今夏に日本上陸したXEは、もっとも新しく、もっとも小さいジャガーだ。サイズや価格はBMWの3シリーズ(第37回参照)と同格で、世界的にもっとも売れ筋のクラスでもある。

 ジャガーのような高級車ブランド世界は現在、BMW、メルセデス、アウディという"ドイツ御三家"が牛耳っているが、これらドイツ御三家は大中小(3機種)のセダンをそろえるのが定石。このXEの登場で、英国ジャガーもXE、XF(第38回参照)、XJ......と、3種類のセダンがならぶことになった。

 もっとも、ジャガーがこのクラスを出すのは初めてではなく、前身のXタイプから約7年ぶりの復活である。ただ、Xタイプは当時の親会社だったフォードをベースとした前輪駆動(と4WD)で、ハッキリいってヒット商品とはいえず、だからこそ続かなかった。新しいXEはそのリベンジでもあるわけだ。

 以前のXタイプがちょっとクチ悪くいうと"フォードの高級版"でしかなかったのに対して、新しいXEは骨の髄から純血のジャガーであり、このクラスではお約束のツボともいえる後輪駆動レイアウトを採る。しかも、XEのボディは75パーセントが軽量なアルミ合金製。最近のクルマづくりで軽量化は絶対にはずせないツボであり、アルミ比率はジャガーにかぎらず上昇するいっぽうだが、XEのアルミ使用率はこのクラスでトップである。

 内外装デザインもお馴染みのジャガーのお約束を徹底して守っていて、正直いうと、新鮮味がないかもしれない。ただ、鼻先が長くてベタッと低い全高に猫背スタイル、囲まれ感のある運転席......と、「セダンなのにスポーツカーみたい」というオーラは素直にカッコいい。なんだかんだいって、クルマのカッコよさのツボというのは昔から変わっていない。ましてセダンのような古典的ジャンルなら、なにより基本文法を守るのが、カッコいいクルマをつくる最強のツボというものだ。

 XEは走りもジャガーそのもの。身のこなしは軽やか。"スポーティ"を標榜するわりに、動きはゴリゴリというよりヒラヒラという感じで、操作系を軽いタッチで統一するのも昔ながらの英国風味がジャガーのツボだ。

 とくにスルーッと絹のように滑らかなのに、ピタッとリアルに決まるステアリングの手応えは、もう絶品というほかない。エンジンは今流行のダウンサイジングターボの4気筒だが、マニア好みの高音サウンドと右足直結系のレスポンスで、額面以上に速い感覚を絶妙に醸し出すことに成功している。このクラスでは比較的ボディが大きめなこともあってか、アルミ多用でも絶対的には超軽量とはいえないのだが、運転感覚はとにかく軽いのだ。

 それにしても、前記のXFや、最近もホメちぎったFタイプ(第98回参照)もそうだが、今のジャガーはデザインだけでなく、走りのツボについてもスジが一本通っていて、どれに乗ってもジャガー......なのがステキ。ステアリングを今風にギュッと握るのではなく、指で軽くつまむように優しく操作するとドンピシャにクルマと一体化できるのが、ドイツ御三家と明らかにちがうツボ。ジャガーと同じくドイツ御三家に対する挑戦者を自認するブランドでも、日本のレクサスやスウェーデンのボルボあたりが、どちらかというと、年々ドイツ化しているのとは好対照である。

 現在のジャガーはインド最大財閥のタタグループ傘下にある。タタもクルマをつくっているが、タタ車は簡素な低価格車と商用車が主力であり、高級乗用車専門のジャガーと技術を共通化するようなレベルにない。以前の親会社だったフォードがよくも悪くも、ジャガーにカネもクチも(そして、ときには部品などのモノも)出したのに対して、タタはジャガーに「カネは出すけど、クチは出さない」のが基本姿勢らしい。

 ジャガーは戦前からある老舗ブランドだが、ほかの英国メーカー同様に何度となく経営危機におちいり、親会社も二転三転した。ただ、世界の自動車産業には「英国車こそクルマの元祖」という、どこかサッカー界に似たリスペクトがあって、他国資本になっても、英国車ブランドのクルマづくりの根幹がイジり壊された例は少ないのが面白い。そんな紆余曲折を経て、理想的なパトロンを得た最新ジャガーも、本当にツボなクルマばかりがそろう。そのなかでもXEは今もっとも手頃(といっても、けっこう高いけど)で、イケてるジャガーである。

佐野弘宗●取材・文 text by Sano Hiromune