の今聞いている楽曲を互いに知ることができる、非常に強力な機能です。

また、Spotifyが一切サードパーティに開発を任せられなかった[6]といわれるほどのコア機能として、自動編成ラジオ機能「Spotify Radio」があります。発表当時は全く使うに耐えられない酷い代物であったようですが、現在は多くの耳の肥えたユーザーにとっても「使える」クオリティに仕上がっています。

また、Spotifyの拡大を決定づけたのは、SpotifyのAPIを公開し、サードパーティが自由に「Spotify App」をつくることができるようにしていたという点が大きいでしょう。

有名無名無関係に注目すべき次世代の音楽を積極的に取り上げて「ファミ通のように得点を付けていく」ことで知られるPitchfork誌の全レビューからSpotify内で楽曲を探索できるAppや、Rolling Stone誌やThe Guardian誌といった名だたる音楽メディアがつくったApp、当時自動オススメ機能では先行していた「last.fm」と連携したApp、楽曲の歌詞を表示してくれる音楽プレイヤー「TuneWiki」と連携したApp、「turntable.fm」のようにみんなで部屋に集まってDJしあう機能を提供する「Soundrop」のAppなどなど……

それらサードパーティによって提供されたAppが、Spotifyにおいて、キュレーション面で重要な役割を果たしていました。このような横の広がりがあったからこそ、ユーザーに飽きられずに利用し続けられたのです。

ちなみにSpotify Appは、元々Spotifyのアプリケーション本体の中で動くアプリ群だったのですが、今年の頭に機能としては廃止され、代わりにWeb上のリンクからSpotifyを起動し、Web経由でSpotify本体を操作する形式に変わりました。

現在でももちろんPitchfork誌の各レビューページにもちゃんとSpotifyウィジェットが埋め込まれていますし、このように様々な音楽関連Webサービスやメディアと連携し、Spotifyは今もなお大きなシーンをつくりあげています。

「音楽キュレーションサービス」なんて側面は大したものではないんじゃないのか、と思っていた方も、そういった文脈を知れば納得されるのではないかと思います。

それに対抗するApple Musicには、現時点では世界中の音楽ラジオ(自動編成ラジオではなく、本当のラジオ)が聴ける機能や、同じくユーザーの試聴傾向を学習した自動レコメンデーション機能、ユーザーによるプレイリスト機能などがあります。

あとは、これらの機能を「Spotifyが行ったように」戦略的に広めていけるかが、ユーザーが継続的に使用し続けるかどうかのカギになるだろう、というのがわたしの考えるところです。

[6] http://www.musicman-net.com/SPPJ01/17.html

過去の音楽サービスから紐解く、Apple Musicのポジション


さて、これらのサブスクリプションサービスの未来を占う上で欠かせないのが、今のサブスクリプションサービスが、過去の音楽サービスからどのような進化を遂げ、今の姿で存在するのか、という視点です。

これまで紹介してきたようなSpotify、Apple Musicの仕様が、どのような変遷を経て生まれてきたものなのか。少々遠回りなお話となってしまいますが、どうかお付き合いください。

まず最初期には、P2P技術を用いた音楽ファイル共有サービス(!)であったNapsterと、最初に月額定額ストリーミングサービスとして成功したアメリカ発のRhapsodyがありました。Rhapsodyに遅れる形で、Napsterもすぐに同様のサブスクリプションサービスをスタートします。

「Rhapsody」スクリーンショット

「Rhapsody」スクリーンショット



ここから分かる通り、サブスクリプションサービスは、違法ダウンロードや流出事件の温床だったファイル共有サービスを出自の一つ(!)としていて、Groovesharkのような違法音源アップロードサービスが最近まで残っていたのも、この流れの延長上にあると言えるでしょう。

一方で、もう一つの大事な潮流として、last.fmから始まった楽曲キュレーションサービスの流れがあります。 当時人気だったWimampなどの音楽プレイヤーに専用ツールをインストールすることで、聴いた楽曲情報をlast.fmのサーバにどんどん吸い上げ(Scrobbleと呼ばれる)、その情報をユーザー同士でシェアするサービスで、ほどなくしてlast.fmもその膨大なデータベースを使ったレコメンデーション機能を武器に(!)、ラジオサービスを始めます(余談ですが、えっちな動画を見た履歴もScrobbleされました)。

「last.fm」スクリーンショット

「last.fm」スクリーンショット



そしてその後生まれた最重要サービスと言えば、北米のみで展開しているPandora Radioでしょう。こちらも、ユーザが自由に楽曲を選択して聴くことができないサブスクリプションサービスで、いうなれば自動編成ラジオのみに特化したサービスです。

「Pandora Radio」スクリーンショット

「Pandora Radio」スクリーンショット



音楽アーティストが立ち上げたサービスで、音楽業界の関係者が実際に提供された全楽曲を聞き、100以上のパラメータを人力で楽曲に割り振っていくことで、「どのような楽曲か」をサーバーに人力でインプットした上で、それを自動編成ラジオとして流すという大変血生臭い(!)ものでした。

この自動編成ラジオは友達と共有することができるのも大きな特徴の一つで、なにしろSpotify立ち上げ直後は、「Spotifyはどのようにして巨人Pandora Radioに勝つのか」とさえ言われていたほどの強力無比な機能でした。

以上のような流れがあった上で、ついに、Pandora Radioやlast.fmに対抗するキュレーションエンジンや、更にはFacebookをはじめとした各種Webサービスとの連携などに主眼をおいた「Spotify」が登場するわけです。

このような歴史から分かる通り、キュレーションエンジンが如何にサブスクリプションサービスにとってのコア機能であるかが、うかがい知れるはずです。

さて、ここから登場するのはSpotifyに対抗する各種新興サブスクリプションサービスです。Deezer、MOG(Music Of Glory)、Tidalなどが最大の対抗馬となり得ましたが、うちMOGはヒップホップアーティストのDr.Dreがマネジメントするオーディオ機器メーカーであるBeatsに買収され、Beats Musicというサービスに生まれ変わります。

Beats Musicの特徴の一つに、プレイリストを作成するキュレーターとして、先ほど挙げられたようなPitchforkやRolling Stoneといった様々な音楽誌やラジオ等のメディアと提携をしていることが挙げられ、やはりそこかしこにSpotify Appへの対抗意識を感じます。

察しの良い方はすでにお気付きだと思いますが、このBeats Musicを更に買収し、立ち上がった音楽サービスが、他でもないApple Musicなのです。

だからこそ、Apple Musicというサービスの肝心要は、「音楽キュレーションサービス」としてどういう役割を果たせるのか? という点に尽きるのです。

Apple Musicの未来


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初回3ヶ月無料を打ち出す「Apple Music」の行方は?


さて、ここで敢えてApple Musicへの厳しい見方の例を挙げましょう。

現在Apple Musicには、「過去のサービス群が見せたような大きなイノベーションがどこにもない」、という批判があります。[7]また「無料期間が終わっても使い続けてくれるユーザーは、多くないのではないか」という厳しい見方も少なくなく[8]、その意味においてSpotifyを追うには1,100万アカウントでも足りない[9]という観方さえあります。

さらには、いまだにSpotifyでさえ黒字に到達していないという現実を前に[10]、iTunes Storeとの連携がうまくいかない限りはApple Musicも黒字化が容易でないことが想像できます。

以上のような意見もあるものの、まだまだ立ち上がったばかりで、かつApple IDやiPhone、iTunes Storeという強力な武器もあり、これからいかようにも進化が可能なApple Musicです。

そしてまた、「ストリーミングサービスは一部の有名なアーティストに視聴回数が偏りやすい」という意見が数限りなくある以上、まだまだキュレーション機能は大きな進化が求められていることに間違いはありません。

以上の様々な事柄から、サービスの未来へのカギは「キュレーションの仕組みの充実化と、その横展開」にあるのではないかというのが、わたしの意見でした。

特に日本においては、まだキュレーション関連において連携の意を示したメディアやサービスの情報なども明らかにされておらず、これからどのように業界のプレイヤーたちが仕掛けていくのか、そこにこそ着目するべきなのです。

「音楽が聴ける」だけなら、現状のYouTubeでも十分です。また、昔のように、音楽チャートをチェックしないと友達同士の話題についていけない時代は終わり、私たちが新しい音楽の情報を交換しあう機会も失われています。だからこそ、このスキマに斬り込んだサービスが、現代の「音楽サブスクリプションサービス」なのです。

「自分の趣向から分析されたオススメ作品」や「ラジオ」、そして「勝手に目に飛び込んでくる導線設計の、音楽メディアや音楽マニアの知人による、信頼あるプレイリスト」等々を上手に仕掛けていけるかどうかが、Apple Musicそして音楽業界の未来を左右すると、私は信じています。

[7] http://www.forbes.com/sites/georgehoward/2015/06/13/the-trouble-with-apple-music-it-needs-to-be-more-like-beats-by-dre/
[8] http://www.hypebot.com/hypebot/2015/07/apple-music-streams-a-small-fraction-of-spotifys-says-indie-distributor.html
[9] http://www.hypebot.com/hypebot/2015/08/vote-11-million-have-signed-up-for-apple-musics-free-trial-are-you-impressed.html
[10] http://www.wsj.com/articles/spotify-revenue-rises-in-2014-but-still-in-red-on-heavy-investments-1431102236