東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HPより

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 東京五輪エンブレムのパクリ問題が意外な方向に飛び火した。ベルギーのデザイナーから告発を受けた博報堂出身のアートディレクター・佐野研二郎氏は会見で、「全く似ていない」「リエージュ劇場のロゴを見たこともない」「ものをパクるということは一切したことはない」と主張していたが、別のデザインでもパクリ疑惑が浮上したのだ。

 問題になったのは、サントリーの「オールフリー」のキャンペーンプレゼント用トートバッグで、30種類のデザインから好きなものを選べることになっていたのだが、そのうちの半分近くに、ネット上で「ネット画像をパクっている」「別のデザインとそっくり」と指摘する声が上がった。

 しかも、今回は五輪エンブレムのように言い逃れできるレベルではなかった。たとえば、そのひとつに「BEACH」というアルファベットの入った矢印看板のデザインがあるのだが、これが「セカンドライフマーケットプレイス」というサイトに掲載されている「BEACH」の矢印看板デザインに、形も色も書体も、さらにヨゴレ具合までが全く同じ、ちがうところが何一つないのだ。

 また、フランスパンをあしらったデザインは、個人ブログのフランスパンの写真をそのままトレースしたとしか思えないものだった。

 実際、サントリーは佐野氏からの申し出で30種類のトートバッグのうち8種類のデザインを取り下げることになった。

 東京五輪エンブレムのパクリが問題になったとき、多くの広告、デザイン関係者は「佐野のような名のあるデザイナーが、パクリのようなリスクをおかすはずがない」「五輪エンブレムのような世界から注目されるデザインはバレる確率が高いのに盗作なんてするはずがない」とかばったが、今回のケースは誰がどう見てもパクリ、盗作だろう。
 
 そもそも、デザインの盗作というのは、佐野氏クラスの有名デザイナーでも十分起きうることだ。いや、佐野氏クラスだからこそ起きるといったほうがいいかもしれない。というのも、彼らの多くはアートディレクターシステムをとっており、事務所に数人から数十人のデザイナーを抱え、実際のアイデア出しやデザインを配下のスタッフにやらせているからだ。

 こうしたアートディレクターシステムをとっている事務所が大きなプロジェクトをやる場合は、まず、社内コンペのようなものを実施。元になるデザイン案をスタッフのデザイナーたちに大量に考えさせ、その中からアートディレクターが気に入ったものを選んで、ブラッシュアップし、自分の名前で発表するケースが少なくないという。

 たとえば、大人気になった「くまモン」は、アートディレクター水野学氏の作品として知られるが、実際は彼の事務所グッドデザインカンパニーのスタッフが発案したもので、それを水野氏が自分の名前で発表したことを「週刊文春」(文藝春秋)に暴露されている。

 佐野氏の事務所であるMR_DESIGNも同じようなシステムをとっているようだが、こうした場合、デザイン事務所によっては、配下のデザイナーに「明日まで100案を考えてこい」などといった厳しいノルマを課すケ―スも少なくない。その場合、デザイナーが過去のデザイン集や海外のデザインなどを参考にしながら、なんとかしぼりだす、というのもよくあることらしい。

 おそらく、今回もスタッフのひとりがアイデアに窮してネットの画像をパクり、佐野氏が気づかず出してしまった可能性が高い。実際、「日刊ゲンダイ」が昨日13日の記事で、MR_DESIGN広報担当をつとめる佐野氏の妻に直撃しているのだが、その際にこう答えている。

「確かにトートバッグのデザインを監修したのは佐野です。しかし、細かい実務を担っていたのは"部下"です。その部下たちの話を聞いた上でないと、返答はできません」

 いつのまにか、佐野氏は"監修"になっているのだ。おそらく、佐野サイドはこのサントリーのトートバッグの盗用について、そのうち「部下がウェブサイトのデザインを参考にしていた」などの発表をするだろう。

 しかし、それはけっして、佐野氏に責任がないということではない。むしろ、スタッフが出したアイデアやデザインを会社名でなく、トップのアートディレクターの名前で発表するというこのシステムが異常なのだ。

 そして、最大の問題は、東京五輪のデザインも同じ構造から生み出された可能性が高いことだ。佐野氏自身はリエージュ劇場のロゴを見たことがなかったとしても、原案をつくったスタッフが参考にしていた可能性はある。それをたまたま佐野が気に入り、それらしい文脈を考え、コンペに出したところ、通ってしまった――。そういうことではないのか。

 いずれにしても、ここまで疑惑が広がった以上、東京五輪エンブレムは国立競技場の二の舞にならぬよう、早めに白紙撤回すべきだろう。
(時田章広)